2018年は明治維新から150年の節目。当時、維新の雄藩として「薩長土肥」に列せられた肥前藩(佐賀藩)は、西洋の先端技術をいち早く取り入れ、鉄製大砲鋳造や蒸気機関製造などを行い、日本の「ものづくり」をリードした。そんな佐賀県が今、あらためてビジネスの場として多くの企業から関心を寄せられている。今年7月、佐賀市の中心部にデバッグセンターを開設したCygames(サイゲームス)もそのうちの1社だ。東京、大阪を拠点とする同社が、佐賀を選んだ理由はいったいどこにあるのか──。

“粘り強さ”や“責任感”など人材の質の高さを評価

平岡徹也(ひらおか・てつや)
株式会社Cygames
佐賀デバッグセンター センター長
大手ゲーム会社でデバッグリーダーとしてさまざまなコンシューマーゲームソフトの品質管理に携わった後、2012年デバッグチーム責任者としてCygamesに参画。17年7月佐賀デバッグセンターの開設に伴い、センター長に就任。

「新作ゲームのリリースや既存ゲームのアップデートなどに際し、不具合や欠陥がないかなどをチェックするのがデバッグ業務。ユーザーにとってはバグがないのが当たり前ですから、その作業には高いレベルの緻密さ、正確さが求められます。同時にデバッグは、ゲームづくりの仕上げでもある。その意味では、クリエイティビティも必要な仕事といえます」

そう説明するのは、サイゲームス佐賀デバッグセンターの平岡徹也センター長だ。まさにそれを担う人材の質が、世界に配信される“コンテンツの質”に直結する。そんな重要な役割を持つデバッグセンターの設置場所は、どのような経緯で決められたのだろうか。

「事業拡大に伴い、東京に次ぐ第2のデバッグセンターを開設するにあたって佐賀に目を向けたのは、弊社代表の渡邊が伊万里市出身というきっかけもありましたが、実際にリサーチすると条件に合う部分が多く、本格的な検討に入りました。情報系の専攻を持つ大学や専門学校が複数あったことも魅力の一つ。採用面で有利に働くと考えました」

ただし、デバッグセンターが求めているのは人材の数ではなく、あくまで質だ。そこで平岡氏らは自ら県内の大学や専門学校に足を運び、教員から直接話を聞いたという。

「すると、学生に関する会話の中に“実直”や“粘り強さ”といった言葉がどの学校の先生方からも自然と出てきました。デバッグのスタッフは、単に不具合を見つけるだけでなく、それを開発部門に正確に伝え改善を依頼する。そして修正されたものを確認するという一連の作業を行います。その中ではまさに責任感や使命感が重要になりますから、先生方の話は心強く感じました」

Cygamesは「神撃のバハムート」「グランブルーファンタジー」「Shadowverse」(上の画像)をはじめ、各種プラットフォーム向けのゲームを企画・開発・運営を行っている。

佐賀の県民性については、すでに進出している企業も高く評価しているところだ。個々人の資質に加え、“若い人の定着率が高い”“離職率は業界平均の半分以下”といった声もよく聞かれる。もともと佐賀は、江戸時代に「葉隠」の思想が生まれた地。その一節には「常に己の生死にかかわらず、正しい決断をせよ」とある。その精神は、今も真摯さ、誠実さとしてこの地に息づいているというわけだ。

「現地で採用を行い、業務がスタートしてからも、そうした印象は変わりません。もちろん一人一人個性はありますが、教わったことに疑問があれば、納得するまで聞いてくる。“仕事を任せてほしい”と前向きな行動を見せる。そうしたスタッフが多い。一方でコミュニケーション能力も備えています。デバッグというと一人で黙々と行うイメージがあるかもしれませんが、開発部門とやりとりしたり、負荷が集中しているメンバーがいればサポートしたり、協力が欠かせない。その面でも皆しっかりやってくれています」

事業所紹介

株式会社Cygames 佐賀デバッグセンター

佐賀市駅前中央1丁目8番32号 iスクエアビル4階


Cygamesが開発している各種ゲームの不具合を発見する業務を担う。内製化により、業務の質、またスピードの向上を目指している。2017年現在、新規雇用約30名を達成。20年には新規雇用約120名を計画している。

 

抜群の交通アクセスも魅力 東京への出張もスムーズ

空港、鉄道、高速道路、さらに港湾まで多様な交通インフラを備える佐賀県。九州内外への好アクセスは事業エリアとしての大きな強みの一つだ。九州佐賀国際空港(上写真)と羽田空港間は、毎日5便が往復している。

さらに、東京本社から赴任した平岡氏が実感している佐賀の利点が交通アクセスの良さだ。東京への出張の際は空路を利用するが、佐賀市街から九州佐賀国際空港まではクルマで30分程度。日帰り出張も十分可能だ。

「隣接する約1600台収容の駐車場が何日駐車しても無料なのには驚きました。クルマを降りれば目の前が空港なので移動のストレスを感じることがありません。また、鉄道もとても便利。博多までこれほど近いとは思っていませんでした」

佐賀駅から博多駅まで特急で最速34分。そして新鳥栖駅には山陽・九州新幹線「さくら」が全便停車し、九州各地、西日本へもスムーズにアクセスできる。また、ビルの賃料や地価は比較的安く、経営コストの面でもメリットを提供している。福岡と佐賀の距離関係は、東京と横浜のそれに近いといわれるが、それも納得だ。

「今回のセンター開設にあたっては、佐賀県、佐賀市から多面的なサポートをいただきました。各種補助金もそうですが、オフィスの紹介をはじめ、こちらの相談に対する丁寧な対応、ソフト面での支援が印象に残っています」

県や市が一体となった佐賀の優遇制度は全国でもトップクラス。県職員が部署を異動しても担当企業の窓口であり続けるパーマネントスタッフ制度なども特徴的だ。平岡氏も、自治体担当者の“ぜひ佐賀に”という熱意が進出を後押ししたと振り返る。

加えて、生活環境の面では、都会に比べ伸び伸びしていて、公共施設や商業施設も一通り揃っており、暮らしやすさや子育て環境の面も充実している。

「佐賀は、何よりご飯がおいしい!! 素材も新鮮だし、料理もとてもおいしいんです。街では皆さん気さくに声をかけてくださいますし、暮らしや子育ての面で何か不便があるかと聞かれても、思い付きません。これまで九州に住んだことはありませんでしたが、赴任してきてよかったなと思っています」

“佐賀から世界へ──”を合言葉に、サイゲームス佐賀デバッグセンターは人員を着実に拡大し、順調に事業を進めている。従来、ものづくり企業や物流業からの注目度の高かった佐賀県だが、今後はIT企業や事務系の業種にとっても見逃すことができない事業エリアの一つとなりそうだ。