地域づくりへの貢献には二つの方法がある
──「コミュニティ人間科学部」設立の背景や目指す方向について教えてください。
【鈴木】国は1970年代から、自律的、能動的な市民によって構成される「コミュニティ」の形成に力を注いできました。しかしそれは、いまだ道半ば。しかも地域社会では現在、高齢化や過疎化、産業の衰退が進み、外国人の転入などへの対応も求められています。一方で地縁のつながりは薄れ、地域の問題は役所に任せれば良いという無関心な層も少なくありません。今のままでは20年、30年後、日本は成り立たなくなってしまうでしょう。この状況を変えるには「地域の課題は自分が解決する」という意識と能力を備えた人材が不可欠です。
産業振興などを通して地域活性化を目指す学部は他大学に存在します。本学ではそれとは別の“地域をつくるのは人間”という視点で、教育学や社会学を基盤としながら、自律的に考え、行動して地域の課題を解決していける人材を育てたいと考えました。地域づくりに貢献するには二つの方法があります。一つは公務員やNPO職員などの専門家として活動する道。そしてもう一つは企業と地域、学校と地域の連携などの担い手として市民の立場で貢献する道。この二つの道でコミュニティの形成を支え、青山学院のスクール・モットー「地の塩、世の光」を体現するような人づくりを目指したいと考えています。
「8人1組で1週間」の地域実習を実施予定
──具体的にどのような学びを提供する予定ですか。
【鈴木】まずは基本知識として教育学、社会学、心理学などの視点から地域で活動する人々への理解を深めるとともに、地域行政や社会の仕組みを学び、地域というものを見る土台をつくります。さらに地域の実態を把握する調査の技法として、文献資料を読み解く技術、統計調査やインタビュー調査などを実施・分析する方法論を習得してもらう計画です。
カリキュラムの中には、「子ども・若者活動支援プログラム」「女性活動支援プログラム」「コミュニティ活動支援プログラム」「コミュニティ資源継承プログラム」「コミュニティ創生計画プログラム」という地域の課題に即した五つのプログラムを用意し、それぞれの観点から学びを深められるようにしています。
──カリキュラムの特徴や独自性などについて教えてください。
【鈴木】地域づくりでは他者との対話や議論を通して答えのない課題を解決していく力が欠かせません。そこで1年次から4年次までアクティブラーニングによる少人数の演習を実施。コミュニケーション力や実践力を磨きます。また、学芸員、司書、社会調査士、社会教育主事といった専門的な資格をカリキュラムの中で無理なく取得できるのもポイントでしょう。
そして本学部の特徴となるのが、3年次の地域実習です。それまで築いた知識や調査の技術をもとに綿密な事前調査を行い、現地に臨みます。実習では全国の市町村や地域施設、NPOなどと連携しながら、8人程度1組で1週間にわたり実際の地域活動に携わり、そこで学んだことをその後の専門演習や卒業研究などに反映していきます。実践を通じてリアルな人間を理解し、それを課題解決に生かしてほしいというのが地域実習のねらい。知識、教養の上に技術を身につけて、それを現場で運用できる力を養ってほしいと考えています。
──最後に、「コミュニティ人間科学部」開設にかける思いをあらためて聞かせてください。
【鈴木】地域課題の解決には、多様な人々の力を結集できる核となる人物が必要になります。そこで求められるのは人間的魅力に加え、何か一分野で秀でた能力です。それが周囲に対する求心力となります。本学部ではそのような資質を持ったキーパーソンを育てたい。関心を持ったテーマを人との関わりの中で追究することができ、周囲に頼りにされる人材なら、公務員、NPO職員などはもちろん、一般企業でも活躍できるでしょう。
グローバル人材の育成には、本学を含む多くの大学が熱心に取り組んでいます。ただ、その一方で日本国内にも多様な問題が存在します。そして、それらの多くはこれからの世界の課題でもあります。社会の未来は、地域の問題にどう対応するかで大きく変わってくるはずです。ですからお子さんが地方創生やコミュニティに関心を持ったら、ぜひその思いを後押ししてあげてほしいと思います。
また本学部では社会人を対象とした自己推薦入試も予定しており、企業で働きながら、あるいはリタイア後に自分が暮らす地域に貢献したいと考える人も後押ししています。幅広い方に、「コミュニティ人間科学部」に興味を持っていただけたら嬉しいですね。