活用することで価値が生まれる時代──。所有する土地の可能性を引き出すためには、どんな視点や考え方が求められるのか。不動産鑑定士で、会社員時代には個人の賃貸営業、土地の有効活用、寮・社宅営業などを経験した浅井佐知子氏に聞いた。

不動産投資への関心が高まるなか土地を持っていることは大きなアドバンテージです

浅井佐知子(あさい・さちこ)

浅井佐知子不動産鑑定事務所代表

不動産鑑定士


北海道網走郡美幌町出身。上智短期大学英語科卒業後、不動産会社に入社。10年間にわたり、主に法人営業(土地の有効活用)を担当。2001年、浅井佐知子不動産鑑定事務所開業。著書に『世界一やさしい 不動産投資の教科書 1年生』がある。

 

土地の価値や特性を客観的にとらえる

──かつて土地は時間がたてば値上がりする、所有していることに大きな意味がある財産でした。しかし近年は、土地を取り巻く状況が大きく変わってきているように思います。現状をどのように見ていますか。

【浅井】私は地価公示の評価員を長年していましたが、全国の土地価格の推移を長期的に見てみると、バブル経済末期の平成元年辺りが最も高く、そこから下がり続けている状況です。つまり現在は、基本的に土地を所有しているだけではダメ。活用をしないと、負の資産になりかねません。

例えば、昨年「空き家対策特別措置法」が施行されました。このなかには、空き家の管理が悪いと、固定資産税額の軽減措置が受けられなくなる内容が盛り込まれています。また、ご存じのとおり昨年1月から相続税も基礎控除が縮小され、最高税率も引き上げられました。そうしたことを考えても、“収益”というものを念頭においた戦略的な動きがいっそう求められているといえます。

──実際、土地を持つ人たちの活用への意識は高まっているでしょうか。

【浅井】土地活用や不動産投資セミナーの講師などを務めることがありますが、多くはとても盛況で、参加者の皆さんの意識も高いように感じます。しかし一方で、具体的に何をすればいいか分からないという方が少なくありません。ご自身の所有する土地の価値や特性、また自分にとっての土地活用の目的などをなかなか客観的にとらえられていない方が案外多いのです。

以前、ある地主の方からご相談を受けたことがありました。月極駐車場にしている土地の活用方法を考え直したいということで、いくつかの事業者から提案も受けているものの、方向性が定まらなかったのです。

そこで私がお話のなかで確認していったのは、仮に賃貸住宅を建てるのであれば、借り入れはどの程度まで許容できるのか、相続時の分割などを考慮した方がいいか、資産の流動性はどれくらい確保しておきたいのか──。そういったことです。収益を上げることはもちろん前提ですが、その上で自分は何を目指して土地活用を行うのか。これがはっきりしてくると、自然と方向性も見えてきます。

ニーズに応える形で商品やサービスは多様化

──実際に土地活用を始めるとなると、先ほどお話にあった土地の価値や特性をしっかりと把握する必要が出てきますね。

【浅井】土地の大きさや形、物件を建てる場合の容積率、建ぺい率をはじめ、さまざまな要素がありますが、申し上げたとおり、大事なのは単に自分の土地の情報を把握するだけではなく、周辺の土地と比較するなどして客観的な視点からとらえることです。

例えば、ご自身の土地の「用途地域」を把握していない土地オーナーさんはあまりいらっしゃらないでしょう。ただ、同じ用途地域の土地であっても、周囲の土地の用途地域や環境によって、その価値は変わってくるのです。

──何らかの建物を建てて運用していく場合、そうした土地の特徴が分かってくると、選択肢が定まってくるように思います。また、それによってパートナーとなる事業者も見えてきますね。

【浅井】住宅、オフィス、商業施設……事業者によって当然得意分野があります。住宅でも、高層を主流にしている企業、都市部に強い企業、地域密着型の企業などそれぞれですから、自分で情報収集して、判断していく必要があります。

──例えば最近は、高齢化や外国人の増加などの社会の動きをとらえ、そのなかで生まれるニーズに対応した賃貸物件なども出てきています。

【浅井】おっしゃるとおり、事業者が提供する商品やサービスは多様化しています。社会の構造が変化するなかで、土地活用、賃貸経営において「物件を建てれば部屋が埋まる」という時代ではなくなりました。繰り返しになりますが、そうしたなかでは戦略的な行動が重要になります。逆にいえば、商品や手法が多様化するなか、自分の土地に合ったパートナー事業者や、入居者のニーズに合ったサービスを見つけることができれば、より高い収益を得られる可能性が高まっているといえます。

当事者意識の有無が成否に影響する

──土地活用として賃貸経営を始める場合は、ローンを組んで事業をスタートすることも多いかと思います。借り入れの環境などはどうですか。

【浅井】マイナス金利の影響もあり、借り入れる側にとってはとても恵まれた環境といっていいと思います。窓口の対応もかつてと比べてかなり柔軟な印象で、金利の交渉に乗ってくれるケースもあります。

また、同じ金融機関であっても、支店ごとに異なる金利を提示するところもありますね。ローン金利の差は、将来的な収益に直接影響する部分ですから、きちんと勉強して精査してほしいと思います。

──多くの方のご相談に乗られてきて、土地活用に成功する人と失敗する人の差はどこにあると思われますか。

【浅井】一言でいえば、当事者意識を持っているか。これが長期に及ぶ土地活用、賃貸経営の成否に大きく影響します。例えば、事業者に物件を一括で借り上げてもらうサブリース。もともと複数の物件を自主管理していたのをサブリースに切り替えて、効率的でゆとりある賃貸経営を実現しているオーナーさんがいらっしゃいます。ただ一方で、賃料見直しの条件、期限などは、人任せにせず、把握しておく必要があります。

また、都心に住み、地方に賃貸物件を持つオーナーさんが「どうしても借り手の付かない部屋がある」と言うので、「現地に確認に行っていますか」とお聞きすると、「10年くらい行っていない」と言われる。実際見に行ったら、エントランスはサビだらけ、部屋の中もかなり汚れていたようです。これではいけません。

──土地から収益を上げようと思えば、やはり借り手、ユーザーの立場になることが大切ですね。

【浅井】賃貸物件のオーナーさんのなかには、契約更新のタイミングに航空チケットやお掃除券などを入居者にプレゼントしている方もいます。ちょっとした工夫が、結果的には長期入居の可能性を広げることになります。

あるオーナーさんは、自身で購入した家具や雑貨を配置して室内を演出。簡単なホームステージングで入居率を大幅にアップさせました。いずれも、自身の物件を成功させたいという強い思い入れが背景にはあるのだと思います。

──土地活用でも、特に賃貸経営の場合は、その言葉のとおり「経営」的な視点が大事になります。

【浅井】そうですね。場合によっては、資産の見直しも検討する必要があるかもしれません。これもあるオーナーさんの事例ですが、その方は同じ地域に似たタイプの集合住宅を複数お持ちでした。そのため、「地域が衰退したら一気に空室が増え、打撃が大きい」ことが懸念材料だったのです。ご相談の結果、一部を売却し、それによって得た資金で別の地域に、別の種類の物件を購入されました。売却を考慮すれば、土地活用においても分散投資は可能。リスクを低減することができます。

──最後に、これから土地活用を始める人へメッセージをお願いします。

【浅井】年金不安など、先行きが見えない将来への経済的な対策として、土地を持たない人たちの間でも、不動産投資への関心が高まっています。そうしたなかで、すでに土地を持っているということは、とても大きなアドバンテージです。やり方を間違えなければ、継続的な収入を得ることができる。そのことを再認識していただきたいと思います。初めにお話ししたとおり、まずは自分が何を目指していて、自分にとって何が幸せなのか。あらためて見つめ直すことが第一歩です。