言語力と思考力を一体化
ビジネスのグローバル化が進むなか、英語によるプレゼンテーションは避けて通れない。商談などの社外との交渉のみならず、社内で外国人上司への説明の機会などが急増している。伝えるべきことを的確に英語で伝えられることは、ビジネスパーソンにとって必須のスキルだ。
では、英語プレゼンテーションの初心者はまず、どう取り組めばいいのか。
英語コミュニケーションの第一人者である立教大学経営学部教授の松本 茂先生によれば、プレゼンテーションは英語学習のゴールであるのと同時に、効果的な「英語学習法」でもあると考えて取り組むべきだという。
「ある事案についての分析や提案を英語でまとめる作業だけでも大変だと思われるかもしれません。聞き手に納得してもらうために、何をどういう順番で話し、どういったデータを裏付けとして使うのか……。最初のうちは時間がかかるかもしれませんが、話があちらこちらに飛ぶ会話よりも簡単だと思います。準備の段階から、英語で思考し、英語でまとめるとよいでしょう。いったん日本語で考えてまとめてから英語に直そうとすると、なかなかうまくいかないと思います。
プレゼンテーションの準備の過程で、自分の考えを論理的に整理していくことにより、言語力とともに思考力をも高めることになります。これは『使える英語力』を高めるための素晴らしい『学習法』と言えます」
具体的にはどのように話を組み立てればいいのか。松本先生は、プレゼンテーションには定型があると指摘する。
「挨拶から始まって、イントロダクションで概要を述べ、次にボディーの部分で、要点を順に説明し、データや根拠などを示す。そして最後のコンクルージョンのパートで、結論を述べて、質問を促す。
この定型はもともと海外で確立されたものが日本でも採用されてきたので、英語でも日本語でも同じです。だから、まず日本語でプレゼンテーションを体験し、その体験や技術を英語のプレゼンテーションの際に活かせばいいのです。ただし、英語で行う場合は準備の段階から英語で行うようにしましょう」
下のコラムに、最初の挨拶、概要説明、主なポイントへの展開、資料の提示、そしてまとめに入るまでのつなぎの部分などで必要になる英語の決まり文句を挙げたので、実際の英語プレゼンの際に活用してほしい。
覚えておきたいフレーズ!
英語プレゼンテーションのための英語表現
挨拶する
- Thank you for attending this presentation.
本日はご参加いただきまして、ありがとうございます。
- I’m really glad to be here today.
本日は、こちらでお話しでき大変嬉しく思います。
概要を伝える
- Today I’d like to talk (to you) about ...
本日は……についてお話ししたいと思います。
- There’re three things I’d like to cover today.
本日は三つのことについてお話ししたいと思います。
- There’re four points I’d like to make today.
本日は四つのポイントについてご説明したいと思います。
次のポイントに移ることを示す
- Next, I’d like to talk about ...
次に、……についてお話ししたいと思います。
- Now let’s move on to the next point.
では次のポイントに移りたいと思います。
資料を見るように伝える
- Please refer to the handout.
配布資料をご覧ください。
まとめをする
- In conclusion, ...
まとめると、……。
- Let me summarize the main points of today’s presentation.
本日のプレゼンのポイントをまとめます。
コメントや質問を促す
- Are there any comments or questions?
何かコメントかご質問はありますか?
- If you have questions, I’d be happy to answer them.
もしご質問があれば、喜んでお答えします。
最後の挨拶をする
- Thank you for your kind attention.
ご清聴ありがとうございました。
- Thank you again for taking the time to join today’s presentation.
本日はプレゼンテーションにご参加いただきましたことを、再度御礼申し上げます。
「流れ自体は、どんなプレゼンもそれほど違いはないし、自分の思うことを英語で伝えるという段階までなら、英語の上手下手はあるにしても、資料を示しながら的確にまとめるのはそれほど難しいものではないはず。ポイントごとに分類し、内容に沿った短い見出しをつけると、プレゼンしやすくなります。
実際のプレゼンでは、提案が資金面や市場性などの観点からはどうなのか、といった、聞き手から突っ込んだ質問が出てきます。伝えたいことをまとめ、流れに沿って説明できたとしても、質問や反論の内容をあらかじめ想定して答えを用意しておかなければ、四苦八苦してしまうことがあります。予想される質問に対する答えのスライドや資料を本編のものとは別に準備しておくとよいでしょうね」
英語学習の最終的なゴール
外国人相手のプレゼンテーションでは体の動きやアイコンタクトなども必要だと思われる。より強く印象付けるための表現力も身につける必要があるのだろうか。松本先生は、「実際のプレゼンテーションはもっとシンプルに考えればいい」と指摘する。
「アイコンタクトはしたほうがベターですが、無理をすることはないです。英文原稿を書いて暗記する必要もないです。そもそも聞き手の側が資料ばかり見ていて、アイコンタクトを取りたくても取れないケースがありますから。可能であれば、キーパーソンに目線を向けつつ、メモを見ながら話せば問題ないです」
体の動きという点でも、大げさなジェスチャーはいらないし、Be natural.が基本。しかし、表現についてはアドバイスがある。
「英語でプレゼンするときは、日本語のときよりも強い表現を使ったほうがいいですね。例えばI thinkよりはI believeなど、確信を持っているという印象を与えられる表現を使うと効果的です」
加えて、プレゼン本番のときだけでなく、日頃から英語でコミュニケーションを積極的に行うことも重要とのこと。つまりビジネスランチなどの機会も大事にしたいわけだが、そんなとき気をつけるべきことは何だろう。
「自分だけ先に食べ終わってしまわずに、相手の食べるスピードに合わせながら会話を楽しむ。自分のことを話すときには、事実だけではなく、できるだけおもしろおかしく伝えることが大事。外国人ビジネスパーソンの多くは、明るくて自己開示を恐れない人を好む傾向があるので、普段からこちらから話しかけ、おもしろい人だと思われると、次の仕事のチャンスにつながったりするものです」
派手なアクションより論理と積極性――それが英語プレゼンテーションの基本ということだ。