──電気を選べるようになることは、消費者にとってメリットですね。

【小川】電気は品質で差別化することがなかなか難しい。ですから差別化するとなれば、一つには料金になるでしょう。ただエネルギーの場合、競争原理を働かせることが必ずしも消費者のメリットになるとは限りません。電気事業は市場に任せていると、長期の投資がしにくくなる面があるのです。エネルギーミックスというエネルギー政策の柱があって、その横で再生可能エネルギー買取制度の見直しなどを行い、自由化を進めることが重要。電力システム改革は手段です。

もちろん競争が促されることで料金の抑制効果は期待できます。ただそれは単に料金が安いというのではなく、時間帯や使い方に応じたいろんなメニューや付帯サービスが生まれる。そうした部分も大きいと考えています。

例えば省エネ家電、スマートハウス、電気自動車を組み合わせた省エネサービス。ガスや通信とのセット割り。高齢者見守りや防犯などの生活支援サービスなど、これまでにないサービスが生まれるのではないでしょうか。

──事業者にとっては魅力的な新市場といえます。

【小川】これだけの市場が一気に自由化されたことは、世界でもかつてありませんでした。アメリカでも電力自由化は州単位でしたから、1億を超える人口を持つ市場の自由化はまさに世界初。これによって約8兆円の市場が誕生すると予測されています。既存の電力市場の10兆円と合わせるとおよそ18兆円の巨大市場。現在100社を超える事業者が電気の小売事業者として登録を受けていますが、今後もさらに増える見込みです。

電力事業を支える日本企業の技術にも期待

──異業種から多くの事業者が参入してくる中で、それを支える仕組みやシステムも重要になります。

【小川】そう思います。我々としては、IoTやビッグデータ分析をはじめ、ICTを絡めた日本企業の技術に期待しています。一つには、先ほども少し触れた電力の需給管理について。蓄電に関する技術開発も着実に進展していますが、基本的に電力は必要な分を発電することが望ましい。ただ、不足すると大規模停電などにもつながりますから、いかに需要量を正確に予測するかがポイントとなります。

一方で、電気の使用状況を見える化するスマートメーターの普及が進めば、そのデータの活用もテーマとなります。各地で実証実験も行われていますが、データの使い方しだいで、現在の想定を超えるようなクリエイティブなサービスが生まれる可能性もあるでしょう。

こうした電力産業の活性化は、当然ながら日本経済へ好影響を与えます。さらに、そこで培われた技術やノウハウを海外で生かす道もある。今後、電力需要の拡大が確実視されるアジア市場で日本企業が存在感を示せるかどうかは日本経済にとって重要な課題です。

──新サービスには期待が高まる一方、環境の変化に不安を抱く人もいるかと思います。

【小川】それに対しては経過措置を取るなどさまざまな配慮をしています。まず、4月の時点で必ず新事業者を選ばなければいけないということではありません。現状のままで、電気の供給を受けられます。

電力はインフラの基本ですから、消費者を守るためのセーフティーネットはしっかり整備しています。事業者へは顧客への電力供給を確保するよう義務づけていますし、既存の大手電力会社が、優位な立場を背景に一方的な価格改定を行えないように現在と同じ規制料金メニューも引き続き提供されるよう経過措置を取っています。また離島などコスト高になる地域でも適切な電気料金を維持させるようにしています。

電力システム改革は、それ自体がゴールではありません。あくまで消費者にとってプラスになっているかということが基本です。事業者の売り込みも激しくなるでしょうが、どんなサービスがあり、自分にとって何がメリットになるか、契約条件などもしっかり確認して判断しても頂ければと思います。