企業が競えば「働き方改革」が入社条件に
しかし、正直言って少々やり過ぎではないかと思う。ワークライフバランスの諸制度がいかに充実していても実際に利用している社員が少ない企業もある。また、平均残業時間が減少しているといっても部署単位の残業時間は異なる。人事部の目が行き届く本社の残業時間は少なくても支社、支店では長時間残業をしているところもあるかもしれない。ましてや新人の多くは入社後研修を経て支店勤務に従事する人が多い。
しかも、ノー残業デーや定時退社など取り組んでいる働き方改革は現在進行形であり、成否は明らかではない。なかなか改善できずに苦労している企業もあるなど“生煮え”状態にある。それをさも全社員が実践しているような印象操作をすれば学生に誤解を与えかねない。また説明会に登場する先輩たちは選りすぐられた優等生であり、決して平均的な社員ではない。彼ら、彼女らの発言を聞いて「この会社は働きやすそうだな」と思ってしまう学生も少なくないだろう。
こうした懸念を持っているのは筆者だけではない。新入社員の研修を手がける人材教育会社のコンサルタントはこう語る。
「学生さんが会社の労働環境を気にするのは電通過労自殺事件の影響もありますが、採用活動の中で企業が当社は残業時間が少ないとか、労働関連のコンプライアンスを順守していますと盛んに謳っていることもあります。企業が働き方改革で競い合えば、当然学生もそれを指標にしますし、企業が助長している側面もあります」
また、企業の説明に違和感を抱いている学生も少なくない。就活中の上智大学の女子学生はこう語る。
「働きやすさについてのアピールは説明会で聞かない日はないぐらい多かったです。インターンシップに参加すると、働きやすい会社かどうかはわかりますし、納得しますが、説明会では本当かなと思って聞いている。私の基準は遅くても午後8時ぐらいには帰れる会社。2時間程度の残業ならよいと思っていますが、先輩社員への質問コーナーで『残業があるときでも9時前には帰れますか』と聞くと『ほとんどの人が9時前に帰っています』と、少し頼りなげな口調で言う人もいます。それだけでここは危ないなと思ってしまいます」