「開発段階でデザインについて市場調査を行ったら、10点満点の人がいる一方で、1点、2点という人もいる。この結果を聞いて、“よし、狙いどおりだ”。そう思いました」

と言うのは、来春に日本での発売を予定している三菱自動車「エクリプス クロス」のプログラム・ダイレクター、山内裕司氏だ。

山内裕司(Yamauchi Hiroshi)
三菱自動車工業
エクリプス クロス
プログラム・ダイレクター
1996年三菱自動車工業 研究部入社。 2015年からエクリプス クロスを担当。 2017年からプログラム・ダイレクター(C&D-seg)を務める。

「なぜなら、誰もが及第点を与えるような平均的なクルマは決してつくりたくなかったからです。今の時代、あらゆる情報が大量に氾濫し、何が真実かが見えづらくなっています。ただそうした時代だからこそ、周囲に流されることなく、揺るぎない価値観、確固たる信念を大事にして、前向きに生きていきたいと考える人たちも出てきている。私たちが今回のクルマを届けたいのは、まさにそうした人たちなんです」

乗る人の行動意欲を駆り立て、好奇心を存分に満たしてくれる──。それが、新たなブランド・メッセージである「Drive your Ambition」のもとで三菱自動車が世に送り出す新型車、エクリプス クロスなのである。

「プロジェクトチームが常に心に留めていたのは“一歩先へ”というキーワードです。三菱自動車として先進的な一台を生み出したいという意味もありますが、同時にドライバーの一歩先へという気持ちを後押ししたい。そんな思いを強く持っていました。物理的にも、精神的にも、これまで経験したことのないフィールドに足を踏み入れてみたい。自分自身を試してみたいという気持ちはある種人間の本能だと思うんです。それは、テクノロジーの進歩によって社会がどんなに変化しても変わらない。エクリプス クロスは、そうした人間の普遍的な野心、つまりAmbitionを駆動する“相棒”となることを目指して開発されたクルマといえます」

100年の歴史を持つ三菱自動車の原点を追求

1982年の初代パジェロ発売以来、三菱自動車は長年にわたりSUVに関する技術やノウハウをその第一線で磨き続けてきた。どんな路面状況でも、安全に、快適に“走る歓び”を味わえる。エクリプス クロスにもそのための性能はしっかり備わっている。加えて、同社にとって久々の新型車となるこのクルマの特長がデザインだ。“クラウチングスタートを切った瞬間のアスリート”とも表現される躍動的なフォルムは、発売前から高く評価されている。

大胆なウェッジシェイプ(前傾姿勢)が印象的。これまでにない形でSUVとクーペを融合している。

「SUVにはこんなスタイルもある。まだまだ可能性があるんだということを示すべく、デザインには細部まで徹底してこだわりました。独自のスポーティなルックスと実用性を両立させるため、リアにダブルガラスを採用するなど、施した工夫を挙げていけば切りがありません。そこにはデザイナーとエンジニアの厳しい議論も当然ありました。それでも最終的に皆が納得する完成品ができたのは、シンプルに“美しくて、カッコよくて、乗って楽しいクルマ”をつくろうという目標を全員が共有していたからにほかなりません」

クーペSUVとしてのデザイン性を保ちつつ、後方の視界をしっかりと確保するため、リアにはダブルガラスを採用した。

ものづくりの現場では、意見の相違やある種の矛盾と向き合わなければならない場面が時として訪れる。その解消はリーダーの重要な役割の一つだが、山内氏はそんなとき、できる限り互いが膝を突き合わせて話すことを信条にしているという。

ブラックとシルバーのモノトーンを基調とした上質な室内空間。センターには、スマートフォン連携ディスプレイオーディオやタッチパッドコントローラーなどを配置している。

「今は便利な通信手段がありますが、それらを通じたコミュニケーションだと、やっぱり“熱意”が伝わらない。同じ空気を吸ってこそこちらの思いが伝わるし、相手の気持ちも理解できる。少なくとも私は、そうした熱意のやりとりが成功の条件だと思っています」

その上で山内氏は、「一方で電動化や自動化を背景に、現在クルマ社会は大きな過渡期にある。その中で結果を出すには、当社もあらためて存在価値を見つめ直す必要がある」と現状への危機感を示した。Drive your Ambition。行動範囲を広げ、さまざまなことに挑戦したいという人をサポートし、自らも大志のもと独創的なクルマを生み出していく──。そうした三菱自動車からのメッセージも自分たちの価値を見つめ直した上での宣言に違いない。

「繰り返しになりますが、私たちに求められているのは誰もが好む平均的なクルマをつくることではありません。ほかにない、かつてない一台をいかにつくれるか──。それが生命線であり、100年の歴史を持つ三菱自動車の原点でもあります。実際、私を含め当社のスタッフは“誰もやったことがない”という言葉を聞くと自然と心が沸き立ち、ワクワクしてくるんです」

三菱自動車が持てる技術と思いを注ぎ込んでつくり上げたエクリプス クロス。それが真の相棒になり得るか、試してみる価値がありそうだ。