あなたは現在の睡眠に満足しているだろうか。そう聞かれて、イエスと答えられる人はそう多くないだろう。とある調査では、日本人の7割近くが睡眠に対しての悩みを抱いているという。世界的に見ても指折りの「睡眠ベタ」国家の日本市場に向けて、国内外さまざまな企業が、睡眠の質の向上を促す製品を打ち出している。そのなかでちょっとユニークなのが、日本の西川とパナソニックがこの3月に提供を開始した「快眠環境サポート」。自分の脳や体に最適化された「夢のような睡眠」へ、その大きな一歩となる可能性を秘めている。

眠りのスペシャリストが手を組んだ

睡眠の質が仕事のパフォーマンスを左右する――。近年、よく耳にするフレーズだ。そもそも睡眠は1日のおよそ3分の1の時間を占める、人間が生きる上で欠かせない重要な営みである。

加えてこの数年は、働き方や職場環境の変化に伴い、ビジネスパーソンには限られた時間で仕事の成果を上げるというミッションが課せられるようになった。ビジネスにおいて集中力や創造力をフルに発揮するには、まず何よりも自身のコンディションを日々整えておくことが必要になる。コンディショニングの肝となる食事、体づくり、そして睡眠の重要性はますます高まっていくだろう。

そんなビジネスパーソンに、「睡眠環境」というアプローチで睡眠の質の向上を促すのが、このたびパナソニックが提供する「快眠環境サポートサービス」である。

睡眠の質を高める製品というと、マットレスやピローなどの寝具をイメージするかもしれないが、この新しいサービスは、寝具に加えて、眠りにつく空間の環境も睡眠の質を左右するという発想から生まれた。パナソニックで同サービスの開発に当たった菊地真由美さんは、誕生の経緯を次のように話す。

「西川さんは、睡眠に関する相談所を運営されていることからも分かる通り、眠りの知見を豊富におもちです。一方、弊社パナソニックは、寝室における明かりの研究やエアコンの使用データの蓄積があります。それら両社の知見を組み合わせて、新しい睡眠の価値を創出することを目指しました」

快眠環境サポートサービスの開発の中心となったパナソニックの菊地真由美さん。日本睡眠改善協議会認定の睡眠改善インストラクターで、眠りに関する幅広い知識をもつ。

一人ひとりに合った睡眠環境を提供

この快眠環境サポートサービスの最大の特徴は、専用のマットレス、対応する電化製品、そしてスマートホンにインストールしたアプリを介して、パーソナライズされた睡眠環境や眠りに関するアドバイスが得られる点にある。

具体的な流れは次のようになる。

1.睡眠のパーソナルデータを計測
西川のセンサー搭載マットレス([エアーコネクテッド]SIマットレス)で睡眠データを計測。体の動きは1秒ごとにミリ単位で検知する。

マットレスに搭載されたセンサーで、睡眠中の体動、睡眠時間、眠りの深さ、寝付くまでの時間、目覚めるまでに要した時間などを計測する。

2.睡眠データをもとに、エアコン/LEDシーリングライト/音響機器を制御
入眠時:室内温度が下がり、ライトは自動消灯。入眠前に流れていた音楽が徐々に消音。
睡眠中:快適な温度・風向・風量に。完全消灯・消音。
起床前:温度が徐々に上がり、朝日が上るように徐々に明るくなる。音楽も流れ始める。

写真左から、ベッドに入り就寝を開始すると電気が消え、エアコンが作動して徐々に室温を下げる。起床時は室温が徐々に上がる。明かりは朝日の光を再現し、最初は赤みがかった光が灯り、徐々に白い光へと変わる。

3.睡眠結果のレポート、パーソナライズド・アドバイスを表示
専用のアプリが睡眠深度をグラフで表示するほか、睡眠スコア(睡眠時間、睡眠効率、寝付き時間、中途覚醒回数、目覚めの状態、深い睡眠の6項目から算出)で睡眠の質を可視化。さらに低スコアの場合は「寝る前の行動アンケート」からより詳細なアドバイスを表示する。

行動アンケートに答えることで、パーソナライズド・アドバイスを受けられ、快適な睡眠に向けての行動改善ができる。

このサービスのもう一つの優れている点は、収集した睡眠のデータがさらに精度向上へと利用される点にある。イメージとは異なる、徹底したデータに基づく睡眠へのアプローチだ。菊地さんは「エアコンがネットワークに対応したことで、エアコンがどのように利用されているかがわかるようになりました。それを一歩進めて、先回りして良い制御をできないかと考えたのです」と話す。

働き方改革に後押しされた睡眠負債からの脱出という社会的なニーズと、テクノロジーに裏打ちされたデータ分析への期待という2つの要因が、このサービスの推進力になっている。

センサー搭載マットレスで眠りのパーソナルデータを取得。対応家電との連携で、温度や光などを制御して、睡眠に快適な寝室環境を実現する。

100年先の暮らしを見据える

快眠環境サポートサービスの根底には、パナソニックとしての大きなビジョンがある。それが、同社が1年ほど前から打ち出している「くらしアップデート業」というものだ。

これは、家電メーカーという従来の域を超えて、人の暮らしを良くすることを目指すもので、次の100年を見据えて同社が掲げるビジョンである。そのビジョンの柱には、住宅内の設備や家電、各種センサーなどを管理する「HomeX」という統合プラットフォームがある。今回のサービスは、このHomeXに組み込まれてはいないものの、くらしアップデート業というビジョンの流れを汲むものである。

だが、こうした壮大なビジョンはパナソニック一社だけで実現するのは難しい。そこで同社が採ったのが、共創戦略だ。今回は西川という寝具のトップメーカーと手を組むことで、新しい睡眠の価値の創造を図った。こうした共創をさらに活性化することを目的に、昨年4月には東京・原宿に「&Panasonic」を開設。いろいろな業種・業態の企業と、共創に向けた取り組みが行われている。

ゴールは「眠りを良くすることで、日中の活動を充実したものにしてもらうこと」という。

今回の快眠環境サポートサービスも、さらに内容を充実させていくつもりだ。前出の菊地さんは「より良い眠りに貢献したいという思いを持ったパートナー企業との共創は、今後も検討していきたい」と、サービスの向上を目指す。

「眠りに対して、こんなものだ、と諦めている方もまだまだいらっしゃいます。快眠環境サポートサービスは長くお使いいただけるとその価値をご理解いただけると思います。みなさまに寄り添ったサービスで、良い眠りの提供に貢献していきます」

これまで、睡眠の悩みに対するソリューションの多くは、個人差に対応するものではなかった。それがこのサービスは、一人ひとりに対してベストな睡眠を提供することを目的とした点で画期的だ。あらゆる環境が自分仕様にパーソナライズされた最良の睡眠へ――。そんな「夢のような睡眠」の期待を抱かせるサービスである。

(構成・文/デュウ 撮影/沖田一真)