コロナ禍で自身や家族の将来について考えた人も少なくないだろう。終活は、納得の人生を全うするための大事な取り組みの一つだ。

長生きリスクへの対応が必要な時代に

最期まで自分らしい人生を送るため、また残された家族などに迷惑をかけないための備えである「終活」。この言葉が日本社会に浸透している背景には、日本人の長寿化がある。

誰しも長く生きていれば不測の事態に見舞われる可能性、つまりリスクは高くなる。リスクが高まれば、それに対する準備がいっそう大事になるのはビジネスも人生も同じだ。

戦後日本の平均寿命は着実に増加。図のとおり、1970年に69.31歳だった男性の平均寿命は2020年、81.34歳に、同じく女性のそれは74.66歳から87.64歳になると推計されている。男女とも12~13歳ほど延伸している形だ。気力や体力が徐々に衰え、一般に収入も減少する高齢期がこれだけの期間伸びるとなれば、なるべく早いうちから備えておくことがやはり重要となる。

出典:内閣府「令和2年版 高齢社会白書」 1950年は厚生労働省「簡易生命表」、1960年から2015年までは厚生労働省「完全生命表」、2018年は厚生労働省「簡易生命表」、2020年以降は国立社会保障・人口問題研究所「日本の将来推計人口(平成29年推計)」の出生中位・死亡中位仮定による推計結果。1970年以前は沖縄県を除く値である。0歳の平均余命が「平均寿命」である。

ただ、“50歳からの終活”は少し早いと感じる人がいるかもしれない。50代といえば、子育て中であったり、住宅ローンを抱えていたりという人もまだ多いはずだ。終活はそれらが一段落してから、という気持ちもわかる。

それでも、お金のプロであるファイナンシャルプランナーには、「50代は老後について真剣に考える適齢期」という人が少なくない。理由は、この時期からは自身の努力や頑張りだけではどうにもならないことが確実に増えてくるからだ。健康面もそうだし、セカンドキャリアについても早めの準備が大切。また、将来の公的年金の見込額や退職金の額も見えてくるので具体的な計画が立てられる。

「対策の選択肢が確保できるタイミングで行動を起こすことが肝心」。これがリスク対策の基本だ。まずは、現在の暮らしと資産の状況を見つめ直し、できるだけ具体的に将来のイメージや目的を持つことが重要である。

一つ整理がつけば次の行動が見えてくる

50代の「自身の努力や頑張りだけではどうにもならないこと」にはもう一つ、自身の親の問題がある。例えば要介護率は、65~74歳が2.9%なのに対して、75歳以上では23.3%と大きく上昇する。50歳前後は、親へのサポートが本格的に始まる時期でもあるのだ。

出典:内閣府「令和2年版 高齢社会白書」 厚生労働省「介護保険事業状況報告(年報)」(平成29年度)より算出(経過的要介護の者を除く)。 ( )内は、65~74歳、75歳以上それぞれの被保険者に占める割合。

しかも、「令和2年版高齢社会白書」(内閣府)によれば、65歳以上の人口に占める一人暮らしの人の割合は、1980年に男性4.3%、女性11.2%だったのが、2020年には男性15.5%、女性22.4%に上昇し、人数でいえば男女合わせて、約88万人から約592万人に増加(2020年は推計値)。親と離れて暮らす子世代が増えている状況がある。

離れて暮らしていると、高齢の親の日々の変化をなかなか把握できない。先ほどの要介護率の上昇もそうだが、高齢になると、短期間で心身の状況が大きく変化する場合も多い。すると、現役世代以上に突然“対策の選択肢”が減ってしまう。やはりここでも、早めの対策が有効なのである。

もちろん一口に「終活」といっても、その範囲はお金、モノ、人間関係など幅広い。まずは身の回りの整理などから始めていくのがいいだろう。一つ整理がつけば、次にすべきことも見えてくる。それを積み重ねていくことで、求めている人生のあり方もはっきりしてくるに違いない。

ファイナンシャルプランナーの山田静江さんに聞く
親の終活のサポートは、こうして始める!

山田静江(やまだ・しずえ)
CFP®認定者
終活アドバイザー
都市銀行や会計事務所、独立FP会社勤務を経て、2001年に独立。株式会社WINKS代表取締役、NPO法人ら・し・さ副理事長を務める。

──高齢になった親を支えていくにあたって、どんなことから始めるのがいいでしょうか。

【山田】例えば、皆さんは自分の親の持病やアレルギーについて知っているでしょうか。突然倒れて、病院に運ばれれば、病歴や手術歴、服用している薬などは必ず聞かれること。いざ入院、手術となる前につかんでおきたい基本情報です。

また認知症対策という観点では、好きな食べ物や好きな音楽、暮らしの中で大事にしていることなども押さえておきたいところ。介護の専門家はそうしたことがわかると、いい介護ができるといいます。現在はコロナ禍で直接会うことが難しいですが、時間を見つけて電話やオンライン通信でじっくり話したり、「エンディングノート」を聞き書きしてあげたりするのもいいでしょう。

──あらためて親を知ることが大事ですね。

【山田】そう思います。まず親子で情報を共有してから、具体的な対策を立てるのが肝心です。モノの片付けなども、思い出話を聞きながら、一緒に進めるといろいろなことがわかります。

──財産管理や相続の関連では、どのような準備が必要でしょうか。

【山田】財産管理について、認知症になると銀行口座からの預金の引き出しや不動産の管理・処分などができなくなることがあります。“親が将来のために蓄えていたお金を介護に使えない”といったことにならないよう、「金融機関に代理人を登録しておく」「親子で任意後見契約を結んでおく」などの対策を取っておく必要があるでしょう。

相続対策として、資産の組み換えや処分、遺言書の作成を行う場合も、元気なうちに行っておくのが基本。認知症に限らず、年を取ると人は物事を判断したり、書面を作成したりすることがおっくうになるからです。

──これから親の終活のサポートをしようと考えている人に一言お願いします。

【山田】終活というのは、その人にとって人生の集大成。苦しかったこと、楽しかったことの総括でもあります。子どもの側は、親の思いをきちんと聞いて、感謝を伝えながら、サポートしてほしいと思います。感情の行き違いが起きてしまうと話が進みませんから、無理強いせず、明るく前向きに。これが大切です。