残業規制をしてもヤミ残業はなくならない

こうした当局の外圧と女性活用が進まないという企業内部の事情から経営者も率先して長時間労働の是正に取り組まざるを得ない状況になっている。だが、経営者が「長時間残業の禁止」を叫び、人事部に「早く退社するような施策をやれ」と指示するだけで解決できるほど単純な問題ではない。

なぜなら経営者が残業を極力しないように呼びかけても、その命を受けた人事部は「ノー残業デイ」や照明・空調を止めて会社から社員を一律に閉め出そうとするからだ。

一方、管理職たちは、社長はああ言っているが、ホンネはどこにあるのかを考え「生産性を落とすことなく、コストとなる残業時間を減らすことだな」と勝手に解釈する。部下が申告する残業時間を制限し、サービス残業や持ち帰り残業を強要する。結果としていわゆる"ヤミ残業"が横行することになる。

管理職がそう考えるのも無理もないところもある。経営的観点から部門別のコスト削減が常に求められているからだ。大手サービス業の人事担当者はこう語る。

「社会保険料負担の増大など人件費コストは年々上昇している。経営側としては給料を減らすわけにはいかないので残業代に手をつけるしかない。各部門の残業実績を経営会議で共有し、残業が多い部署は部門長を中心に残業を減らすように指導している」

もちろんこうした事情も管理職は知っている。これによって社員の実労働時間が減少し、会社もコストが減れば双方がウィンウィンになるからよいが、実態はそうではない。流通企業の人事部長は「業界を問わず、一定以上の残業は付けないように指導する、または自ら残業を付けないケースは多いだろう。つまり残業の実態と申告された残業時間のギャップが大きい企業はまだまだ多く存在している」と語る。

表面的な残業規制をしてもヤミ残業はなくならないのである。もし経営者が本気で長時間労働の是正する気があるならヤミ残業を撲滅するべきだろう。「サービス残業は絶対に許さない」と宣言し、部署ごとのサービス残業を徹底的に洗い出すことだ。その上で業務量や業務プロセスを個別に検証し、人員の補充や入れ替え、ITを使った省力化投資にも注力して解決していくべきだろう。

場合によっては、社長や役員自ら残業している各部署を夜回りするぐらいの覚悟も必要だろう。

だが、そこまで腰が定まっている経営者は少ない。前出の流通業の人事部長は「企業のトップ層は若い時から長時間労働を厭わず、猛烈に働いてきて今の地位があるし、今の会社があるという思いが強い。今の企業のほとんどの人事部が『わが社はコンプライアンスに則った適正な労働をしています』という"見せる化"運動を一生懸命に取り繕っている状態にすぎない」と言い切る。

新年祝賀パーティで長時間労働の是正を高らかに宣言した経営者たちは、どこまで本気でヤミ残業を撲滅しようとしているのか。今後の取り組みを注視していきたい。