2002年にファイナンシャルプランナーの資格を取得し、「お金の問題」に関する講演なども多く行う生島ヒロシさん。最近は「相続」にも関心を寄せ、昨年、関連する書籍も発刊した。そんな生島さんに「相続について考える意味」を聞いた。

相続トラブルを
防ぐのは親の役割

企業の中枢で活躍するミドルエイジとその親世代にとって、相続は避けて通れない問題です。しかし「自分はしっかり準備できている」と言える人は少ないのではないでしょうか。むしろ、「うちはたいした財産もないから関係ない」「いざとなれば何とかなる」といった考えの人が大半だと思います。しかし僕自身、実際にその時が来て、「何とかなる」では済まなくなってしまった事例を、身近でいくつも見てきました。

ある親しい友人は、親の介護を巡って兄弟ともめている最中に相続がスタート。裁判での争いになり、仲の良かった兄弟とも関係が途絶えてしまいました。莫大な遺産を前に5人兄弟が修羅場を繰り広げたケースでは、当事者の1人から「豊かに暮らしているはずなのに、おとなしかった妹があれほどお金に執着するとは思わなかった」という話も聞きました。相続の場面では、血を分けた兄弟にも見せなかった面が現れて、骨肉の争いになってしまう。これはお金持ちに限った話ではありません。

遺産が自宅だけ、特に自宅兼事務所や自宅兼工場という場合はもめごとが起こりやすい。家業を継いだ側としては生活のためにも家を手放すわけにはいきませんが、ほかの兄弟も自分の取り分がほしいという話になり、泣く泣く家を処分せざるを得なくなってしまうのです。

こうした話をいくつも聞くうちに、残された家族がもめることなく、人生をいい形で過ごせるよう、相続の準備をしておくのは、親の務めだと考えるようになりました。自分の子供たちには、投資先や資産について口頭である程度のことを伝えていますし、遺言書についても、弁護士や会計士の先生と相談しながら今年中にはある程度の形にしたいと思っています。

プロの力で
最善の道を探る

相続の準備というと難しく考えがちですが、必要なのは大きく分ければ3つだけ。「自分にどんな財産があるかを確かめ」「誰にどう分けるかを考え」「遺言書に残す」の3ステップです。ただ、持っている資産や相続人の数はそれぞれ異なりますし、来年からは新しい相続税法も施行される。理想としては税理士、弁護士、不動産会社などの専門家に入ってもらい、現状と今後の可能性を見定めながら、どんな対策を取るべきかを一緒に考えてもらえればベストですね。

例えば、資産を現金から不動産に変えておくと税制上有利だというのは、ご存じの方も多いと思います。相続対策で賃貸物件を建てる方もいる。ただ、賃貸経営には一定のノウハウが必要です。そうした点も踏まえ、本音のアドバイスをもらえるといいと思います。

また、相続に詳しい専門家は、「こんな方法もあったんだ」という技をたくさん持っています。最近、病院でも複数の治療プランを出してくれるところが増えましたが、相続でもまずはさまざまな選択肢を提示してもらって、そこから最善のものを選ぶといいでしょう。

僕が以前お世話になった会計士さんは、お子さんが小学生になる前に生前贈与を開始されました。贈与は年間110万円までなら税金がかかりません。その方は時間を味方につけて、計画的に資産の移転を行っているのです。

相続対策では、素人が集まって答えを探すより、しっかりした解決策が見えている専門家の力を借りた方がスムーズです。さらに、自分でも事前にある程度のことを調べ、気になる点を洗い出しておけば話も早い。病院で診療が終わってから、「これも言っておけば良かった」と後悔した経験はどなたにもあると思いますが、相続でもそれは同じですね。