今や日本人の2人に1人はがんにかかるといわれる時代。がんの早期発見・早期治療につなげる機器や技術の進歩について、衆議院議員・医学博士の冨岡勉氏と東海大学  医学部  専門診療学系画像診断学  教授の今井裕医師が話し合った。

超低線量CT撮影の線量は胸部X線撮影と同程度

今井 裕(いまい・ゆたか)
東海大学 医学部
専門診療学系画像診断学 教授

慶應義塾大学医学部卒。2001年東海大学医学部入職。同大医学部長、同大副学長などを経て現職。18年から公益社団法人日本医学放射線学会理事長。専門は腹部放射線診断、特に消化器および泌尿器。医学博士。

【今井】がん死者数の増加は深刻な状況です。部位別のがんによる罹患数・死亡数のデータを比較すると、2014年時点で男女あわせた肺がんの罹患数は3位、17年の死亡数はワースト1位となっています。

【冨岡】肺がんは早期発見、早期治療によって5年後生存率が高まりますが、初期には自覚症状がなく、気づいたときにはステージが進行していることが大半です。そうなると、定期的に肺がん検診などを受診することが重要になります。

【今井】集団がん検診は日本独自で始まった素晴らしい取り組みですね。国では胸部X線(レントゲン)と喀痰細胞診を組み合わせた検査を推奨していますが、画像診断の点でいえば低線量胸部CTが有効ではないでしょうか。

【冨岡】立体的な撮影に関してはCTがやはり優れていますね。

【今井】胸部X線は臓器の重なりで見えづらい部分が出てしまいます。その点、胸部CTは重なりがない断面像で、小さな病変を発見するのに有効です。

CTで撮影した胸部画像(右)のほうが鮮明で、臓器の重なりがないため、小さな病変を早期に見つけやすい。
画像提供:シーメンスヘルスケア株式会社

【冨岡】一方で胸部X線は被ばく線量が低いといった利点もあります。医療被ばくの点で、胸部CTにはどんな対策が取られているのでしょうか。

【今井】機器の進化によって、低線量化が進んでいます。最新の超低線量胸部CTでいえば、スズのフィルターを用いて画質に影響しないエネルギーをカットし、一回当たりの被ばく線量が0.1ミリシーベルトと、従来の50分の1、胸部X線とほぼ同じレベルまで低減しているんですよ。

【冨岡】0.1ミリシーベルトといえば、日本-ニューヨーク間の飛行機で浴びる自然放射線と同程度ですか。

【今井】胸部X線と同等の被ばく線量でより詳細な情報を得られれば、肺がんの早期発見につながり、その後の治療につなげやすくなります。

低線量胸部CT撮影で死亡率が51%低下

冨岡 勉(とみおか・つとむ)
衆議院議員・医学博士

長崎大学医学部大学院修了。長崎県議などを経て、2005年9月の衆院選で初当選。文部科学副大臣、衆議院厚生労働委員長などを歴任。19年10月から自由民主党政務調査会副会長を務める。長崎1区選出、当選4回。

【冨岡】がん検診はその後の死亡率減少に貢献したかが問われます。低線量胸部CTで、その後の死亡率低下にかかわる調査結果はありますか。

【今井】米国では2011年に高年齢・喫煙者のハイリスク群を抽出して胸部X線と低線量胸部CTの二つの受診群を比較する研究を行い、後者は肺がん死亡率が20%減少したという結果が出ています。また、茨城県日立市では市民約3万3000人を対象に研究を実施し、胸部X線と低線量胸部CTの二つの受診群を比較すると、後者で肺がん死亡率が51%減少したという結果が得られています。

【冨岡】国でも低線量胸部CTの有効性を検証する大規模調査を実施しており、今後の研究でさらにエビデンスが積み重なっていきそうですね。

【今井】海外では肺がんの早期発見のためにどのような施策が取られているのでしょうか。

【冨岡】米国では予防医療に対するインセンティブがあり、喫煙歴や年齢でスクリーニングしたうえで、低線量胸部CTを用いた年1回の肺がん検診を推奨しています。また、日本でもいくつかの自治体で低線量胸部CTを独自に実施しています。

【今井】ただ、日本ではどの医療機関がどの水準のCT装置を使い、どのような医師が読影をしているのかは、自分たちで調べないとわかりません。専門医のもとで低線量胸部CTの受診を検討しようとする人への情報提供の整備が必要ではないでしょうか。

【冨岡】低線量胸部CTはがん検診の選択肢の一つ。それを正しく選べる環境整備は大切です。

専門医の読影技術とAIの活用がカギ

【冨岡】低線量胸部CTは健康に影響しないささいな変化まで捉えることがあります。過剰診断は考えるべき課題です。

【今井】画像はあくまでも素材であり、それを読み取る専門医の役割が問われます。肺のCT画像を毎日読んでいる専門家がきちんと診断すれば、不要な経過観察の検査は少なくなるはずです。

【冨岡】装置だけではなくて、そこで出た画像を誰がどのように読むか、その枠組みも含めて考える必要があるということですね。そうするとスタッフの負荷が大きくなることが懸念されます。

【今井】現在、AIによる画像診断支援システムの研究開発が進んでいます。この実用化が進めば、見落とし率の低下や、画像診断時のダブルチェックへの活用などにつながると考えています。がん治療においてプレシジョン・メディシン(精密医療)を用いた個別化医療が進み多様な治療法が生まれる中、患者さんが最適な医療にたどり着くことを念頭に、診断に向き合っています。

【冨岡】今後のイノベーションに期待がかかりますね。ただ医療がどれだけ発達しても、まず大切なのは病気にかからないこと。そして万一がんになっても、早期に見つけて対策を取っていくことが、最大の“予防”と言えます。

【今井】おっしゃるとおりです。忙しいビジネスパーソンであっても、40代を超えたら自分の健康を守るのに何が必要なのかを選び取り、計画的にがん検診を受診していただきたい。

【冨岡】生活習慣の見直しや定期的ながん検診を通じて、QOLを維持して健やかに長生きできるよう、さまざまな施策を通じて応援していきます。