誰にも当てはまる共通の解決策はない
──ビジネスパーソンのお金の悩みについて近年の傾向などはありますか。
【菱田】統計で見ると、例えばこの10年ほど預貯金などを含む「金融資産がない」という世帯が増加傾向です。これは必ずしも年収の低い人に限った話ではなく、年収1000万円以上の人でも10%程度が該当します。とはいえ具体的な悩みは人それぞれ。なかなか一般化できません。そもそもお金に関わる問題は「人は人、自分は自分」というのが正しいとらえ方です。誰にとっても共通する解決策というものは存在しません。“こうすれば人生は必ず幸せになる”という正解がないのと同じです。
──そうした中、ファイナンシャル・プランナーとして、相談者にどんなアドバイスをされるのですか。
【菱田】まずその方に、人生における希望を一つ一つ挙げてもらいます。若い世代であれば、子どもは欲しいのか、家は欲しいのか。シニア世代であれば、老後はどこでどんな暮らしをしたいのか。そして優先順位を付けてもらう。お金の話はそれからです。投資や資産運用というと、いかにお金を増やすかに気持ちがいきがちですが、本来お金をどう使って、どんな生活を送るのかが大事です。
──資産運用について、一般の人たちの関心は高まっていますか。
【菱田】およそ20年この仕事をしていますが、正直あまり変わっていないという印象です。例えば近年、投資にかかわるさまざまな税制優遇措置なども出てきていますが、全体で見れば利用している人はまだ少数。やはり多くの人がリスクというものに対して必要以上に神経質になっているように感じます。リスクが怖いから投資はしない、と。
けれども、世の中にリスクがない資産はありません。預貯金もインフレが起これば実質的な価値が減るのはご存じのとおりです。意識すべきはリスクの有無ではなく、その度合いや種類。どんな資産に、どんなリスクがあるのかがわかれば、自分にとって合う商品、合わない商品も見えてきます。
一喜一憂しないで済む環境をつくっておく
──やはり資産運用を始めるにあたっては勉強が必要でしょうか。
【菱田】私自身は、学びはそれほど必要ではなく、まず始めてみることが大事だと思っています。もちろん、現在の金融商品などは複雑なものも多いですから、ある程度仕組みを理解しておく必要はあるでしょう。ただ投資手法などについて細かい勉強を重ねても、マーケットは常に思いどおりに動くわけではありません。誰も10年後、20年後の世の中を正確には予測できない。将来はわからないものだと考えておくのが賢明だと思います。
実際に資産運用を行う際の無難なスタンスは、基本的なことですが分散投資です。ここで、先ほどお話ししたリスクの度合いや種類の理解が役に立つ。リスクのタイプが違うものに資産を振り分けていくという視点を持つことで、自然とバランスの良いポートフォリオを組むことができます。
──資産運用がうまくいくのはどんなタイプの人ですか。
【菱田】自分が保有する資産の値動きに一喜一憂しない人がやはり上手に運用できていると思います。幅広い資産に分散したポートフォリオ運用ができているほど、日々の値動きは気にしなくていい。ある資産が値下がりしても、別の資産でカバーできているのが通常だからです。
資産管理のコツとして、年に1回、自分が保有する資産の“現在の価値”を把握して、値動きを見極めましょうという話をよくします。全財産を円だけでなく、ドル換算、ユーロ換算してみるとよいでしょう。
──金融機関や不動産会社などを選ぶときのポイントがあれば聞かせてください。
【菱田】基本的には、手数料や事務手続きにまつわるコスト、ネットの利便性などが比較のポイントになるでしょう。ただ現実には、相性というものもあります。飲食店を選ぶときも、当然ただ安ければいい、空腹を満たせればいいということではないはずです。雰囲気やサービスの質も大事になってくる。資産運用は長期にわたるものですから、会社の考え方や担当者の対応も選択の基準になってきます。ただこれも、初めにお話しした「人は人、自分は自分」。自分の目で確かめる必要があります。
──最後に、資産運用を考える読者にメッセージをお願いします。
【菱田】わからないから何もしない──。実は、こうした人がとても多いのが実情です。しかし、何もしないことはリスクをコントロールする手段にはなりません。繰り返しになりますが、いかにお金を増やすかという発想ではなく、希望するライフプランを実現するために資産をどう守り、管理するか。そうした視点でお金の問題と向き合ってほしいと思います。