長時間労働が経営トップの首を飛ばす
1月5日に開催された経済3団体共催の新年祝賀パーティでは、長時間労働を含む働き方改革に向けた経営者たちの威勢のよい声が飛び交った。招待された安倍首相が「今年は働き方改革断行の年である」と宣言。元経団連会長の御手洗冨士夫キヤノン会長も呼応するように「労働時間をきちんと管理することは経営者の責務だ」と強調した。
損保会社の社長も「働き方改革を口で唱えるだけでは駄目だ。まず役員からトップダウンで進める」と決意を披露。総合商社の社長も書類など業務量を減らし成果を2倍にする「『半分2倍』を目指す」と語れば、生命保険会社の社長も「仕事量を減らし、労働時間を柔軟にする両輪でやっていきたい」と、経営者の本気度を感じさせる発言が相次いだ。
少子高齢化による労働力人口の減少は目に見えて顕著になっている。これを打開するには女性や高齢者を活用し、生産性の向上を図る必要があることは誰もがわかっている。これまでも官民を挙げて仕事と生活の両立支援策による女性の定着や管理職登用のための特別教育などの施策に取り組んできた。だが、それでもなかなか成果が上がらない。最大の原因が日本企業特有の長時間労働体質にあることに、経営者もようやく気づき始めたのかもしれない。
あるいは電通の女性新入社員の過労自殺が幹部社員の送検、社長の辞任にまで発展したことで、長時間労働が経営トップに去就につながるリスクが高いことを自覚したのかもしれない。そうでなくても労働基準監督署は昨年から月の残業時間が80時間を超える大企業を中心に過重労働の取り締まりを強化している。
大企業を"血祭り"に上げれば下請けなど関連企業にも影響を与えるだろうし、見せしめという波及効果もある。実際に大手建設建材メーカーは、ある部署が100時間を超える残業を繰り返していたことから最近労基署から是正勧告を受けた。労基署から改善が見られなければ社名を公表すると言われ、社内は騒然となった。
同社の人事担当幹部は「担当部門長に対し、社長以下役員から『ふざけるな、いったい何をやっていたんだ』と叱責する発言が飛び交った。急遽開かれた緊急対策会議でも社長らは終始ピリピリしていた」と語る。