Jトラストは、国内外で金融サービス事業を中心に展開する持ち株会社。不振に陥った金融機関を再生し、地域密着型の経営体制を確立することなどを得意とする。一見ハイリスクと見られる案件も手がける投資戦略は「逆張り」とも評されるが、その戦略で過去8年間にグループ総資産42倍、営業収益24倍という急成長を遂げてきた。同社を率いる藤澤信義社長に、経営哲学や海外進出への思いなどを聞いた。
Jトラスト
2008年に、藤澤信義氏が前身企業の筆頭株主となり、09年に現社名に変更。10年より、ホールディングス業務に特化し、グループ各社を統括する。事業部門は東南アジア金融事業、韓国金融事業、国内金融事業、投資事業、非金融事業で構成される。
藤澤信義(ふじさわ・のぶよし)
1970年生まれ。東京大学医学部卒業。かざか債権回収(当時)会長などを歴任し、2011年Jトラスト代表取締役社長。13年Jトラストアジア代表取締役社長(兼任)。15年Jトラスト最高執行役員(兼任)。グループ各社役員も兼任。

かつて当社は、上限金利の低下や過払い金返還で経営が厳しくなった消費者金融会社の事業再生を複数手がけました。一般的には「過払い金返還がどれだけ膨らむか分からない。買収はリスクが大き過ぎる」とされていましたが、当社はそれを急成長の原動力としてきました。そのことが「逆張り」といわれるきっかけだったと思います。しかし、あえて他社の逆を行こうとか、無理に前例のないことをやろうという考えはまったくありませんでした。

私にはさまざまなローン事業の経験があり、新規の貸し付けをストップすると、あとは毎月比較的大きな額のキャッシュが返ってくると分かっていました。当然、リスクを取らないとリターンも得られませんが、買収価格に比べリスクが過大とは考えなかったのです。当社としては、当時も、その後も順当な投資判断で事業を広げてきたわけです。

確かに一般的な常識を疑ってみて、既成概念にとらわれず思考をめぐらすよう心がけてはいます。特に私の場合、投資では若いころから激しい浮き沈みを体験しました。そのことが、物事を多面的に見る目を養ったように思います。

同じ大失敗は絶対に繰り返さない。半面、小さな失敗は恐れず、挑戦する。ということは結局、「自分が熟知しているビジネスに手を伸ばすべきだ」。さまざまな投資を実践するなかでそう思い至りました。熟知していればこそ、いろいろなアイデアを組み合わせ、リスクも消化できます。そうして普通ならリスクと感じるものを成長源に変えるところに、周囲は意外性を感じるのでしょう。

自らシンガポールでスピーディに意思決定

2012年に韓国の貯蓄銀行業界へ進出したのも、個人融資を中心とする貯蓄銀行の買収・再生には、日本で積み上げたノウハウが生きると考えたためです。業績は順調で、今期は韓国での営業利益が日本国内を上回る勢いです。

13年には東南アジア進出の橋頭堡ともなるJトラストアジアを、シンガポールに設立しました。それより少し前、ある華僑系財閥のトップと会い、「日本企業とビジネスの話をしても、なかなか結論を出してくれない。2~3カ月待たせて断ってくることもある」と聞かされたのです。そこで、彼と会って1週間後に資本金100億円でJトラストアジアを立ち上げました。いまでは資本金は約300億円。大企業も、ここまではやらないでしょう。当社の姿勢を海外のビジネス界に伝える意味も込めてのことです。

現地拠点が当社にもたらすアドバンテージは、情報の早さ。東南アジア諸国の金融機関の再生案件などは、まずシンガポールに情報が入ります。日本にいて察知できるのは、半年遅れといっても過言ではありません。そのシンガポールには最初から私自身が駐在しています。自分が乗り込めば、当社グループ内の本気度もいっそう高まると思いました。当社の代表取締役専務である千葉信育も韓国に駐在しており、代表二人が共に海外。これ以上の本気はないでしょう。

シンガポールでは、たとえ事業年数が浅かったとしても、極めてビジネスライクに応対してもらえます。逆にいうと、こちらがメリットを提供できなければ相手にされない世界。それに返事を待たせるのは、2~3カ月どころか1週間でも長過ぎます。トップである私がその場で即断することでアジア市場のスピードに追いつけるし、信頼を獲得できるのです。私も日本人なので、国民性や日本企業の時間軸のとらえ方は理解できます。しかし、意思決定がスピード感に欠けるのは事実。私も海外に出て仕事上の価値観はずいぶん変わりました。

金融サービスを軸に生活の質の向上にも貢献を

インドネシアの銀行の再生案件も、シンガポールでオファーされました。日本と韓国での再生事業の経験が評価され、14年末にJトラストインドネシア銀行として新たなスタートを切っています。必ずや成功させ、これから先もアジアを中心として金融機関の再生事業に積極的に取り組んでいきたいと思います。持ち株会社である当社の傘下に他業種の会社を設け、金融と絡めたサービスを展開することもできると考えています。東南アジアでは、日本の金融機関と組むことも視野に入れ、現地の生活の質の向上につながるようなサービスの組み合わせも考えたいですね。

株式の大量保有報告書(変更報告書)で明らかなとおり、私個人が100%出資する会社で先頃、Jトラストの株を買い付け、保有数を増やしました。当社の経営に対する私のコミットメントを強める目的があるのと同時に、私が投資家の眼で自社を評価し、購入したのです。

当社グループでは、ここ3年ほど韓国とインドネシアでまいた種が芽を出し、花を咲かせ始めています。投資家の皆様のご期待に応えていくのはもちろん、各国であらゆるステークホルダーの皆様のビジネスや生活に、いっそう貢献していきたいと思います。