カジュアルなものの中にも「プレミアム」がある時代
──昨年秋に「プラチナ・カード」のサービス・特典に磨きをかけました。お客様からの反応はいかがですか。
【清原】おかげさまで予想以上の反響をいただいています。例えば、新たに日本で導入した「メタルカード」。カードの表面からカード番号を排し裏面に彫り込み、かつ海外で普及している規格に準拠したコンタクトレス(非接触型)決済に対応するなど、特別な仕様で発行するためお手元に届くまでに多少時間がかかりますが、独特の質感・存在感について好評いただき、「少しでも早く手にしたい」という声が多く寄せられています。そのほか、主要なオンラインストアや海外での外貨決済によるご利用で、ポイントが通常の3倍になる特典や、世界各地で続々とオープンするアメックス会員専用のラウンジなども好評で、多くの会員の方にご利用いただいています。
──特典・サービスの強化・刷新には、どんな背景、狙いがあるのでしょうか。
【清原】背景には、2つの大きな流れがあります。一つはグローバル化が進展する中での価値観の多様化。「プレミアム」というものへの考え方が変わり、日常のカジュアルなものの中に「プレミアム」が見いだされるようになっています。例えば、スニーカーやファストフードなど、普段使いのものに強いこだわりを見いだす人が増えています。周囲もそれに違和感を覚えることはありません。
もう一つは国内におけるキャッシュレス化の広がりです。かつて高額な買い物や海外旅行ではカードを使うが、日常では現金という時代がありました。クレジットカードは“非日常”だったのです。けれどもキャッシュレス化が大きく進んだ今、みんながカードを持ち、日常で使います。そのような開かれた社会の中でのプレミアムという選択肢を提示したかった。「プラチナ・カード」の特典・サービスの強化にはそうした思いがあります。
──「プラチナ・カード」の申し込みへの対応もその一環というわけですね。
【清原】おっしゃるとおりです。社会が総体として豊かになり、人々の価値観が変わり、プレミアムの位置付けも変わってきました。年収や役職といったものばかりではなく、それぞれの生き方、ライフスタイルに見合ったサービスを重視する人が増えてきた。それに対応したいと考えたのです。
申込制の導入に対しては社内で議論もありました。日常の豊かさの提供にまで対象を広げると、「プラチナ・カード」の価値が下がるのではないか、と不安視する声も出ました。けれども、世の中が変化している以上、私たちも変わらなければならない。申し込みを開放すると同時に、特典や限定体験を大きく増強することが、私たちの未来への答えであるという結論に達しました。
例えば格式高い料亭やレストランでも、今は一見さんお断りという所が少なくなりました。ミシュランの星が付くお店でも、「電話はつながりにくいけれども、予約をしていただけるのなら、喜んでお迎えします」という所が主流になりつつあります。メニューも和食でありながら、フュージョンでモダン、ちょっとキャビアを使ったりして。伝統はもちろん大事ですが、それを受け継いでいくには本質を守りながら、やはり時代に沿って変わり続けなければいけないのだと思います。
自己実現を目指し、挑戦する人たちを支えていく
──「プラチナ・カード」は、どんな人を、どのようにサポートしていくのでしょう。
【清原】日常の小さなことでも、大きな夢でも、目的を持って自己実現すべく常に挑戦をしている人。仕事が多忙な中、プライベートもできるだけ豊かに、充実感が得られるように過ごしたいと考えている人を支えていきたい。これは、これまでもこれからも変わりません。
既存の「プラチナ・カード」会員の方には、年会費をコストではなく、“投資”ととらえていらっしゃる人が多いと感じます。一つ例を挙げましょう。「プラチナ・カード」の会員専用プログラム「ファイン・ホテル・アンド・リゾート」には、ホテルのチェックアウト時間を16時まで延長できる特典があります。ホテルの状況に関わらず、16時までの滞在が保証されるのです。例えば海外出張にいった際、週末にあわせて帰国し土日は仕事を忘れて家族とゆっくり過ごしたい方がいるとします。帰国日にホテルの部屋が16時まで確実に使えるのなら、出張報告書はホテルの部屋で集中して仕上げ、シャワーを浴びてすっきりしてから空港に向かう、といった予定が最初から織り込めるわけです。
ステータスの意味は時代とともに変わりますが、これからは招待状を受け取ることがステータスということよりは、「プラチナ・カード」を手にし、他に類のないサービスを享受し、継続して日々の生活を充実させ続けることが、一つのステータスになる。そう考えています。
──あらゆるサービスの基本にあるアメリカン・エキスプレスの本質とは、どのようなものだと思いますか。
【清原】170年近い歴史の中で、アメリカン・エキスプレスは運送業、金融業、旅行業などさまざまな事業を担いながら、常に時代のニーズを先取りし、それに対応してきました。米国の西部開拓時代には、東海岸に上陸し、新たなビジネスチャンスを求めて西へ西へと向かう、今でいうスタートアップのような人たちを物流で支援した。その際、現金の輸送を託されたことで金融やペイメントを支援するビジネスへ、さらにその人たちが海外に出るようになったため、今度は海外旅行を支援するビジネスへと向かったのです。
業態が広がっても共通しているのは、アメリカン・エキスプレスが何か新たなものにチャレンジし、リスクを取りながらも自分のやりたいことを成し遂げてしていく人たちのインフラであり続けたこと。目標に向かって前進を続ける会員様に寄り添い、いわばパートナーとしてともに歩んで行くことが、企業文化として綿々と受け継がれてきたのです。そのDNAの大きな流れの中にクレジットカード事業も存在します。
キャッシュレス化が実現する「安全」「便利」「豊か」を追求
──いまやキャッシュレス社会という言葉を聞かない日がないほどです。今後、それとどう向き合っていきますか。
【清原】キャッシュレス化により、社会はより「安全」「便利」「豊か」になっていくでしょう。「安全」の点ではすでに自信があります。何らかの不正利用があっても、お客様に過失がないなら、当社がお客様に請求することはありません。そうした面で、例えば詐欺などにあった際に自分で対処しなければならない現金より安全性はむしろ高いと思います。
「便利」という点でも、アメリカン・エキスプレスは国際基準に準拠したコンタクトレス決済に対応。専用リーダーを持つ加盟店であれば、サインしたり4桁のコードを入れたりせず、タップだけで支払いが完了します。また、コンシェルジュサービスの質の高さはかねてより評価をいただいています。さらに「豊か」では、例えば複数の世界の主要空港で新規オープンが予定されている会員専用のラウンジをはじめ、世界500空港の1200以上のラウンジが利用可能。会員の方が、今どのラウンジが使えるのか、スマホなどにプッシュで通知するサービスもあります。
技術の進展やアイデアしだいで、こうした安全性や利便性、豊かさはまだまだ追求できる。その質を高めていくことは、私たちの役割だと考えています。
──プレジデントオンラインの読者の多くは、ビジネスリーダーやその予備群です。最後に、清原社長がトップとしてこだわっていること、大事にしていることをお聞かせください。
【清原】私が常に意識していることの一つは「選択肢」を増やすことです。働き方にしても、場所や時間を各自の状況、ライフスタイルにあわせてできるだけ選べるようにしていますし、部署やポジションについても、本人の希望をベースに検討するようにしています。
リーダーシップや優秀さにはいろいろな定義や見方があって、物差しは一つではありません。寡黙なのに質の高い仕事をやり遂げる人もいれば、ここ一番というときに強さを発揮する人もいる。人にはそれぞれ持ち味がありますから、型にはめず、優秀さについても幅広い選択肢を提示するようにしています。
もちろんそうした組織では、ときに価値観の違いによる摩擦やせめぎ合いも生じますが、それこそが経営の原動力になる、というのが私の考え。すべてがスムーズに進行する組織は、不測の事態への対応力が弱いと思うのです。
選択肢を増やすという点では、お客様に対しても同じ。今回の「プラチナ・カード」における新たな取り組みも、まさにそれを実現するためのものです。私たちがお客様を選ぶのではなく、お客様が私たちの「プラチナ・カード」を選び続けるような姿を実現していきたいと考えています。