これまでに10人が申告し、入院・手術などをした。うちの3人は3週間ほどで、7人は約1カ月で復職した。10人は、この期間をすべて有給休暇で対応している。10人は早期のがんであり、出術後の経過も比較的順調だったため、復帰を認めた。本人の強い希望によるものでもある。
復帰時には、本人が医師の診断書を人事部に提出する。人事部員は特に就労上の注意を念入りに読む。そのうえで、本人に症状、就労の意志などを確認する。産業医にも就労上の注意などを聞き、復帰を認めるか否かを決める。深刻な症状の場合は、復帰を認めないこともある。
認める場合、就労のあり方は本人と話し合い、その考えを可能な限り尊重し、決める。ただし、少なくとも1カ月間は、フルタイムの勤務、残業や出張を制限する。体調の悪化で急きょ休む場合があることを想定し、ほかの店舗で働く理・美容師がすぐにその店で働くことができるようにもしている。
復帰1カ月終了、3カ月終了時点で、人事部は本人やその上司に状況を丁寧に、念入りに確認する。状況いかんでは、人事部員が店舗に直接出向き、話し合いをしたりすることもある。
会社が社員からいかに信用を得られるか
仕組みづくりの4つめの特徴は、今後起こりうることを想定し、明確なルールを設け、周知徹底していることだ。例えば、長期休暇となる社員が現れることを考慮し、次のように定めている。
「有給休暇をすべて消化し、なおも休む場合、病気療養のための休暇である「傷病休暇」を最長1カ月取得することができる。その後も休む必要がある場合、休職となる。期間は、勤務年数が1年未満は1カ月、1年~3年未満は3カ月、3年以上は6カ月とする。期間中は無給だが、傷病手当金を申請することで、健康保険組合から給与の3分の2(約67%)が支給される」
仕組みづくりの特徴の1~4があるがゆえに、同社の社員が心を許し、人事部員に症状などを詳細に伝えていることが推察できる。言い換えると、このような仕組みがない中、会社が「病気であることを報告するように」と求めても、難しいのかもしれない。
会社が社員からいかに信用を得るか――。病気の治療と仕事を両立できる環境を整備するうえで最も大切なことでありながら、忘れ去られがちなことではないだろうか。