(上)「日本全国まめ郷土玩具蒐集」の特製ガチャガチャ。(下)第1弾ラインアップのひとつ、奈良県の張子鹿。

工芸の“全国ツアー”開催!

外が主体の事業だけでなく、もちろん中川政七商店社内でもさまざまな取り組みが進行中だ。その中のひとつが2014年10月にスタートした「日本全国まめ郷土玩具蒐集(しゅうしゅう)」。言うなれば「大人向け郷土玩具のガチャガチャ」だ。

青森県の鳩笛、東京都の犬張子、愛媛県の姫だるまなど、失われゆく日本各地の郷土玩具をミニサイズにしてカプセルに収めた。製作を担当したのは世界屈指の模型製作技術を誇る海洋堂だ。手のひらにちょこんと乗るかわいらしいサイズだがつくりは本格的。これが1回400円のガチャガチャで手に入る。47都道府県を代表する郷土玩具47種がそろうため、ついつい何度も回したくなる魅力に満ちている。そうやって興味を持ってもらうことで、地域の工芸を少しでも存続させようというのがねらいだ。

考えてみると、このガチャガチャにしてもJR西日本の「走る日本市」や各地の「日本市プロジェクト」にしても、“機会限定”“場所限定”といった限定性、スペシャリティーが鍵になっているように思われる。コレクターの心をうまくくすぐり購買につなげるというわけだ。

また2016年に創業300年を迎える同社では、これを記念してさまざまなプロジェクトを予定している。目玉は全国5カ所で開催される「大日本市博覧会」。これまでコンサルティングなどで協力関係を築いてきた日本各地のものづくりの会社とも協同し、東京を皮切りに岩手、長崎、新潟、そして同社の本拠地である奈良を回り、各地の工芸を紹介していく“全国ツアー”だ。工芸のワークショップやトークショー、販売会などを行うという。こうした大々的なプロジェクトを展開できるのも、つね日ごろから各地のものづくり企業との連携あってこそだろう。この「大日本市博覧会」のほかにも、新しい郷土玩具の開発や日本モノポリー協会が監修する「日本工芸版モノポリー」などの記念商品を発売する。

300周年記念商品のひとつ「日本工芸版モノポリー」(デザインは変更の可能性あり)。日本モノポリー協会監修のもと、世界No.1ボードゲーム「モノポリー」の世界観を生かしながら注目すべき産地・工芸品が登場するなど、細部まで日本の工芸振興にこだわっている。

こうした自社のプロジェクトにしても、すべては日本の工芸を元気にし、そして地方を元気にするために行われているのだ。工芸による地方創生の実現、それは現状では日本全体を動かすようなビッグウェーブとして表れているわけではない。しかし中川政七商店のこれまでの事業は確かな成功体験として、各地の企業や人々に影響を与えていることは間違いない。この成功体験から学んだ地域のものづくり中小企業が「自分たちも」と奮起すること、また地方に暮らす人々、特に若者が自分たちの暮らす地域の魅力に気づいたり新たな魅力を発掘することが期待される。

中川政七商店のこれからの試みがどのように実を結び、そしてこれから日本の工芸がどのような道をたどるのか、今後とも大いに注目したい。

 

 

(取材・文・撮影/デュウ 写真協力/中川政七商店)