また物件の建築費について、当然安いに越したことはありませんが、質が良いものは相応の値段がするというのも世の道理です。大手ハウスメーカーなどは、長年の経験から商品開発に相当力を注いでおり、個々の設備や仕様に磨きをかけています。例えば原状回復しやすい素材やフリーメンテナンスの建材を開発し、ランニングコストを抑える工夫をするなど、細かいところに配慮している。こうした点も、パートナー選びの際は見逃せません。
──確かに賃貸住宅経営は何十年にも及ぶ事業。長期的かつトータルな視点が求められます。そうした視点を持つために意識すべきことは何でしょうか。
【谷崎】これもあらゆるビジネスの鉄則ですが、リスクマネジメントの発想は欠かせません。家賃相場や入居率、ローン金利──こうしたものの変動をどれだけ厳しく見積もれるかで、事業の継続性が変わってくる。当たり前だと思われるかもしれませんが、いざ賃貸住宅経営を始めるとなると、「どんな物件を建てるか」「利回りはどれくらい確保できるか」と目の前のことに集中してしまい、なかなか20年、30年のスパンで物事を考えられないものなのです。
土地や建物ではなく
経営を引き継ぐ!
──土地活用においては相続も大切なテーマです。留意すべき点があればお聞かせください。
【谷崎】税制について言えば、ご存じのとおり、更地のまま所有するより、建物を建てるなど活用したほうが非常に有利。この辺りの制度は精緻に設計されており、いわゆる抜け道のようなものはほとんどないでしょう。あらゆるケースを想定した優遇措置などが設けられており、国として“土地活用を促す税制”をしっかり組み上げています。
一方、実際の資産の承継については、単に土地、建物を引き渡すというのではなく、“経営を引き継ぐ”という意識を持つことが大切です。賃貸住宅経営というのは、ハウスメーカーや管理会社、税理士、金融機関など、多くの人のサポートで成立しているわけですから、ただアパートやマンションを残してもうまくいきません。そうした人たちとの人間関係も含めて継承できるかどうかが、相続後の事業の成否を大きく左右します。
──最後に、これから土地活用を始めようと考える人にメッセージをお願いします。
【谷崎】繰り返しになりますが、しっかりとビジョンを持ってほしいと思います。考えてみれば、賃貸住宅経営というのは比較的シンプルな事業です。仮に飲食店経営であれば、従業員、営業時間、仕入れ、在庫など、経営者自らが日々管理すべきことが多くありますが、賃貸住宅経営の場合、土地を持っていれば、あとは専門の事業者に任せることも可能です。しかしだからこそ、明確なビジョンがあるかどうかが、大きな差になって表れる。これまで数多く土地活用のコンサルティングを行ってきましたが、これが私の実感です。
やり方しだいで多くの人たちに幸せや喜びを提供できるのが土地活用、賃貸住宅経営です。もちろんビジネスですから収益を得ることは大切ですが、ぜひ社会的な視点も持って事業に取り組んでほしいと思います。