相手の意向を尊重し自分も楽しむ
会議やプレゼン、商談などで使う「ビジネス英語」と、海外からのゲストを接待する機会に使う「おもてなし英語」とでは、何が違うのだろうか。
「大きな違いは、おもてなし英語を話すときは、何よりも相手の意向を尊重する姿勢が基本である、という点でしょうね。テクニカルタームの知識や論理性などを駆使し、外国のビジネスパーソンと対等に渡り合える英語力がモノをいうビジネス英語とは、また違ったむずかしさがあります」と、松本 茂先生は語る。例えば、ビジネスランチやディナーに外国の方を招待する場合、日本人はつい、店選びから料理まですべてセッティングしたうえで“おもてなし”するのが礼儀だと考えがちだ。
「そんなとき、何を召し上がりたいですか(What would you like to eat?)とひと言聞いてあげると、自分の気持ちをちゃんと尊重してくれる人だな、と相手に好印象を与えます。
また、VIPの場合は別として、必ずしも高級料理をご馳走する必要はありません。日本的なカジュアルな食事に誘うのも手。『日本のビジネスパーソンが集う店にお連れしましょうか』と聞いたうえで、行きつけの居酒屋さんとか、焼き鳥屋さんに案内するのも喜ばれると思います」
滞在中に、観光や観劇に案内する場合も、ひとりよがりの押しつけは禁物だ。「外国の方イコール、日本の伝統的なものを好む」といった、ステレオタイプの考えが落とし穴になることもあるという。
「例えば、自分が興味のない歌舞伎に案内しても、一緒に楽しんでいる様子がなければ相手も楽しめません。相手が日本文化に精通したリピーターで、歌舞伎が観たいとの要望があれば、チケットだけ用意して、1人で心ゆくまで観劇していただく。それもまた立派なおもてなしです。大事なのは、無理に背伸びをせずに、お互いに楽しむこと。興味のあるなしをたずねたうえで、自分の得意なフィールドや好きな場所に案内して、張り切って解説してあげるほうが、相手にも喜んでもらえるものです」
「自分を語る」と会話が弾む
仕事を離れたオフの時間に、おしゃべりを楽しむなどして、ゲストの心理的ストレスを取り除き、リラックスしてもらうことも、大事なおもてなしのひとつだ。しかし、それを英語でできるかというと、「自信がない」と思うビジネスパーソンは、案外多いのではなかろうか。
「日本のビジネスパーソンを見ていると、カジュアルな場でも相手に質問ばかりして、自分のことはあまり話さない傾向があります。外国のお客様を囲んで食事をするときなどにありがちなのが、自分が発した質問のフォローアップができず、会話のキャッチボールが続かないこと。そこで、自分だけどんどん食事が進んで、先に食べ終えてしまい、気まずい空気が流れてしまう(笑)。そんな場に居合わせたことが何度もあります」
おもてなし英語“あるある事件”だが、どうすれば会話のキャッチボールが可能になるのだろうか。松本先生によれば、『自己開示』がその突破口になると言う。
「自分を語ることで、相手と自分の共通点が見つかる可能性が高く、そうなると一気に相手との距離が縮まり、会話が弾みます。例えば、『私は週末にテニスを楽しんでいるんだけど、あなたはどうやって過ごしていますか』と投げかけてみる。仮に相手が、『NBA(米国プロバスケットボールリーグ)を観戦に行きます』とか、『実は私、サッカーが好きなんですよ』などと答えたら、海外のプロリーグで活躍している日本人選手の話に持っていってもいいし、『日本の学校はクラブ活動が盛んで、甲子園というベースボールの特別なイベントもあって、日本中が熱狂するんですよ』などと、スポーツの話から日本文化論へと、話題を発展させることもできます。相手が興味を示してくれれば、英語のおしゃべりがきっと弾むと思いますよ」
会話のとっかかりは映画や音楽など、共通する趣味の話が無難だ。そこから相手が家族の話など、プライベートな話題をカジュアルな口調で語り出したら、それに合わせて自分も、カジュアルな口調や態度で接すると失礼がない。
おもてなし英語を磨く3つのプラクティス
英語によるおもてなしを成功に導くためには、具体的にどんな準備をしておくとよいのだろうか。松本先生からのアドバイスは次の3つだ。
一つは、テンポのよい会話が続くように、いくつかのトピックについて英語の想定問答集を作成し、流ちょうに話せるように練習しておく。二つ目は、迎えるゲストが欧州やアジア圏などの英語を母語とする人でない場合、独特のなまりのある英語をリスニングできるように、YouTubeなどで調べて彼らの英語に事前に慣れておくこと。三つ目は、外国人向けの観光ツアーなどに参加して、日本文化を楽しく紹介するガイドさんの英語術を参考にするのもいいと言う。
「私がおすすめする、おもてなし英語の心構えは、“hospitality”というよりも、お互いに楽しい時間を共有する“to have a good time together”ということです。おもてなしを通してゲストから、〝楽しくておもしろい人だな〟と思ってもらえたら大成功。互いに信頼関係が生まれ、ビジネスシーンでもそれがきっと活きてくると思います」