日本のエリートは
世界では当たり前のプレゼンができない
船川氏は、嘆く。日本のエリートたちはなぜ、世界では普通のプレゼンができないのかと。そして、この問いに対して、日本の慣習や教育が大きく関わっていると指摘する。
「日本では長らく、教師がひとりでレクチャーし、生徒がそれを聞くというスタイルが守られてきました。人が話している間に、聞き手が話を遮ることはなかった。こうした慣習が、日本のエリートの低いプレゼン能力の原因となっている。というのも、世界のプレゼンは、話している途中に、“Excuse me, I don,t get it.”(すみません、そこ、わかりませんが)と割って入ってこられるのが普通です。つまり、レクチャーでなくてインタラクティブな対話なのです」
ここで求められるのは、用意した原稿を一方的に読むのではなく、質問が出た瞬間に対応していく力。もっと言うなら、資料を提示した後はむしろ話者のほうから質疑応答にしましょうと言えるくらいの、高度な対話能力だという。
「年齢も性別も無関係。大事なのはその人に何ができるか。それだけの世界です。そして、自分ができることを語り、表現することに加えて、どうしてできると言えるのかを証明すること。これらを矢継ぎ早に求められる。英語のプレゼンは、こうした突っ込みと切り返しの連続ですから、当意即妙な対応をするための集中力やユーモアも不可欠ですし、プロの口癖とも呼べる話し方を習得する必要もあるでしょう」
プロの口癖とはいかなるものか。船川氏が続けてこう言う。
「さまざまな角度からの突っ込みに対して、『要するに』とか『つまり一言で言えば』など、話をまとめて次にもっていく接続詞をたくみに挟むことがプロのやり方です。A案とB案が均衡している状況から脱出したい場合には『いずれにせよ』といった具合。相手の反論が予測できる場合には、話す内容の前に『もちろん』という一語を挟んで反論があることをわきまえていることを示す。こうしたプロの口癖を、まずは日本語で研ぎ澄ますことが、ひいては英語のプレゼン上達につながるものと考えています」
やり続ければうまくなる。
英語は30代からで間に合う
日本語でできないコミュニケーションを英語でできるわけがない。それを考えると、船川氏の言うとおり、まずは日本語で、グローバル人材に求められる各種のプレゼン技法をマスターすることが先決だ。その後で、それを英語に置き換えていく。船川氏が英語攻略のコツを教える。
「とにかくひるまないこと。これに尽きます。気後れしている暇はないのです。ひるまず、かといって、少しできたからといって絶対に驕ってもいけない。日本人の中に英語ができる人が少ないために、少しできるだけで驕ってしまう人が少なくないですが、英語でのインタビューができるレベルまで到達しないと、レクチャーはできても対話型のプレゼンは不可能です。だから、少しできたくらいで驕ってはいけない。それと、もっと大事なことは、単に英語を学ぶのではなく、自分のミッションに忠実であることです」
それは自分のやりたいことを極めることだと言う。
「何をしたいのか。そのために必要なレベルの英語を身につけるわけですから、そもそも何をしたいのかがはっきりしていなければならないのは自明の理です」
目的に向かってひるまずに学べば、英語力は後からついてくると、船川氏は自身の経験に照らして激励する。
「私は都立高に学んだ普通の学生だったし、最初のTOEICは730点。留学したのも30代になってからです。それも自費留学。MBAで2年学び、シリコンバレーで4年過ごす間は、世界各国から来る人たちとの英語でのワークショップを4年間に200回こなし、英語で本を書くところまで頑張った。ここまでやれば上達します。つまり英語は、本気なら30代からで間に合う。ひるまず、驕らず、ミッションを明確に。これだけですよ」