立地場所を決断する
タイミングが一段と重要に

より好適な用地を獲得する
チャンスの見極めも大切になっています

藤田成裕●ふじた・なるひろ
一般財団法人 日本立地センター
産業立地部 次長
日本立地センターは、企業立地に関する調査・研究、コンサルティング、研修等を行う総合的調査研究機関。日本が直面する多様な課題と向き合い、地域産業と地域社会の健全な発展に貢献。

一方で藤田氏は、今後の企業立地に関して、見極めが必要な点もあると指摘する。

「一つは円安です。進行しすぎると、エネルギーや原材料のコスト増が企業経営を圧迫することも想定されますし、工場などの建材費用にも影響します。もう一つは、人手不足。建設現場の人材が足りず工期が長引いたり、新工場で働く地元人材の確保にも響くかもしれません。企業によって状況判断は異なるかと思いますが」

そして、用地の供給量にかかわる問題も無視できない。事業用地は一見、買い手市場に映るが、もしも企業が「選択肢はいくらでも──」と考えているとすれば、実際の用地探しで意外な苦労に直面するかもしれない。というのも、自治体の用地開発にも限度があるからだ。前出のアンケート調査では「土地利用規制(農地転用など)が厳しく、受け皿整備が難しい」と答えた市区町村は39.8%に上った。別途、都道府県を対象にしたアンケート調査でも、同じ回答が51.5%もの自治体から寄せられた。

事業用地への引き合いが増えている状況も考えると、立地の候補地が好条件であるほど、企業は自治体側に他社の動きを随時確認したほうがよさそうだ。働き手の募集が難しくなりかねない情勢を勘案しても、決断のタイミングは一段と重要性を増している。

より広域の連携体制で
誘致活動を行う自治体も

いずれにしても、自治体が企業誘致対策に腐心していることは間違いない。日本経済が右肩上がりだった時代とは大きく異なり、民間企業の営業活動さながらに積極アプローチする自治体も増えてきた。ある食品メーカーの社長が昨年完成した新工場の用地探しを振り返る。

「工場進出についてのアンケートが、たまたま希望していたエリアの県から届きました。予定あり、と提出したら、早速その県の東京事務所の方が来られて、県内の工業団地について紹介してくださいました」(『産業立地』2014年3月号。抜粋)

また藤田氏は、市町村による誘致体制の変化も指摘する。

「複数の自治体が連携する体制も見られるようになってきました。たとえ自分のところが選ばれなくても、企業が遠くで立地するよりは近隣の市町村に来てくれたほうがいいという考えです。近隣であれば雇用効果は期待できますし、住民の増加、消費の増加といった恩恵の可能性も高いからです」

なかには自治体が単独の予算で催す企業誘致セミナーでありながら、近隣の市町村にプレゼンの時間枠を提供する例があるという。また、現在は空き用地がほとんどない自治体から、近隣に立地した企業へ補助金を交付する例もあるという。もちろん、それに見合った経済効果が見込めるからだ。