各社の技術開発により部材の強度や施工性が向上
一方でシステム建築における技術開発について、山田教授は「安全性などを高めながら、いかにコストを抑えるか──。そうした取り組みが各社で行われている」と言う。
「単に安全性を高めるだけなら、材料をふんだんに使って、がっしりとしたものを建てればいい。ただ、それではコストがかかってしまいます。ですから確かなデータ分析などに基づいて、いかに少ない材料で高い強度を持つ部材をつくるかが開発の一つのポイントになってくる。使用する鉄鋼の量を減らせれば、それは直接的にコスト削減に貢献することになりますから」
安全性の確保と低コスト化は、施主にとっても関心の高い要素に違いない。その安全性について、山田教授はもう一つ着目すべき点があるという。それは、部材と部材をつなぐ接合部だ。
「あらゆる建築物において、接合部は非常に重要。ここに不備があれば、それが建物そのものの弱点になり、逆に接合部がしっかりしていれば建物の性能が向上します。ただしシステム建築では、現場で高度な技術を必要としないことが特徴です。そのため、施工がしやすく、同時に接合性の高い部材が求められることになる。これをどう両立させるかが、メーカー各社の腕の見せどころといえるでしょう」
変化する建設現場に対応する新たな選択肢
鉄骨部材を生産する工場の審査を行うこともある山田教授。その現場では、昨今の建築業界が直面している課題も肌で感じているという。
「やはり熟練工の数は減っていますし、高齢化も進んでいる。日本全体の高齢化と比べても、その度合いはずいぶん高い印象です。若い技術者の育成は重要ですが、一方で、生産現場、施工現場とも、熟練の技に頼りがちな状況を変えていくことを考えなければならないでしょう」
地震や台風が頻発し、厳しい気候風土の日本において、建造物の品質や安定供給を支えてきたのは、ある意味日本人の器用さだった。しかし社会環境や人口構造が大きく変わるなか、建設の世界も従来の延長線で物事を進めていくわけにはいかない。熟練の技に頼らずとも、質の高い建物を短工期で建てられるシステム建築が注目を集める理由もまさにそこにある。
では、実際にこれから工場や倉庫、その他施設などを建てようと考える企業は、このシステム建築とどう向き合えばいいか──。最後に山田教授は、次のように話してくれた。
「施主となる企業の経営者の方たちが、システム建築や鉄骨造の技術の詳細を理解するのは難しい。ただ自社の建物を建てるとなれば、いろいろと希望もあり、確認したいことも出てくるはずです。システム建築メーカーや建築会社を選ぶにあたっては、そんな素朴な疑問にも真摯に答えてくれるかどうかが一つの判断材料になるでしょう。企画、設計から施工、アフターサポートまで、長い付き合いになりますから、きちんとしたコミュニケーションが取れることは大前提。これは自分の家を建てるときと基本的に一緒です。システム建築といっても特別なことはありません。まずは当たり前の選択肢として、検討することが大切ではないでしょうか」