「相互扶助」を基本理念に地域の事業者、住民の成長や活性化を支えていく。そうした役割を持つ全国250超の信用金庫の中で、独自の課題解決支援が高く評価されているのが大阪信用金庫だ。“この街のホームドクター”を掲げ、多くの取引先から「相談して良かった」「本当に助かった」との声を集めている。同金庫は、何を重視し、どのような取り組みを行っているのか――。髙井嘉津義理事長に聞いた。

地域の中小企業の万博出展を徹底支援

――現在、信用金庫にはどんな役割が求められていると感じますか。

【髙井】例えば地域の企業の皆さまの課題をクリアにする。これも私たちの大事な仕事です。今、中小企業は原材料費や人件費の上昇、人手不足、DXの推進、さらに後継者育成や事業承継など多種多様な課題を抱えています。ただ経営者が一人何役も務める中、全ての課題に等しく目を向け、解決の優先順位を判断するのは簡単ではありません。そうした中で私たちは、一時的、部分的な伴走ではなく、状況の変化に応じ、一つ一つの課題解決をサポートする。確かな知見とノウハウを持って、“伴走し続ける存在”となることを強く意識しています。

大阪信用金庫 理事長 髙井嘉津義(たかい・かずよし)
大阪信用金庫 理事長
髙井嘉津義(たかい・かずよし)
1977年立命館大学産業社会学部を卒業し、大阪信用金庫に入庫。2011年常勤理事に就任。その後、常務理事、副理事長を務め、17年より現職。理事長就任以降、「量から質への意識改革」を積極的に進め、地域や顧客の課題解決に注力する。

――大阪・関西万博の「リボーンチャレンジ」(※)でも、地域の中小企業に寄り添った支援を行われました。

【髙井】大阪商工会議所と連携し、当金庫の取引先企業を中心とした74社・19チームの出展をサポートしました。テーマは「身近な課題や世界のお困りごとを大阪の町工場が解決します!」。地域の中小企業の強み、技術を組み合わせることの価値や意義を世界に示すもので、私たちはこれを約3年にわたり後押ししました。幾度も困難はありましたが、交流会や勉強会で議論を重ねることで、多忙な出展企業のチームづくりやモチベーション向上を支えたのです。おかげさまで出展は大成功。「町工場の技術でここまでできるのか」といった声を多く頂きました。

※優れた大阪の中小企業・スタートアップの技術力や魅力を「ヘルスケア」「SDGs」「デジタル」「ライフスタイル」などのカテゴリーに基づき、国内外へ広く発信した取り組み。

――この取り組みは、第29回「信用金庫社会貢献賞」の「Face to Face賞」を受賞しています。

【髙井】取り組みの中で実感したのが、まさに顔を合わせてやりとりすることの大切さです。ITも便利ですが、やはり同じ空間で対話や議論をしてこそ伝わる思いがある。対面で形成された「人と人とのつながり」は今回の出展を成功させた大きな要因です。

万博は終わりましたが、私たちにとってはここからが本当のスタートです。展示した技術やアイデアの事業化・製品化に向けた開発や実証が進められ、中にはすでに社会実装された商品もあります。今後は大阪の中小企業が自信を持って、日本全国さらには世界へ踏み出せるよう支援していきます。

大阪・関西万博の「リボーンチャレンジ」に大阪の中小企業が共同出展
大阪・関西万博の「リボーンチャレンジ」に大阪の中小企業が共同出展。大阪信用金庫は「一社一社は小さいが、力を合わせれば世界に届く」との思いの下、企業同士をつなぎ、複数社の連携による製品づくりなどをサポートした。さらに出展後も支援を続け、製品の発売、社会実装などを後押ししている。

「自主創造」を通じて職員の意識が大きく変化

――創立100周年の2019年度より、行動指針として「自主創造」を掲げています。どのようなものですか。

【髙井】地域ごとの課題を営業店自らが見つけ、その解決に取り組もうというものです。背景には、「地域の声に耳を傾け、課題を共に考える」という信用金庫の原点が薄れつつあるという危機感がありました。預金額や融資額に目が行き、「相互扶助」の理念が見過ごされがちになっていたのです。

本業ではない、非金融領域で地域やお客さまが「ありがとう」と言ってくれる仕事を見つけ実行に移す。その内容は、地域ごとで異なります。地域をつぶさに観察し、自分たちができること、すべきことを考える。そうした行動を推進しました。例えばコロナ禍には、地域や取引先企業から集めた食材を子ども食堂へ届けたり、ペットボトルキャップを集め日本赤十字社を通じて海外へワクチン費用を送ったり。本業ではない領域で課題解決や地域の発展に貢献するアイデアを職員一人一人が考え、多様な取り組みを行いました。

――「自主創造」はどのような効果を生んでいますか。

【髙井】まず、地域との結び付きや取引先との関係が強化され、何かあったときに「相談してみよう」と声が掛かる機会が増えました。これが営業活動にもプラスに働いています。

加えて、職員の意識が変わってきた。これが非常に重要な成果です。自身のアイデアや挑戦が形になり、地域の役に立つことで、職員一人一人が自らの存在意義を実感するようになり、これが組織力の向上につながっている。私は組織を進化させるのは制度ではなく、「人」だと考えています。職員が挑戦することに喜びを感じ、周囲がそれを支え合う。そうした組織文化が地域を活性化する原動力になるはずです。

――今後の目標や抱負をお願いします。

【髙井】職員の“気付く力”を養っていく。これは重要なテーマの一つです。取引先企業などの課題を見極めるに当たって小さな変化を見逃さないことが実はとても大切。日常の変化にしっかり目を向けることは地域に密着した信用金庫にとって大事な視点です。

また、課題解決は私たちだけで完結するものばかりではないため、大学や研究機関、自治体、商工会議所などとの連携も重要です。「課題解決型マッチングフェア」の開催など、すでに中小企業と支援機関のパイプ役を担っていますが、地域のハブとして“つなぐ役割”をさらに強化し、地元企業、また地域で働く人、暮らす人の可能性をいっそう引き出していきたいと思います。