今の時代が「変革期か、安定期か」と問われれば、やはり変革期と答える人が多いだろう。ではいったい、変化の舵はどのような方向に切られているのか──。

日本が提唱している「Society 5.0」とは

進展するグローバリゼーションと向き合いながら、豊かで強い国づくりを目指す。そのために海外の先端技術を柔軟に取り入れ、国内においては税制改正などによって財政の安定化を図っていく──。

こういえばまさに現在の日本だが、実はこの状況、今から150年前の明治維新の頃の日本にもぴったりと当てはまる。

“富国強兵”を合言葉に、交通や通信などのインフラを整備し、欧州の生産技術を導入する「殖産興業」を推進。一方で「地租改正」を行い、課税の基準を収穫量から地価にあらため、その3%を現金で納税させた──というのは日本史の教科書で習ったとおりだ。ほかにも、廃藩置県や四民平等、学制の導入などが行われた明治維新。その意義についての評価はさまざまだが、各種の施策が社会構造を大きく転換させたことは間違いないだろう。

翻って現在、日本はどのような社会、国づくりを目指しているといえるのか。その方向性を知ることができる一つの資料が、政府による「未来投資戦略2017─Society 5.0の実現に向けた改革─」である。

副題にある「Society 5.0」がこの戦略の重要なキーワードだ。狩猟社会、農耕社会、工業社会、情報社会に続く、人類史上5番目の新しい社会。サイバー空間(仮想空間)とフィジカル空間(現実空間)の融合により、経済発展と社会的課題の解決を両立する人間中心の社会として日本政府が提唱しているものである。

「未来投資戦略2017(ポイント)」をもとに、内容を抜粋して作成。

日本が持つ現場力をこれからの強みに

では具体的に、未来に向けてどのような投資が重要だと考えられているのか。その内容を少し見てみたい。

まず、「未来投資戦略2017」が中長期的な日本の成長の鍵として位置付けているのが“第4次産業革命”だ。IoT(モノのインターネット化)やビッグデータ、AI(人工知能)、ロボットなどを活用し、生産性の飛躍的な向上や従来なかったサービスの創出を実現する。そんな新たな産業革命の中で、日本は強みを発揮できる可能性が高いという声は産業界からも上がっている。どういうことか──。

これまでITは、主にインターネットの世界で新たなサービスや価値を生み出してきた。それがバーチャルな世界の枠を超えて、人やモノを直接的に伴うさまざまな“現場”で生かされるようになるのがこれからの時代だ。実際に工場や店舗はもちろん、すでに医療や介護、交通機関、金融などのあらゆる分野でIoTやAIは活用され始めている。そうした場面でのオペレーションの質の高さ、いわば現場力は過去日本の成長を支えてきた大事な要素に違いない。リアルなデータを蓄積し、それをもとにハードウェアとソフトウェアのすり合わせを行うのは、まさに日本人の得意とするところ、というわけである。

加えて、少子高齢化による生産年齢人口の減少や地域の過疎化、介護サービスの需要増加などが急速に進む日本は世界における課題先進国。第4次産業革命が生み出すこれまでにない製品やサービスへの潜在的なニーズは高い。そうした状況が、むしろイノベーションを推し進める原動力になるとも考えられている。

来る2018年、いっそう本格的に動き出す「Society 5.0」に向けた国の戦略は上にまとめたとおり。いずれも、私たち一人一人の暮らしに直結した領域であることがよくわかる。一方で、社会課題の解決に力を注いでいるのは当然ながら政府ばかりではない。民間企業や地方のノウハウ、またエネルギーがこれからの社会づくりに大きな役割を果たすことは間違いない。