求人広告を出しても若い人に来てもらえない、若い人を採用できてもすぐ辞めてしまう――そうしたことに悩む企業経営者や人事担当者は少なくない。労働人口が減って人手不足が慢性化する今、優秀な人材の確保はますます困難を極めている。そんな企業に対してシニア採用を提案しているのが、シニアに特化した求人サイト「シニアジョブ」を運営する株式会社シニアジョブだ。同社の代表取締役 中島康恵氏に、シニア採用の意外なメリットやシニア採用の成功の秘訣、求人サイトとしての「シニアジョブ」の利点について話を聞いた。

若手人材が採用できず定着しない理由

――若手を採用できてもなかなか定着しないといわれますが、実際に現場ではどのようなことが起きているのでしょうか。

【中島】そもそも求人を出しても応募がないというのがありますが、せっかく若手を採用できたとしても、まじめに働いてもらえないことがあります。企業経営者や人事担当者からよく聞くのは、出社したときに挨拶をしない、生理痛や家族の不幸などセンシティブで触れづらい理由をつけて頻繁に休む、少し注意しただけですぐに辞める、というものです。退職代行経由やLINEで「辞めます」と伝えてくるのはまだいいほうで、お昼休みに出て行ったまま戻ってこないケースもあると聞いています。もちろん、全員が全員ではありませんが、そうした行動を取る若手社員が一定数見受けられるようです。

中島康恵さん
中島康恵(なかじま・やすよし)
株式会社シニアジョブ 代表取締役
大学在学中に自力で出資者と仲間を見つけて起業。2014年8月株式会社シニアジョブの前身となる会社を登記したのち、2016年よりシニア転職支援に移行すべく現在の社名に変更。複数のメディアでシニア就業を含めたキャリアや就職、HR関連のコラムを連載中。

――なぜそのような若手社員が出てくるようになったのでしょうか。

【中島】一つは、労働者優位の市場環境です。日本では少子高齢化が進んで労働人口も減少しているため、労働者の売り手市場になっていて転職が容易になっています。もう一つは、仕事に対する価値観の変化です。私たちから上の世代は「仕事で稼いでなんぼ」というタイプが多いように思いますが、今の若手は重要な仕事を任されたくない、責任あるポジションにつきたくない、出世したくないという人が多くいます。彼らはプライドが高くて自分の能力・スキル不足に向き合えず、少し指摘をされただけで「上司の指示が悪い」「会社が悪い」という他責思考に陥りがちです。そうした理由から、自分を認めてくれる、傷つかずにすむ職場を求めて転職を繰り返しているのです。

そのように問題がある社員であっても、安易に辞めさせるわけにはいきません。真面目に働く社員に業務のしわ寄せが来てしまい、今度は彼らが疲弊してしまうからです。そのため、若手と接するときには言葉選び一つにも相当注意を払わざるをえず、若手に気を使い過ぎて「若者疲れ」とも表現される状態に陥っている企業経営者や人事担当者も少なくありません。

シニア人材採用という新たな選択肢

――そのような理由から若手の人材難、定着難に悩む企業経営者や人事担当者も多いのですね。

【中島】そうした方々にわれわれが提案しているのがシニア採用です。ただし、シニアを積極的に採ろうという企業はそう多くありません。企業がシニア採用に消極的な理由は、「年長者は頑固で言うことを聞かない」「過去の栄光にしがみついて新しいことを学ばない」といった強固なバイアスがあることです。このバイアスはシニアを採用して良かったという成功体験がない限りなかなか払拭できません。

実は私にもそのようなバイアスが最初はありましたし、この事業をしていなければシニアを採用しようとは考えなかったと思います。

――そんな中島社長がシニア採用に注目するようになった経緯について教えてください。

【中島】もともと起業したときはITシステムを販売していたのですが、営業先で「シニアを採用したい」という声を複数聞いていました。その一方で、ちまたでは就職難に悩み、「ローンが残っている」「孫にお年玉もあげられない」と嘆くシニアが多くいました。それを目の当たりにして、「これだけ困っている人がいる。シニアが欲しい企業と働きたいシニアをつなげれば、両者の課題が解決できるのではないか」と感じたのが「シニアジョブ」の原点です。

「シニアジョブ」を始めるにあたって自社でもシニアを採用してみたところ、想像以上に好印象で驚きました。言うことを聞かない、新しいことを学ばないというのに年齢は関係ないのだということもわかりました。

――実際にシニアを採用してみてどのようなメリットがあると感じますか?

【中島】まず、真面目で仕事への貢献度が高いことです。毎日出社して終業時間までコツコツ仕事に取り組み、翌日も始業時間までに出社してきます。きちんと挨拶もしますし、相手が年下であっても先輩や上司の指示には素直に応じています。これらは社会人としてごく当たり前のことですが、その当たり前のことができない若手社員も少なくありません。

もう一つは、特に同業界あるいは類似した業界での転職の場合、シニアの持つ30~40年分の経験や知見が一気に手に入ることです。シニアを採用した企業では、彼らの経験や知見をもとに新たな事業や部署が立ち上がったケースもあります。

――実際にシニア採用を行っている企業の事例を教えていただけますか?

【中島】福岡のある工場では、かつて若手の欠勤や突然の退職が頻発していて困り果てていたのですが、50代の社員を採用してみると毎日真面目に働くことがわかり、今では採用対象を50代以上のみとするようになりました。また、美容・理容業界でもシニアが求められるようになっています。顧客の高齢化が進み、趣味嗜好の合う同年代の人に施術をしてもらいたいというニーズが増えているのです。

さらに、20代の社員の教育担当として60代の社員を採用する会社もあります。祖父母と孫くらい年が離れている分、若手からすれば本音や愚痴を言いやすくなりますし、シニアのほうはそれを優しく受け止めてくれるので、若手の早期離職防止に役立ちます。その分、30~40代の中堅層はコアな事業に集中できるのです。そうした好循環が生まれている事例はいくつもあります。

――シニア採用を成功させるにはどうすればよいのでしょうか?

【中島】一つは、うまく業務の切り分けをすることです。例えば当社ではコーディネーターの行う電話営業の業務からアウトバウンドの営業業務を切り分け、シニアの社員にお願いしています。もう一つは、シニアを特別扱いしないことです。年長者には気を使ってしまいがちですが、社内でビジネスチャットツールを使っているのであればシニアにも使ってもらう、あだ名で呼び合うような会社であればそれに合わせてもらう、というようにします。そのように、シニアをあえてシニア扱いしないのが一番良い形だと思います。

シニアの多種多様な働き方を提案する「シニアジョブ」の強み

――「シニアジョブ」にはどのような求人があるのでしょうか。

【中島】職種や業態は非常に幅広く、医療・福祉、事務、保育、清掃、警備、調理、給仕、介護など多岐にわたります。役職層や幹部候補の求人も、ごく一部ですがあります。同業界や近しい業界での経験を積んでいる人は即戦力として活躍されていますし、異業種から転職する人も、真面目にコツコツ仕事ができれば、資格や経験を問わないような職種で活躍することは十分可能です。

――「シニアジョブ」をどのような企業に使ってもらいたいとお考えでしょうか。

【中島】成長している企業に使ってもらいたいですね。私自身、企業が将来成長するためにも若手の採用は不可欠だと考えています。そこにサポート役としてシニアを採用し、業務の一部をシニアに委ねることで若手の業務量が削減され、若手のパフォーマンスを向上させやすくなるのです。

最初はサポート役として入ったシニアが経験を積み、その会社の戦力に成長した事例もあります。例えば、広告代理店や販売会社に入社したあるシニアは、最初は書類作成や事務連絡を担当していたのですが、飲み込みの早さや業務への即応能力を見込まれ、今ではフロントに立って顧客を直接担当するようになりました。このようなケースもあるので、若手の早期離職やパフォーマンス低下といった課題に直面している企業にこそ、「シニアジョブ」を活用していただきたいと考えています。

――最後に、「シニアジョブ」を利用するメリットについて教えてください。

【中島】人材業界の本質は、人を採用して業務が円滑に回り、その企業が成長することにあります。最近は全体的に求人広告の掲載費用も高くなる傾向がありますが、当社はあえて利用コストを安くしています。いつでも掲載を始められますし、求人情報も1件から作成できますし、当社で作成を代行することも可能です。求職者へのオファーの送信数も無制限です。利用企業にとって自由度も柔軟性も非常に高く、なおかつコストも低いのが当社の強みです。

シニア採用はそもそも採用の選択肢として早い段階では挙がりにくいものなので、シニア採用を検討される企業にまず振り向いてもらわなければ話になりません。そのため、コストメリットをとことん追求しているのです。

日本は世界で一番高齢化が進んでいる国で、少子高齢化による経済の縮小も目に見えて起きています。私も日本の社会で生きる一員として日本が栄えていくほうがうれしいので、シニアが普通に働ける社会をつくり、労働人口不足による経済縮小を少しでも食い止めることが今後の目標です。