新型コロナウイルスの感染拡大は金融市場にも大きな影響を与えている。ただ、投資において“変化はチャンス”でもある。そこで今回、金融情報配信会社のフィスコでアナリストを務める馬渕磨理子氏と、投資信託の運用会社である三井住友DSアセットマネジメントでファンドマネージャーを務める古賀直樹氏にインタビューを実施した。コロナ収束後を見据えて投資家は何に注目すべきか。また、古賀氏が運用を担当する「アクティブ元年・日本株ファンド」はコロナ禍とどう向き合っているのか。金融のプロである2人に聞いた。

人々の行動、意識が変わる中で注目したい投資対象

――感染症の拡大によって、私たちの働き方や暮らしにもさまざまな変化が見られます。

馬渕磨理子(まぶち・まりこ)
テクニカルアナリスト
同志社大学法学部卒業。京都大学公共政策大学院で、法律、経済学、行政学、公共政策を学び、修士課程を修了。その後、医療法人で資産運用・管理を行い、そこで学んだ財務分析・経営分析を生かし、金融情報配信会社であるフィスコでアナリストとして、個別銘柄・市況の分析を行う。また、上場企業を多数訪問し、社長インタビューを通して独自の目線で上場企業を分析したIR活動も力を入れている。そのほか、日本クラウドキャピタルでマーケティングに従事。

【馬渕】ご存じのとおり、リモートワークが急速に拡大していますし、遠隔診療などへのニーズも高まっています。オンライン環境の整備はもちろん以前から行われてきましたが、今回一気に進展しました。“やらざるを得ない状況”に直面し、実際にやってみたら「案外できる」「思っていたより効率的だ」という声は多く聞かれます。

【古賀】確かに、今回のコロナ禍はデジタルトランスフォーメーションを後押しする大きな力になっています。単にデジタルツールを活用しようということではなく、経営者が業務プロセスや人事制度も含めて真剣に考え始めています。またビジネスの分野だけでなく、馬渕さんがおっしゃった医療、さらに教育など、社会全体でデジタル化が進んでいます。危機対応を契機に、すでに進行していた変化が加速している。これは、今後の社会、経済活動を考えるうえで大事な視点です。

【馬渕】一方で、今回私たちの心もさまざまな形で影響を受けていますね。例えば慣れ親しんだ飲食店やメーカーが窮地に立たされる中、それをなんとか支えたいとこれまで以上に意志を持って消費する人が増えています。

【古賀】意識や価値観の変化ですね。これも、消費行動に直接影響する部分ですから、投資の観点からは見逃せません。あわせて、身近なモノやコトを再評価する動きも広がっているように感じます。地元の商店街や食品スーパーのありがたみ、またレトルト食品や冷凍食品のおいしさ、利便性など。こうした見直しの動きは、コロナ収束後も一定程度継続すると思います。

――そうした中で、投資対象としてはどのような分野、産業が注目でしょうか。

【馬渕】やはり5G関連やシステムインテグレーターなどは、今後活躍の場が増えるでしょう。また、食品や運輸関連でも、コロナ禍の初期に大きく売られたところがあります。そうした企業の反発もしっかり見ておく必要があると思います。

古賀直樹(こが・なおき)
三井住友DSアセットマネジメント 株式運用第一部 アクティブチーム
シニアファンドマネージャー
1997年に千代田生命保険(現ジブラルタ生命保険)入社。翌年から国内株式運用業務に従事。その後、2001年3月にトヨタアセットマネジメント(現三井住友DSアセットマネジメント)に入社し、同社を代表するアクティブファンドの運用を立ち上げから約10年間担当し、リスクを抑えつつ市場平均を上回る良好な実績を残す。三井住友DSアセットマネジメントでは、徹底したリサーチに基づく銘柄選択手法に磨きをかけ、機関投資家向けファンドの実績に貢献。

【古賀】5G関連では、通信会社だけでなく部材供給や工事を行う周辺産業も注目です。また、在宅ワークが広がる中で副業や兼業への関心が高まっています。それらを支援する新たなサービスも期待されますし、働き方の変化をとらえれば転職サービスなども注視しておきたいところです。

【馬渕】リモートワークの拡大を少し別の視点から見ると、より充実したコミュニケーションへのニーズも高まっていると感じます。物理的な距離が心の距離にもなっていて、それを縮めたいという思いを多くの人が持ち始めています。

【古賀】さらにアフターコロナには、人が集まることの価値も再評価されるでしょう。これからのコミュニケーションのあり方にビジネスチャンスを見いだす企業も注目です。

――すでに進行していた社会変化の加速、意識や価値観の変化、そして身近なモノやコトへの再評価に目を向けることで、いろいろな投資の可能性が見えてきます。

【馬渕】まさに、いまの変化をいかにチャンスにするかだと思います。現にコロナ禍によって割安感が出ている銘柄は数多くありますし、新たに躍進する企業も必ず出てくる。今回、経済も社会も大きな打撃を受けました。しかし、金融危機が起きているわけではありません。その意味では、やり方しだいでリターンを得るチャンスは十分にあると私は考えています。

【古賀】実際、私たちが運用する「アクティブ元年・日本株ファンド」については、コロナ禍において資金流入は増加傾向にありました。これは「見込のある企業に選別して投資したい」という投資家の皆さまの思いの表れととらえています。それを受け、経済、社会の動きをつぶさに見ながら、銘柄の入れ替えや買い増しなどを積極的に行っています。

年間2000社以上を取材し、企業の強み、底力を見極める

――「アクティブ元年・日本株ファンド」は、その名のとおり日本株を対象としたアクティブファンドで2019年2月に設定されています。概要、特徴を聞かせてください。

【古賀】運用チームは4人で、うち3人は国内株式の運用に20年以上携わっており、もう1人はベンチャーやスタートアップ企業の豊富な知見を持っています。同じチームで運用している機関投資家向けファンドは2003年7月に設定し、2020年5月末現在その価格は設定時の約14倍となっており、市場平均を大きく上回る実績を残しています。

【馬渕】「アクティブ元年・日本株ファンド」の構成銘柄を拝見すると底堅い銘柄が並んでいる印象で、例えば人工呼吸器などを扱う医療機器メーカーもありました。こうした銘柄は、個人投資家が興味を持ちながらも、専門性が高い分野でなかなか手を出しにくい。そうした目配りは、個人投資家にとって魅力の一つだと感じます。銘柄の選定はどのような基準で行っているのですか。

【古賀】「ちょっと先の未来に、企業価値が高まっている企業、市場評価が高まっている企業」。これが運用開始以来、現在も変わらない基準です。変化の激しい今の時代、10年、20年先を予測するのは難しい。であれば、数年、数カ月先をしっかり見極めようというコンセプトです。企業規模や業種の枠組みを設けず、4人のファンドマネージャーがそれぞれの経験や感覚に基づいて企業を選び、リサーチや取材を行っています。

【馬渕】ファンドのホームページに4人のお名前、お顔も掲載されていて、信頼感を覚えました。皆さんが直接、企業取材をされているのですか。

【古賀】はい。徹底した企業取材はこのファンドの特徴で、4人合計で年間2000社以上を取材します。最近は企業を直接訪問することはなかなかできませんが、テレビ会議システムなどを使って、従来と同じペースで経営トップやIR担当の方にお話を聞いています。取材では、直近の業績や事業リスクなどもお聞きしますが、特に今は危機に直面して自社をどう変えていこうと考えているか、社会にどんな付加価値を提供していきたいか。そうしたビジョンもこれまで以上にヒアリングしています。するとやはり、その企業の本質が見えてきます。

【馬渕】よくわかります。私もアナリストとして企業取材をさせていただきますが、直接お話を聞くことで財務諸表だけではわからないその会社の強み、競争力の源泉を感じられます。特に先行きの不透明感が増している中では、各企業の底力が表れてくる気がします。

【古賀】おっしゃるとおり、今こそ底力が試されます。実際、経営者の中には、「こういう時期だからこそ自社の根本を再確認し、何を優先して取り組むべきかを考えている」と現状と真摯に向き合っている方がいらっしゃいます。投資において、変化の中にチャンスがあるのは、変化の波が企業の間に差を生むからです。その波を乗り越える底力がある企業を見極められれば、チャンスを成果につなげることができます。

【馬渕】個人投資家は、自ら企業を取材することはできません。それをプロであるファンドマネージャーが行ってくれるというのはありがたい。言うまでもなく、そうした専門家の知見を自身の投資に取り込めるのが投資信託という商品の利点の一つですね。

投資判断の偏りをなくすために取り入れている方法とは

――コロナ禍において、「アクティブ元年・日本株ファンド」はどのような投資行動を取ったのですか。

【古賀】感染拡大初期は、業績の落ち込みが大きくなりそうな企業、業績回復に時間がかかりそうな企業を売却し、一方で資金流入は増加傾向であったため、業績に確実性があり、下落局面でも耐性があると考えられる企業の買い入れを行いました。例えば米国などでもカップ麺が好調な東洋水産、西日本を中心にドラッグストアを展開するコスモス薬品や生体情報モニターや人工呼吸器を製造する日本光電工業などを新規に組み入れ、電気・ガス、情報通信サービスなどを手がけるTOKAIホールディングスなどを買い増しています。また、企業や官公庁向けにクラウドの導入支援を行うSBテクノロジーも新規買い入れ銘柄の一つです。結果、2月中旬から3月中旬にかけては基準価額を下げましたが、その後は大きく持ち直しています。下落局面でも、総合的な観点から優位性のある企業に積極的に投資した成果だと考えています。

基準価額の推移(2019/2/5~2020/5/29)

※グラフは過去の実績を示したものであり将来の成果をお約束するものではありません。 ※基準価額は信託報酬控除後です。 ※参考指数は、TOPIX(配当込み)です。ファンド設定日前日を10,000とした指数を使用しています。

【馬渕】確かに業種も企業規模も幅広い。そして、それぞれの判断の背景に綿密なリサーチや企業取材があるわけですね。

【古賀】運用において4人のファンドマネージャーに上下関係はなく、皆フラットな立場でそれぞれが銘柄の買い入れや売却を決定します。カリスマ的なリーダーがすべてを決めるというのも一つの方法ですが、新型コロナウイルスの件に限らず、世の中が刻々と変化する中にあって一人の人間が正しい判断をし続けることは難しい。であれば、異なる経験や感覚を持つメンバーがそれぞれ投資判断を行い、投資アイデアを分散させていくのがベターというのが私たちの考えです。

【馬渕】重要な点ですね。私自身、アナリストをする一方、ベンチャーキャピタルでマーケティングを担当し、チームで仕事をしています。するとやはり視野が広がり、自分が見えていなかった部分に気付かされることも多い。それが、組織としてのリスクヘッジにもなっていると強く感じます。

【古賀】私たちの「アクティブ元年・日本株ファンド」は、投資家の皆さんの中長期の資産形成に貢献したいというのが基本ですから、判断の偏りを極力排除し、リスクを分散していくことは最も重視していることの一つです。

――最後に、日本株の可能性を含め、個人投資家、また投資に興味を持つ人へメッセージをお願いします。

【馬渕】日本には、素晴らしい企業がたくさんあり、優れた経営者が多くいます。投資というのは、本来そうした企業や経営者を応援する行為です。そうした中で、過去にも市場の暴落などを経験してきた日本株のプロが選んだ企業を集めたアクティブファンドは注目の投資対象だと思います。

【古賀】ありがとうございます。馬渕さんがおっしゃるとおり、課題先進国といわれる日本には、オリジナルの技術やアイデアで社会課題を解決したり、新たな付加価値を生み出そうとしている企業が数多く存在します。私たちは、そうした企業を一社一社丁寧にリサーチし、今後も「これだ!」と思う企業を応援していきますので、ぜひ選択肢の一つとして「アクティブ元年・日本株ファンド」に興味を持っていただければと思います。

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作成基準日:2020年5月末

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