抵抗感のない年齢で
英語に触れていく

どれほど単語や文法を知っていても、英語を使おうという意欲がないと、英語に対する苦手意識はなくならない。では、英語を使う意欲をどう育てるのか。実は、小学3年生から英語学習を始める狙いが、意欲を育てることと深く関わっている。

「現在、5~6年生に向けて行っている活動型授業を、ゆくゆくは3年生から開始します。この段階では、英語に触れることが中心で、読み書きはしません。なぜ、こういう段階から始めるのがいいか。ひとつの理由は、4年生くらいになると自我が芽生え、先生が発する英語を単にリピートすることに抵抗を感じる子が出てくる。だから、それ以前の段階で、英語に触れ、英語の世界への気づきや、話したい意欲を促す活動型学習を開始するわけです」

つまり、先生と一緒に英語に触れることを純粋に楽しめる年齢のうちに、英語を使う意欲を身につけさせてしまうのだ。

一方で、5、6年生の場合は教わったことをメモしたり本を読んで一人で学ぶこともできる年齢になるため、学習内容に読み書きの要素を入れて、中学校へ入ってからの授業にスムーズに移行できるようにするという。この段階では、正式な「教科」として英語学習を進めるので、なんらかの評価も必要になってくる。そんなとき参考にできるのが、EU加盟国で用いられているCEFR(セファール)だ。藤田先生が続ける。

「現在、自国語とは別に2カ国語を学ぶEU加盟国の子供たちの語学力は、CEFR(欧州共通参照枠)と呼ばれる多言語共通の指標によって評価されています。例えば『私は英語で100まで数えられます』とか、『私は英語の招待状が読めます』という具体的な申告を、評価の参照基準にしているわけです。英語では100まで数えられるがフランス語なら50までといった具合ですから、自己申告であるのは事実ですが、同じ指標で多数の言語能力を評価できるというメリットがあります。同様に、これからの日本においては、『英単語をいくつ覚えました』、ではなくて、『英語で挨拶ができます』というように、子供たちができることによって評価をしていこうという動きが出てきています」

親ができることは英語
を使う姿を見せること

子供たちの評価基準が見直されるのと並行して、先生の教育目標も変化するという。

「先生たちのこれまでの教育目標は、今年は、この単元まで教えます、といったものでした。例えば、中1の1学期の終わりまでに三人称単数現在形を終える、という感じですね。しかし、これは、あくまで教える側の都合です。そうではなくて、例えばこの年度末までに、子供たちが何をどこまでできるようになるかということを、目標として先生に求めていきます。自分が教えたということと、子供たちができているかどうかは本来は別問題。こうした先生の目標の立て方や、先に触れた子供たち自身による申告への評価がどこまで浸透するか、今後、注目されるところです」

では、家庭においてはどんなサポートをすべきなのか。藤田先生は、親の世代の価値観を持ち込むべきでないと忠告する。

「小学生に対しては英語の知識を伝授するより、英語を使いたいという意欲を育てることが目標です。このとき保護者にとって大事なのは、学んだら知識が得られているはずだという親の世代の価値観で子供を見ないこと。『これを英語で何と言うの?』という、単に知識を試すような質問はしないでほしい。子供たちは外国人のアシスタント教員と担任の先生とが見せてくれる英語オンリーの授業を体験すると、それを自分で話すことはできないが、内容は理解しているのです。1歳児が自分では単語しか発せられないのに親の言うことは理解しているのと同じで、わかることと自分が話せることは一致しない。だから、今日、学校の英語の授業で何をしたの? と子供に聞いたときに子供が答えられなくても、理解していないとみなしてはいけない」

むしろ、親としてするべきなのは、自ら英語を話すことだと藤田先生は言う。

「親が英語を楽しむ。その姿を子供が見るだけで、彼らの英語を使う意欲になります。大人になったら英語って必要なんだな、と思うだけでもいいですね。親御さんが積極的に英語を使う姿を率先して見せることも、いい刺激になると思います」

親も子も、知識習得より先に、とにかく英語を使う。その積み重ねから、本当に使える英語を身につけた世代が生まれてくるのだ。

(大竹 聡=インタビュー・文 鶴田孝介=撮影)