成功する大家さんと失敗する大家さんの違いはどこにあるのか──。これまで土地活用、賃貸経営に関わるコンサルティングを数多く手がけてきた不動産投資専門税理士の稲垣浩之氏に聞いた。

パートナーとなる事業者にどんどん夢を語ってほしい

稲垣浩之(いながき・ひろゆき)
不動産投資専門税理士
コンサルタント


1999年に税理士登録し、2002年に稲垣浩之税理士事務所を開業。キャッシュフローのシミュレーションを基礎に、これまで多くの不動産投資家、大家さん対してコンサルティングを行う。著書に『不動産投資専門税理士が明かす 金持ち大家さんが買う物件 買わない物件』など。

 

賃貸経営の事業計画を建てるときの注意点は

──近年、土地活用や賃貸経営を取り巻く環境は変化しているように思います。現状をどう見ていますか。

【稲垣】いわゆるバブル期と比べて、大きく異なるのが金利の状況です。アベノミクスによる金融緩和で、現在はかつてない低金利。不動産投資による表面利回りと借入金利の差であるイールドギャップを十分に確保することができます。つまり家賃収入から借り入れの返済金や経費を差し引いても手元にお金が残る可能性が高い。土地活用を行う人にとっては有利な環境です。一方で一般のビジネスパーソンにも賃貸経営に取り組む人が増え、競争は激しくなっています。

──賃貸経営市場が活況の中、オーナーにはどんな意識が求められますか。

【稲垣】一言でいえば、賃貸経営は“事業”であるという意識を持つことが大事です。具体的には、入居者が顧客となるサービス業。いかに物件に住む人の目線で物事を考えられるかがポイントです。また事業であれば、きちんと中長期の計画を立てることも大切になってきます。これまで多くの土地オーナーの方を見てきましたが、うまくいっている方は共通して将来のシミュレーションを丁寧に行っています。

──事業計画を立てるにあたって留意点はありますか。

【稲垣】賃貸経営というと、入居率を維持できれば毎年おおよそ同じ額の家賃収入があり、同じ額の経費がかかると思いがちです。しかし、実際はそうではありません。例えば減価償却の期間が終了すれば、納税額が一気に増え、手元に残るお金は大きく減少します。場合によっては持ち出しになることもある。そうしたことを想定して、減価償却期間中にしっかりと資金をプールしておく必要があるわけです。

そのほか、当初10年固定の変動金利で借り入れを行っていれば、当然11年目以降は返済額が変わってきます。また、物件が建ってから相応の年数が経過すれば、修繕やリフォームも発生するでしょう。それらを見越して、できるだけ正確に収支のシミュレーションを行うことが成功への第一歩。いざ、物件が建って毎月まとまった額の家賃収入が入ってくると、気持ちが大きくなって本来貯めておくべきお金を使ってしまう人は少なくありません。

テスト勉強も賃貸経営もやるべきことは同じ

──賃貸経営がスタートしてからは、どんなことが重要になりますか。

【稲垣】事前のシミュレーションどおりに数字が推移しているか。これを検証していくことが大事です。収入や支出、積立金、入居率などを毎月きちんと確認していく。こうした作業は確かに面倒ですが、これができるか、できないかで、将来が変わってきます。学生時代の定期テストでも、優秀な人は結果をきちんと確認して、間違いがあれば復習して次につなげています。

結果を検証して、課題があれば対策を講じる──。これが成績アップにつながるのは勉強も賃貸経営も同じ。そうして成績表の中身が良くなれば、将来の可能性も広がります。賃貸経営の成績表は、自分だけでなく、金融機関も確認することになります。事業の成績が良ければ、新たな融資の申し入れにも前向きに対応してくれるでしょう。そうすれば、例えば2棟目、3棟目という事業の拡大も可能になるわけです。

これからは情報収集がますます重要な時代に

──土地活用においては、それを支えてくれる事業者の存在も重要です。上手な付き合い方はありますか。

【稲垣】パートナーとなる事業者には、どんどん夢を語ってほしいと思います。実際成功している大家さんには、自分の希望や目標を恥ずかしがらずに不動産会社や金融機関に語り、相手の懐に入っているような人が多いですね。そうすることで、目指している方向が共有されるし、精度の高い情報を得ることもできるようになります。事業者の立場になれば、どんな土地オーナーも基本的には多くの顧客の中の一人。その中で、しっかりと対応してもらおうと思えば、やはり自分自身の存在や考えを相手にきちんとインプットしておく必要があるでしょう。

そして、具体的な事業者選びということでいえば、その会社がどんな実績を持っていて、どこにどれだけの人員を割いているかが見極めポイントの一つになります。例えば、物件の運営管理を行う部門のスタッフが充実していれば、迅速で質の高い対応が期待できる。入居者募集やクレーム対応などの差は、収益の差となって表れます。

──何十年にも及ぶ賃貸経営では、やはりさまざまな事業者との連携が重要になりますね。

【稲垣】すべてを自分一人でこなすことはできませんから、不動産会社、管理会社、金融機関、コンサルタントなどとの良好な関係は、当然ながら大きな力になります。特にこれからは、賃貸経営においても“情報”の持つ意味がいっそう大きくなっていくはず。経済情勢にしても、顧客のニーズにしても、変化が激しい時代にあって、正しい判断を下していくためには、多面的な情報が必要になります。それを収集するにあたっても、パートナーとなる事業者の存在は重要です。一口に土地活用といっても、手法はさまざま。所有する土地を売却して、別の不動産を購入したほうが有利だと考えられる場合などは、なかなか判断が難しい。そうしたときも、客観的な情報が合理的な判断を後押ししてくれます。

──最後に、これから土地活用を始める人へメッセージをお願いします。

【稲垣】賃料収入を得て、経費などを支払って着実に資産を形成していく形の土地活用に、一発逆転はありません。その意味では、慎重さや緻密さが成功の鍵を握っている。これが多くの大家さんと会ってきての実感です。用心深く収支のシミュレーションを行い、熟慮を重ねて建物を建てる。そして事業が始まったら、シミュレーションの内容と実績を比較検証する。この基本を守り、ぜひそれぞれの目的を達成し、夢を叶えてほしいと思います。