労働時間管理という発想を変える

会社として特に気をつけていることは、労働時間の管理だ。2003年に残業時間の管理を厳格にする一方で、柔軟な働き方ができるように就業規則を改訂した。「36協定を締結するなどして残業時間が増えないように十分な注意を払っている」という。

自宅やサテライトオフィスに勤務する社員は、出勤・退勤をメールや社内用SNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)やチャットツールでもある「Microsoft Teams」に毎日報告する。勤務時間中、本社と各自宅やサテライトオフィスは原則としてオンライン会議システムに常時接続し、WEBカメラで互いを通じて見ることができる。

星野氏が、労働時間の管理について語る。

「当社では厳格に行っているが、副業の労働時間についてこちらからは管理ができない。また、するものでもないと思う。機会があるごとに、本人に労働時間や体調面などを差しさわりがない範囲で尋ねている。最終的には、本人が責任をもって対処していくことになる。副業は、社員に権限を委譲することであり、社員もその認識で取り組むべきものだと思う」

さらに「管理という言葉の使い方に疑問を感じる」と述べ、続ける。

「社員をコントロールし、枠の中に収めようという発想で管理をするのは、認識として誤りではないか。当社は、15年程前に就業規則をはじめとした社内のさまざまなルールを社員とともに考え、変えてきた。就労スタイルや勤務場所、労働時間を社員の考えや価値観、ライフスタイルに合わせるのもその一環だ。その意味で、対等の労使関係を模索してきた。副業は、それを具現化したものだ。

今の働き方改革で取りあげられるテーマ、課題は政府や企業が社員を管理するという前提のもと、議論されている。それは、これまでの労使関係の延長線上の議論でしかない。そのような認識で副業を始めたら、会社は成り立たない。働き方改革の議論は、とらえ方によっては労使関係の対立をあおることにつながりかねない。労使関係を実態に応じて変えたうえで進めないと、問題や混乱が起きるはずだ」

取材の場に同席した広報担当で企画チームの衣笠純子氏は、こう語る。

「当社では仕事をはじめ、さまざまなことについて社長と直接、話し合える機会が多い。この関係があるから、副業などの柔軟な働き方も可能になる。社員の側からすると、テレワークにでもチャレンジしてみようという思いになる。この関係がない中でIT機器やその体制をそろえても、柔軟な働き方は浸透しないと思う。私は、働き方改革の議論を機に労使の関係をあらためて見つめ直すことを講演やセミナー、コンサルティングの場で繰り返し提言している」

IT技術の発展などで「時間・空間に縛られない働き方」が可能になり、広い範囲で副業が進むかに思われる。しかし、遅々として進まない。その大きな理由は、実はこの数十年間、私たちが真摯に議論することを避けてきた労使関係にあるのかもしれない。