コロナ禍の影響もあり、都市部から地方への移住に関心を持つ人が増えている。そうした中で注目を集めているのが島根県だ。都内の島根県移住相談窓口には、前年比(4-10月期)で約2倍の相談が寄せられているという。その魅力はどこにあるのか──。2015年に松江市に移住し、現在出雲市に住む野宗輝邦さんに聞いた。

かつては連日終電で家では寝るだけの生活

──現在のお仕事について教えてください。

【野宗】東京に本社があるIT関連企業の松江ブランチに在籍し、ウェブメディアのプログラマーをしています。コロナ禍以前は松江のオフィスまで30分ほどの自動車通勤をしていましたが、現在は完全に在宅でのリモートワーク。島根県はIT産業の誘致に積極的で、知り合いにも他県からの移住者は少なくありません。ネット環境も整備されているため、快適に働くことができています。

──島根県に移住した理由は何ですか。

【野宗】ハードワークを解消し、自身も子育てなどに関われる環境をつくりたかった。これが大きな理由です。移住前、大阪のゲーム会社に勤めていたときは連日終電で帰宅し、家では寝るだけ。その頃に子どもが生まれ、半年間は育児休暇を取りましたが、終了後は結局元どおりで頭の中は仕事のことばかりでした。このままでは家族にとっても、自分にとっても本当にまずいと強く感じ、妻の実家があった島根県への移住を決めました。

もともと庭にあった柿の木の実を軒先で干し柿に。

──現在の生活はいかがですか。

【野宗】結論から言えば、非常に満足しています。大変なのは庭の草刈りくらい(笑)。今は里山のふもとの古民家をリノベーションして住んでいるので手入れが必要なんです。ただ逆に、庭先につくった家庭菜園をいじるのが毎日の小さな楽しみ。もともと園芸にはまったく興味がありませんでしたが、やってみるとこれが楽しい。ほかにも、家族で干し柿をつくってみたり、ワーク・ライフ・バランスという面では正直かつてとは比較になりません。

“受け入れてもらえるか”という心配は杞憂だった

──島根県の特徴や魅力についてはどう感じていますか。

【野宗】都市の便利さと田舎の豊かさ、この両方をいいとこ取りできるのが魅力です。松江市に住んでいたときは徒歩圏内にスーパーもあり、街中を希望する人には絶好の場所でした。今の出雲市の家からも商店まではクルマで7、8分なので不便は感じません。実際、住まいを選ぶにあたっては、田舎すぎないことを重視しました。無理なく通勤や通学ができ、商業施設や病院などにもアクセスしやすい。県内にはそうしたエリアが多くあります。一方で私たち夫婦は、のんびりと気楽に家族中心の生活を送りたいと考えていたので今の里山を選びました。

野宗さんは、夫婦と子ども1人の3人暮らし。コロナ禍以降は、100%リモートワークの日々を送っている。「自宅で家族と気楽に過ごすのが何より。今は子どものため、また自分のために時間を使うことができ充実しています」と語る。

──そのほか、暮らしてみて感じることはありますか。

【野宗】豊かさという面ではやはり自然環境が充実していますね。自宅からは湖、山、川、海のいずれへもクルマで30分かかりません。また島根はさまざまな食べ物やお酒も有名で、スーパーで立派なカニが何百円かで売っているのを見たときは驚きました。

引っ越しに際して、“地域の人たちに受け入れてもらえるか”という心配はもちろんありましたが、結果として杞憂でした。皆さん優しく、町内会の会長さんも「地域の高齢化が進む中で、移住してくる人たちをオープンに受け入れるべきだと常々話していた」とおっしゃっていました。私自身、町内会に入って地域の行事などにも参加しています。

手厚い移住支援も大きな助けに

──今の生活で幸せを感じるのはどんなときですか。

【野宗】言葉にするとありきたりかもしれませんが、子どもと裏山にどんぐりを拾いに行ったり、自宅で家族そろってご飯を食べたり。そんな時間が何より幸せです。もともと家族と一緒に自分らしく生きたいというのが移住の目的。おかげさまで十分に達成できていると感じます。

最近、空き家のリノベーションを推進し、個人と地元工務店、地域をつなぐプロジェクトも始めました。いろいろな人とつながりながら、やりがいを持って地道に取り組んでいけたらと思っています。

──最後に、島根県への移住に興味を持つ人へメッセージをお願いします。

【野宗】これまで私は東京に15年、関西に5年ほど住みましたが、今の島根暮らしが一番充実していて、体も軽くなりました。県内にはいろいろな地域がありますので、まずは興味を持った場所の賃貸住宅などに住んでみて、自分に合うかどうか確かめてみるのもお勧めです。

島根県、また県内の各自治体の移住支援策はとても手厚く、私も家探しの期間の滞在費補助や住宅取得の支援制度などを活用させてもらいました。移住の相談窓口も県内外に複数設置されていますから、まずはそうしたところにアプローチして、島根県の魅力を知ってほしいと思います。

芳賀健人(はが・けんと)
島根県 地域振興部
しまね暮らし推進課 課長

仕事、子育て、生きがいのある豊かな暮らし
島根の多様な魅力が支持されています

地方の人口減少が問題となる中、島根県はいち早く1992年を“定住元年”と位置づけて、ふるさと島根定住財団を設立。以来、30年近くにわたって移住支援を行ってきました。その中で培ってきた支援ノウハウは他県にない強みだと自負しています。

職住近接で通勤時間が短く、帰宅時間も早い。育住近接で待機児童もほとんどいない。子育て環境は充実していて、合計特殊出生率も全国3位(2019年)です。

また求人のある業種も多彩で、UIターン希望者には無料の職業紹介も行っています。地域の企業では、“手触り感”のある仕事ができる。やりがいを求めている人には絶好の環境です。

加えて他県出身の私が感じるのは、島根県には趣味やスポーツ、地域活動など仕事以外にも打ち込めるものを持っている人が多いということ。それが精神面の充実につながっているように思います。

県外にも、東京、大阪、広島に移住相談の窓口を設置するほか、松江では、現在オンライン相談も受け付けています。“島根を知りたい”という方は、ぜひ気軽にお声かけください。

島根暮らしのリアルを伝える「Craftsman's Base Shimane」の活動も実施中。

Craftsman's Base Shimane
手を動かすなかで、新しい生き方を探る。たしかな手触りをもった、自分らしい暮らしを作る。そんな島根のクラフツマンたちとつながる場「Craftsman’s Base Shimane」