レンタルオフィスと一口に言っても、サービス水準は会社によって大きく異なる。コンパクトでありながらも大規模オフィスと同等の機能を追求したのがエキスパートオフィスである。共用のラウンジは広々としており高級家具を配置。各執務室にもオフィス家具を備え、二重、三重のセキュリティー体制を設ける。
一方で、過剰なサービスは含まれていない。例えば会議室は適度な広さとし、小規模な企業の商談やプレゼンテーションで使いやすい人数の部屋を複数用意。時間当たりの使用料も廉価に抑えられているなど、実用性も重視している。
「我々が目指すのは仮事務所ではなく、快適さと機能性を兼ね備えた小規模企業の本社の集合体にふさわしいオフィススペースです。オフィスは事務処理をするだけの場ではありません。そこで働く人々が快適で、安心でき、そこで働くことが誇りに思えるような場所であるべきだと我々は考えます」
不動産業はサービス業であれ顧客目線で「標準」をつくる
オフィスは、誇りと愛着を与える場であるべき──この思想の原点は、大西氏が手がけてきた不動産ディベロッパーとしての歩みにある。
「1970年代、不動産業界では圧倒的に貸し手優位でした。ビルの貸主の都合にお客様が合わせるのが当たり前。お客様が不便を我慢していたのです。私はその姿勢に疑問を感じ、『不動産業はサービス業であれ』との理念を揚げて、より柔軟なサービスや魅力的な空間づくりを目指してきました。例えば、私が手がけた第一号ビル(1979年竣工)は、大手企業のグループ会社数社を統合したビルでした。玄関の開閉時間や空調の運転時間等、テナントの要望を取り入れ柔軟に対応。さらに受付や会議室は共用化し、効率化を図りました。こうした発想が、エキスパートオフィスの原型になっています」
その後、日本経済が後退局面に入っていくと、オフィスへのニーズも変容。ビル1棟、ないしは複数フロアを借りていた大手企業やそのグループ会社が大型ビルへ統合移転するケースが増え、中型ビルで空室が発生していた。
「当時の小規模企業は、小型の雑居ビルやワンルームマンションなどに入居していましたが、ビルの性能は低く、快適な環境とは言えませんでした。対して、空室が発生していた中型ビルはエレベーターは2基、玄関ホールも広くセキュリティが厳格など運営管理はしっかりしていました。そこで100坪~200坪のワンフロアを、10坪~20坪に小さく区画し、高級小型オフィス向けビルへリニューアルして貸し出す事業を始めたのです」
顧客ニーズに合わせ、5坪~10坪区画も新設したところ、想像以上の好評を博した。気づけば1人1坪から30人規模までさまざまな区画があり、共用部にはラウンジ・会議室などを備えたレンタルオフィスを運営するようになっていった。
「さらにお客様は、来客を迎えるゆったりとしたラウンジ、ホテルのコンシェルジュのようなレベルの高い受付、リフレッシュできるスペースを求めていらっしゃいました。その声に対応すべく、独特なプレミアムレンタルオフィスを手がけるに至りました」
第一号は、虎ノ門にある日総第23ビルだ。ザ・リッツ・カールトン・サンフランシスコホテルの開発経営を手がけた経験も生かし、通りに面した1階はコンビニやコーヒーショップなどはあえて入れず、スタイリッシュなラウンジになっている。「ビルの収益性を考えればテナントを入れたほうがプラスですが、1階のフロアは会社の顔。来訪者との面談や、ワーカーの方々のリフレッシュスペース、また1人でクリエイティブな発想を巡らす場所として提供。まさに誇りと愛着を感じていただくスペースです」
最近では、他のレンタルオフィスでもラウンジや共用スペースを取り入れているが、エキスパートオフィスが新たな標準をつくった格好だ。
エキスパートオフィス
エキスパートのためのプレミアムレンタルオフィス。現在は品川、東京、新橋/内幸町、麹町、渋谷、新横浜、虎ノ門、神谷町に展開。いずれも交通至便の好立地にある。※写真は品川
知的生産性の向上にオフィスという形で貢献する
エキスパートオフィスを開始した当初は、スタートアップ企業や士業の個人事務所、地方に本社がある中小企業の営業拠点などの利用が中心だったが、サービスが浸透するとともに、法人需要が拡大しているという。
「近年の働き方改革の流れを受けて、大企業の従業員がより自宅や取引先に近い場所で働くためのサテライトオフィスとしてのニーズや、社内でも非公開の機密性の高いプロジェクトの実行部隊が集まるリモートオフィスとして借りられるお客様も増えてきました」と大西氏は言う。
大企業だけでなく中小企業にもこうした流れは広がっており、また優秀な外部人材を確保するためにエキスパートオフィスのような高品質なオフィスを求める企業は今後増えてくると予想される。
「首都圏を中心に都市部で拠点を増やしていき、また入居者様であれば各拠点のラウンジを自由に利用できる会員制の仕組みなどもあります。画一的な働き方でモノを作り出す大量生産時代は終わり、これからは思考によって新たな価値を作り出す力が問われる時代です。そこで求められるオフィスとは、いかに働く人の発想を引き出せる場であるかということ。働く人の感動を呼び起こし、知的生産性を高めていくうえで、上質さを追求したエキスパートオフィスはきっと貢献できるはずです」