女性活躍推進法などの働き方改革が追い風となり、日本企業は大きな転換期を迎えている。そんな中、ひとつの方法論として女性活躍&働き方改革の視点から「1日1時間」単位でのより柔軟な働き方を目指す企業が登場している。これは極端な例だとしても、空前の売り手市場の中で優秀な人材、とりわけ女性社員をきちんと雇用し、会社に根付かせるためには、従来の常識を捨てる抜本的な改革が不可欠だ。これからの日本企業に求められる柔軟な働き方を、実際に社員を統括する女性経営者、子育てと仕事を両立する女性ワーカーのリアルな現場視点、そして実現のために欠かせないテクノロジー活用の視点から鼎談スタイルで紐解いていく。

迷走を続ける日本の「働き方改革」、原因は舵を切れない経営者にも。

株式会社キッズライン
代表取締役社長
経沢香保子
リクルート、楽天を経て26歳で創業したトレンダーズ株式会社で2012年に当時女性最年少での東証マザーズ上場を果たす。現在「日本にベビーシッターの文化」を広め、女性が輝く社会を実現すべく、スマホから1時間1000円~即日も手配可能な安全・安心のオンラインベビーシッターサービス「キッズライン」を運営している。

【経沢氏】日本における女性活躍推進法といった働き方改革の流れは、とてもいい傾向だと感じています。まだ実態が伴わない、かたちだけかもしれない。それでも後から血が通い中身がついてくればいい。私が就職活動した頃は普通に「女性は頑張っても評価されないよ」といったパワハラ発言が当たり前でした(笑)。子育てにやりがいを持たなければ女じゃない。仕事のやりがいを感じるのは欲張りと考えられた時代は確かにあったので、その考え方が大きく変わってきて良かったと思っています。

【保泉氏】私が新卒で入った会社は男女平等に採用するかたちでした。しかし、結婚を機に子供を産んで働き続けることを考えたときに、当時の環境では仕事に対する意欲を減らさないと育児との両立ができないと感じました。そこで現在の会社に転職した後に出産、その2ヵ月後に復職します。同じくリモートワーク制度のある夫が育休をとってくれたおかげです。現在は経沢さんのキッズラインのベビーシッターさんの力をお借りしながら、夫婦でフルタイム勤務をしています。

【経沢氏】ご利用ありがとうございます。いいご主人ですね。保泉さんのように、現在の働く女性たちは仕事と育児の両立ができるか、育児に対してポジティブな環境か、会社をシビアに見ています。先日、お伺いした某大企業で「多くの女性社員が20代後半で急に転職する」と相談を受けました。みんな出産年齢を見越して、働きやすい職場を求めて早めに転職活動するようです。ただ、グループ連結で数万人という規模の企業では、急に制度を変えられないですが。フットワークの軽い中小企業ならそこまでの足かせがないので、経営者が決断すればいっきに改革が進みます。

【甲斐氏】まさにその通りで、まずは経営者がスタンスを変える必要があります。いまの時代も若い人の多くは大企業に入りたい。さらに売り手市場でもある。特に中小企業にとってより欲しい人材を確保するなら大企業よりも若い人に魅力的な労働環境づくりが重要になるのです。

【経沢氏】男性、女性を問わず若い人材を採用したいと考えるなら、相手のライフスタイルを尊重したほうが有利ですよね。いまの若い人は感動するほど優秀でセンスがあります。生まれたときからITを自然に使いこなして、情報にリーチできて、行動力もある若者に好かれる会社であるかどうかを、つねに私は考えるようにしています。成功体験を築いた従来のやり方を変えるつもりがないのなら、同じ考えを持つ仲間を集めればいい。ただ、さまざまな世代、性別が混在するダイバーシティの軋轢があったほうがイノベーションは生まれやすいと思います。新しいステージにチャレンジしたい経営者であれば大胆な改革は必要だと思います。

いま、優秀な人材を迎えたい企業にはどんな決断と改革が必要なのか。

【経沢氏】大切になるのは経営者の社員教育ではないでしょうか。もし経営者が、顧客志向の事業方針を掲げ、利益を確保しながら良質なサービスや商品を提供すること、社員の幸せを追求することを徹底的に考えれば、社員は背中を見て育っていくと思います。そうすれば、生産性も上がりますし、自然に挑戦するポジティブな企業文化ができていきます。

ここで重要なのはコミュニケーションによる顧客志向の事業ビジョンの共有です。最近、私は自分の会社によい人材が集まる理由は「ベビーシッターの文化をつくる」という社会に対して有益なビジョンを掲げているからとわかりました。若い人ほど、誰かを喜ばせる、社会に貢献できる仕事に対する合理的、本質的な感性は敏感だと思います。保泉さんもそうだと思うのですが、子供を育てて働くときに、仕事が育児と同等な社会的意義を感じるかということを比較する人は増えていくと思います。

保泉綾香
金融機関に入社後、法人営業を経て法務部に勤務。結婚を機に子育てと仕事を両立するビジョンを描き切れず転職を決意。2016年1月に現在の会社に入社し11月に出産、翌年1月に復職。現在は事務部門のチームリーダーとして、リモートワーク制度をフルに活用して育児と仕事を両立した柔軟な働き方を実践している。

【保泉氏】育児との両立を目指すほど、頑張りたい仕事なのかと友達と話すこともあります。子育てしながら、やりがいのある仕事を女性として続けられるというのが働き方改革の成果だと思っています。

【甲斐氏】仕事の意義と同等に大切になるのは、社員の多様なライフスタイルに応じた柔軟な働き方が選択できる環境をつくることです。働き方は会社ではなく、個人が決めるべきものだと私たちは考えています。いまの世界的なトレンドで申し上げるなら「One Life」、いわゆるプライベートとビジネスの境界がない働き方が広がっています。これはテクノロジーがそうさせているともいえますが、もう逆らえない流れになりつつあります。また、どうしても日本は制度を先につくりがちですが、制度よりも文化を根付かせていくことのほうが大切なのかもしれません。社員をより幸せにしようという経営側の真摯な取り組みの結果として、いい人材が現れ、経営が上向きになっていく。そのようなサイクルを最適なテクノロジーで支援して、日本中に広げていくことが私たちの使命だと考えています。

【保泉氏】現在の会社が前職と比べてありがたいのは、育児中の母親に限らず全社的にリモートワーク制度が利用できることです。自宅や電車内のすきま時間を利用してBYOD端末でメール、スケジューラなどのチェックができるので、次の日に出社したときの準備運動、心構えができるのは助かっています。もちろん、PCを持ち帰ってアウトプットをつくることもできます。夫の会社からベビーシッター費用の補助も出ますので、毎週金曜の夕方は1、2時間カフェで仕事をして、夫と食事して帰るようなこともしています。

【経沢氏】私の知っている会社では毎週水曜を全社一斉で在宅勤務にしているところがあります。社員数が少ないのでできることかもしれませんが、ITを使って情報共有すれば仕事が回るそうです。社員にも通勤のストレスがなくなるので好評だと聞きました。

仕事=時間という考えを捨てることで、「1日1時間勤務」は真価を発揮する。

【甲斐氏】社員のプライベートを幸せにして、豊かな心を仕事に還元してもらうコーポレートポリシーを掲げる企業があります。このお客さまから働き方の相談を受けて、最初に「働くことは時間提供ではない」という話をしました。私たちは時間提供の働き方はいずれ多くの分野でなくなり、時間は成果に置き換わると考えています。プロセスである時間の使い方は人により異なりますが、ゴールの成果はひとつだからです。

私たちはプライベート「or」仕事ではなくプライベート「&」仕事という、局面に応じてどちらを選んでもいい自由で柔軟な働き方を実現するテクノロジーを具現化させていきます。単純なワークライフバランスではなく、プライベートと仕事の境目がない「One Life」です。それが、お客さまのポリシーにフィットして多くの共感をいただいたと思っています。そうした経験から評価の指標を成果にシフトすれば、将来的にはITをフル活用した「1日1時間勤務」のような働き方も充分に可能になるのではないかと考えるようになったのです。「1日1時間勤務」を実現させることが目的なのではなく、本質は社員が自分の働く時間を自分で決めることができる、そして経営側はより自由な働き方ができる環境と文化をつくることにあります。それはすべて、社員の幸せの追求のためだととらえています。

株式会社日本HP
パーソナルシステムズ事業本部
パーソナルシステムズ・マーケティング部
部長 甲斐博一

【経沢氏】社員のプライベートのハッピーからスタートする考え方にはすごく賛成です。私はみんながハッピーであれば仕事の効率は上がると思っています。顧客の幸せ、社員の家族第一主義といったポリシーを掲げる企業でも、指標と実態がずれてしまうケースは少なくありません。明言したことを実行して、ずれなく一致させるスタンスは素晴らしいと感じました。

【保泉氏】いま私は成果見合いの裁量労働制で働いています。前職では裁量労働制が認められる40過ぎまで時間見合いで働く必要がありました。そんな年齢でリモートワークができても、出産や育児といったライフイベントを控えた女性に意味はありません。おかげさまで、いまの会社では局面に応じて仕事とプライベートを選択できる「&」の働き方が普通にできています。プライベートな時間に学びも多く、それが仕事のいいアウトプットにつながっています。

【経沢氏】自由で柔軟な「&」の働き方は、ITの普及した現代では充分に実現できます。保泉さんのようなITを活用したリモートワーク、夫との協力もできるし、会社に属さずともネットひとつで起業もできる。働き方の選択肢が広がってきたこれからの時代、経営者や会社のアイディアによって採用力の格差が広がっていきそうです。いままでは「雇用している」感じだったかもしれませんが、これからは「選んでいただける」という真摯な気持ちで、熱意を持って働くことの意義をきちんと伝えることが重要なのかもしれませんね。

もはやガチガチのセキュリティ対策は時代遅れ。
「&」の働き方を実現するITの絶対条件とは。

【甲斐氏】いまだにセキュリティポリシーで社用PCの持ち出しを制限する企業がありますが、必ずしも防御策にはならないことを多くの経営者、情シス部門がご理解されていません。たとえ社内で使っていてもネットに接続する以上、ランサムウェアなどの脅威から逃れることはできない。つねに新手の巧妙な手口が出てくるので完璧な対策はありえないのです。

【保泉氏】私の場合は社内で指定されたツールを利用すれば大丈夫なので、そこまでセキュリティ対策に不満はありません。ただ、使用しているPCはつねにリモートで監視されていて、最新のツールやパッチが入っているかはチェックされます。毎月、eラーニングでセキュリティの勉強もします。社員としては耳にタコができるほど、セキュリティに配慮するように言われますね。

【甲斐氏】それも働く人の負荷になるわけで、セキュリティを意識せずに働けたほうが生産性は上がります。どんなに最新のパッチを当てたところで新たな手口には引っかかる。被害を未然に防ぐガチガチの事前対策は無意味で、むしろPC上での事後対策が重要になります。そこで私たちは被害が起こることを前提として、自動修復などで被害を最小化させる回復力を持つ設計思想のPCを提案しています。

【保泉氏】友達の会社では子供がいる女性を対象にリモートワーク導入したようですが、あまりにもPCの使い勝手が悪くて使いたくないという話を聞きます。自前のシステムでガチガチに固めていて、メール一通送るにしても数秒待たされるので、話にならないようです。

【甲斐氏】そういう壁があるなら、効率が悪いのでやらないほうがいいですね。そうならないためにも、働き方改革とセキュリティ対策の両立は情シス部門まかせにするのではなく、きっちり経営者主動で行うべきです。このような環境づくりに加えて、成果をきちんと評価するための新たなしくみをつくる必要もあります。もちろん時間のかかる制度より先に文化づくりに重きを置くべきでしょう。きちんと成果を認める企業文化です。同じ仕事をしても時間で評価されるなら、優秀な人材は逃げていきます。大前提として仕事はつらいものではなく楽しむもの、みんな好きなことを仕事にしたいのです。

【経沢氏】くれぐれも企業文化をつくる際には本音と建前を分けないことです。昔は情報を持っている人、そうでない人がいて、本音と建前でもうまくいったかもしれません。ここまでITが普及したいまは、隠し事ができない時代ですよね(苦笑)。顧客に喜ばれる、社会に貢献できる、そして社員を幸せにする基盤となる企業文化づくりは、どんどんプロセスを透明にして、いろいろな社員を巻き込んで取り組むのがいいでしょう。

大企業に就職して2、3年経験を積んだ人材は非常に優秀。積極的に採用したほうがいいです(経沢氏) 子供は宣言してお昼寝してくれません。突然できた時間が使える「&」の働き方はいいですね(保泉氏) 社員が自分の意志で働き方や場所を自由に選択できることが、何よりも大切なことだと思います(甲斐氏)

【事例】いち早く女性活用に取り組んだ企業が採用した解決策とは

他社はどのように取り組んでいるのか、気になる読者の方も多くいらっしゃるでしょう。北陸エリアを中心に業務を展開している「北陸銀行」は、最新のインテル(R) Core(TM) M7 プロセッサ搭載し、Windows 10を搭載した「HP Elite x2」を採用し、女性活用のための施策を実践しています。 女性活用し、社員のQoL(Quality of life:クオリティーオブライフ)を高めた北陸銀行の取り組みとは。

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