ポイント① 健康
身体能力は10年近い“若返り”が起きている
「65歳からは高齢者」。わが国のシニアの現状を見れば、この定義に疑問を感じる人は少なくないのではないか。退職後に新たなビジネスを始めたり、地域活動に参加してまちづくりをリードしたり……。昨今のシニアは若々しく、65歳になったら高齢者とひとくくりにするのはためらわれる。当事者からしても、65歳になった途端に高齢者と区分されるのは違和感があるだろう。
事実、内閣府の意識調査(下図参照)で「自分を高齢者と感じるか」と質問したところ、65~69歳では、71.8%が「いいえ」と回答。70~74歳でも「はい」と回答した割合は半数近くにとどまっている。
実感を裏付けるデータも増えてきた。東京都老人総合研究所(現東京都健康長寿医療センター研究所)の調査によると、1992年と2002年の高齢者の身体能力を比較すると、同じ年齢でも02年のほうが総じて上回っていた。歩行速度でいえば、02年で75歳の男性は、92年で65歳の人とほぼ同じ水準を保っており、10歳近い “若返り”の傾向が明らかになっている。
こうした情勢を鑑みて、日本老年学会と日本老年医学会は17年に、65歳からの10年間を「准高齢期」とし、来たるべき75歳からの高齢期に備える期間とする新たな定義を提言している。これまで65歳は組織における定年の区切りとされてきたが、「65歳=高齢者」というラベルがなくなれば、意欲のある人は社会で働き続けやすくなるだろう。今年4月に「70歳就業法」が成立し、アクティブシニアの就労や起業を後押しする社会的な機運も生まれている。ステレオタイプな高齢者像は通用しない。シニアは前向きに社会を支える存在へとアップデートしているのだ。
ポイント② お金
長くなった老後を楽しむ余裕を持っておく
日本人の寿命は、半世紀前から予想もできなかったほどに長くなっている。1955年には日本人男性の平均寿命は63.6歳だったが、2018年には81.25歳と、実に20年近く延びている(※)。多くの人が80歳、90歳まで生きる今、「人生100年時代」は単なるキャッチフレーズではなくなっている。現実に100歳まで生きる可能性があることを認識し、ゆとりある老後生活を送れるように資金計画を立てておく必要がある。
退職金はいくらなのか、公的年金の受給額はどの程度になりそうなのか、住宅ローンをはじめとした負債はどの程度か、退職が迫っていながらこれらを把握できていない場合は黄信号がともっている。特に公的年金は少子高齢化が進むにつれて、年々厳しさを増している。年金受給年齢のさらなる上昇、マクロ経済スライドによる年金受給額の調整などが行われる可能性を考慮に入れると、退職後に向けて自ら備えておく重要性は言うまでもない。余裕のあるシニアライフを送るためには、老後の固定収入を把握したうえで、資産運用や就労などによってさらに上乗せするための方策も考えておきたい。
代表的なものはNISAやiDeco(個人型確定拠出年金)などの活用だ。iDecoでいえば、運用中は掛金が所得控除の対象となるほか、運用益への課税が非課税となり、再投資をするうえで有利に働く。60歳になるまで引き出せないことを念頭に、早いうちからコツコツと積み立てておこう。もちろん、投資である以上値動きは起きる。特に今年は新型コロナウイルスの感染拡大などの影響で値動きが荒くなっているが、長期積立投資であれば一時的な上下に左右されない心構えが重要だ。
また、マンションなどの賃貸不動産は不労所得を得るための手立てになる。現役時代は投資用物件として活用し、引退後は自らがそこで暮らすという活用方法も考えられるだろう。老後の支えとなる資産とするため、立地や物件の質などには注意が必要だ。アフターフォローも含め、信頼できる事業者を見つけておきたい。
(※)厚生労働省「簡易生命表」(2019年度)
ポイント③ 社会とのかかわり
人生100年時代を楽しむ生きがいを見つける
どれだけ人生が長くなっても、その時間を楽しむ発想がなければ、余暇を持て余すだけで終わってしまう。現役時代、脇目も振らずに仕事に打ち込んできた結果、退職後に生きがいを見失ってしまったという人は少なくない。長い時間を過ごした職場を離れた後、第二の人生の拠点といえる居場所を持っているだろうか。退職前から自ら趣味や楽しみを見出し、本当にやりたいことを満喫できるよう自分なりの生きがいを探しておこう。
内閣府が実施した意識調査(下図参照)によると、「自由時間が増えた場合にしたいこと」は全世代を通じて旅行がトップ。自然豊かなリゾート地を散策し気持ちをリフレッシュしたり、さまざまな街を訪ね土地の歴史を学ぶことで知的好奇心を満たすなど、普段と異なる場所やそこで過ごす時間は、これまで得られなかった多様な刺激をもたらしてくれる。
また60~69歳の男女でやりたいことを比較してみると、男性は女性に比べて、スポーツへの意欲が高く、インターネットやソーシャルメディアの利用などにも関心が高い傾向にある。年齢を重ねても体を積極的に動かして、新しい知識の習得に意欲的でありたい──調査結果からは、そんな新時代のシニア像が浮かび上がってくる。
高齢期とは、青年期、壮年期の歩みの集大成だ。無趣味で、人付き合いもほとんどない老後を送るのか、新たな居場所を見つけ、生き生きとしたアクティブシニアとして人生を謳歌するのか。それを決めるのは、今の自分の生き方次第と肝に銘じて準備を始めよう。