「世界の都市総合力ランキング 2016」で3位となった東京。今後の戦略をどう描くべきか──。同ランキングを作成する委員の一人である市川宏雄明治大学公共政策大学院教授に聞いた。

「交通・アクセス」が東京の弱点の一つ

──昨年10月に発表された「世界の都市総合力ランキング(GPCI)」で東京は世界3位となりました。

【市川】私たちが2008年に「GPCI」(下の囲み参照)の発表を開始して以来、東京は4位が定位置。それが今回、パリを抜いて、ロンドン、ニューヨークに続く3位となりました。そもそも東京は都市GDPで世界1位。東京都市圏人口(一都三県)も約3700万人と断トツで、非常に高い経済力を有している。今回、東京オリンピック・パラリンピックの開催が決まった効果などもあり、ようやくベスト3に食い込んだ形です。

「東京」が初めて世界3位に浮上!

「世界の都市総合力ランキング」は都市研究の世界的権威である故・ピーターホール卿をはじめとする学識者によって立案され、2008年に森記念財団都市戦略研究所によって発表された。都市の力を表す主要な6分野(経済、研究・開発、文化・交流、 居住、環境、交通・アクセス)と、現代の都市活動を牽引する5つのグローバル・アクター(経営者、 研究者、アーティスト、観光客、生活者)の視点に基づき、複眼的に都市の総合力を評価している。


世界3位の総合力を持つ東京。環境、交通・アクセス、居住面の改善で、さらに上のランキングも狙える。4位以下は、パリ、シンガポール、ソウル、香港と続く。

GPCIは特定分野に絞った他のランキングと異なり、その名のとおり“都市の総合力”を分析・評価しているのが特徴です。評価対象は「経済」「研究・開発」「文化・交流」「居住」「環境」「交通・アクセス」の6分野。いわば都市の“磁力”を順位づけしています。海外のヒト・モノ・カネをいかに国内に呼び込むか。いま世界中で激しい都市間競争が展開され、アジア主要都市の追い上げもすさまじい。人口減少と高齢化が進む日本にとって、国際競争力の向上は生き残りをかけた必須のテーマだといえます。

──ランキングから見て、東京の強みと弱みは何でしょう。

【市川】先述のとおり、一番の強みは「経済」分野。また「研究・開発」も上位につけている。一方、上位2都市に比べての弱みは、「文化・交流」と「交通・アクセス」です。これを改善すれば、総合力はまだまだ高められる。「文化・交流」分野については訪日外国人が急増し、改善傾向にあります。残された最大の課題は「交通・アクセス」分野ですね。特に「国際交通ネットワーク」が、ほかの主要都市に比べ格段に見劣りしています。

都心に近接する羽田空港
その利便性を生かせ

──「国際交通ネットワーク」とは、具体的にどんなものですか。

市川宏雄(いちかわ・ひろお)
明治大学公共政策大学院
ガバナンス研究科長 専任教授
森記念財団 理事
1947年生まれ。早稲田大学理工学部建築学科、同大学院博士課程を経てカナダ政府留学生としてウォータールー大学大学院博士。専門は都市政策・都市計画、次世代構想など。

【市川】例えば指標として、「国際線の直行便就航都市数」があります。羽田と成田を合わせても、ロンドンの3分の1弱で、ニューヨークのおよそ3分の2。ソウルや香港よりも少ない。「都市内交通サービス」の評価は極めて高いのに、残念ながら海外からそこに至るアクセスに難があります。

羽田空港は2010年に4番目の滑走路がオープンし、国際線定期便の就航が再開。さらに14年から国際線の発着枠が拡大しました。羽田は都心から15キロ圏内という好立地。実は、これほど都心に近い空港がある大都市は世界でもなかなかありません。いまアジアの競合都市は、羽田空港の潜在能力の高さに気づき、慌てて対策を練りつつあるところです。この利便性を生かさない手はないでしょう。

そこで現在、発着する航空機の経路の見直しをはじめとする、羽田空港の機能強化が検討されています。それによる国際線増便がもたらす「便益」と「波及効果」は、相当な規模になるはずです。一方で環境影響などへの懸念があるのも事実ですが、将来的なメリットを見極めながら、問題を最小化する仕組みをつくるしかない。関係者の協力を得ながら、着実に進めていってほしいですね。

──今後へ向けたメッセージをお願いします。

【市川】まず視点を2020年以降にもしっかり据えること。オリンピック・パラリンピックという節目の後も継続的に世界から投資を呼び込めるかどうかがカギとなります。実際、いま東京で進められている都市開発の多くが2025年頃には完成します。それと並行して、「国際交通ネットワーク」の見劣りをはじめ、ランキングで浮かび上がった課題を羽田空港の機能強化などで解決していけば、東京はさらに魅力的な都市になるはずです。東京を通じて世界とつながり、呼び込んだヒト・モノ・カネを日本全体に送り込んでいく。それが目指すべき方向性で、すでに観光分野では始まっています。

ご存じのように現在、欧米やアジアの一部は政治的な不安要素で揺れています。その点、社会的に安定している日本は、新たな投資先として、またグローバル企業のヘッドクォーター拠点として、とても有望な場所になりつつある。羽田空港の機能強化が進められている中、東京のさらなる発展のために、どんな戦略が必要か。ぜひ、多くのビジネスリーダーの方たちに考えてほしいと思います。

飛行経路の見直しなどで羽田空港の国際線の増便が可能に

東京オリンピック・パラリンピックの円滑な開催と、その先を見据えた国際競争力強化へ向けて、羽田・成田空港の機能強化へ向けた取り組みが進んでいる。現在、国際線の就航先数・利用客数は、羽田・成田を合わせて92都市・約4000万人。シンガポールの148都市・約5400万人、ソウルの137都市・約4900万人と比べるとその差は大きい。特に都心に近接し、24時間オープンという羽田空港の優位性を活用することは、国際競争力を向上させるキーポイントだ。

そこで国土交通省では、羽田空港の国際線増便の可能性についてあらゆる角度から技術的な調査・検証をしてきた。その具体策の一つとして提案されているのが「飛行経路の見直し」だ。都心上空を含む新たな飛行ルート案には、環境影響を少なくするための方策が多面的に盛り込まれている。例えば運用時間や便数、飛行高度の引き上げのほか、より静かな航空機の使用を促すための空港使用料体系の見直しなどだ。

羽田空港の国際線の増便により、ビジネスや旅行の幅が拡大。年間約6503億円の経済波及効果、約4万7000人の雇用増加などが期待されている。


東京湾上空は混雑しており、仮に新しい滑走路をつくっても発着回数はほとんど増やせない。便数を増やすためには、滑走路の使い方を見直し、上のように飛行経路を設定する必要がある。これにより現在1時間につき80回の発着回数を90回に増やすことができる。