自ら発電することで企業として責任あるCO2削減を
良品計画がJERAと共同で発電事業会社MUJI ENERGYを設立したのは、2025年9月のことだ。出資比率は良品計画80%、JERA20%。MUJI ENERGYでは全国各地で小型の太陽光発電所の開発を進め、2026年8月末時点で約130カ所の発電所が稼働中だという。
小売業として「無印良品」を展開する良品計画が、なぜ発電事業を行う合同会社を設立するに至ったのだろうか。
「当社は2021年に『第二創業』を掲げ、『ESG(環境・社会・ガバナンス)のトップランナーを目指し、2030年8月期までにCO2排出量を2021年8月期比で50%削減する』と宣言しました」
そう振り返るのは、良品計画で広報・ESG推進部とソーシャルグッド事業部 再生可能エネルギー開発事業部の部長職を兼任しつつ、MUJI ENERGYの副社長も務める、阿南理恵氏だ。
株式会社良品計画 広報・ESG推進部 部長(兼)ソーシャルグッド事業部 再生可能エネルギー開発事業部 部長
合同会社MUJI ENERGY 職務執行者 副社長
無印良品が誕生したのは、1980年。そこには今のサステナビリティの概念に近い、「大量生産・大量消費へのアンチテーゼ」という理念があり、これまでも商品づくりについては、原料や工程の見直しなど、「できる限りのことはやってきた」という。だが2021年に掲げたCO2排出量削減という目標の達成には、大きな障壁が立ちはだかっていた。
良品計画の店舗は全体の8割近くが、ショッピングモール等に出店するテナントで占められていたからだ。テナント店舗では自社施設で一般的な、電力契約の変更や屋根に太陽光発電パネルを置くといったCO2削減手法が使えない。結果、企業として成長し店舗数が増えるにつれ、CO2排出量も増えていくことになった。
「これでは宣言した目標から遠のいていくばかりです。何か方法はないのかと必死で考えました」と阿南氏。
こうした場合、一般的には市場で非化石証書を購入する、発電事業者とバーチャルPPA(Virtual Power Purchase Agreement:電力購入契約。再生可能エネルギー由来の電力から環境価値のみを切り離し、長期にわたり取引する仕組み)を結ぶことによって、脱炭素電源で発電された電気の「環境価値」を購入するといった方法が取られる。それにより企業は「当社は再生可能エネルギーで作られた電力を使用しています」と謳うことができるのだ。
しかし良品計画はそうしたやり方を選ばなかった。「もっと本質的な取り組みによってCO2を削減すべき」という信念があったからだ。
そこでたどりついたのが、「自分たちで発電する」という道だ。
「『自社グループで電気を作ることで自ら環境価値を生み出し、それをテナント店の電力使用に紐づけてゆく』というスキームを考えました」(阿南氏)
そこには他に方法がなかったというだけでなく、「自社で発電事業に関わることで、森林伐採や環境破壊を伴わない、企業として責任あるCO2削減ができるはず」という考えもあった。
良品計画では2023年頃から、そのためのパートナー探しを始めた。どんな再生可能エネルギーを使うにせよ、このスキームが成り立つためには、発電事業のノウハウを持つパートナーが不可欠である。しかしどこに打診しても、「発電はうちで行い、良品計画さんには環境価値だけ買ってもらう形がいいでしょう。御社が自ら発電するのでは、コストが見合いませんよ」という返事しか返ってこなかった。
その中で唯一、「一緒に発電をやりましょう」と言ってくれたのがJERAだった。
脱炭素は1社だけでは成し得ない
JERAは、東京電力グループと中部電力の共同出資によって設立された、日本最大の発電会社である。燃料の調達から発電、卸売までを一気通貫で手がけ、国内の発電電力量の約3割を生み出している。
その巨大企業JERAが、なぜ良品計画の打診に応えたのか。
JERAでグローバル再生可能エネルギー統括部 再生可能エネルギー事業部長を務め、MUJI ENERGYでも職務執行者として合同会社を支える萩尾栄治氏は言う。
「良品計画さんが目指していたのは、『需要家が自ら再生可能エネルギーで電気を作っていく』という新たな挑戦でした」
株式会社JERA グローバル再生可能エネルギー統括部 再生可能エネルギー事業部長
合同会社MUJI ENERGY 職務執行者
良品計画ではMUJI ENERGYによる発電と併せてバーチャルPPAを採用している。MUJI ENERGYが生み出した電力は、JERAの100%子会社であるJERA Crossがアグリゲーター(分散型電源を束ねて統合管理する事業者)となり、電力そのものは日本卸電力取引所(JEPX)へ供給・売却される。一方その電力から「CO2を排出しない」という環境価値を切り離して良品計画がJERA Crossから買い取り、テナント店舗のCO2削減実績に充当する。

「バーチャルPPAを利用している企業は少なくありませんが、自ら発電事業を行い、そこから環境価値を得るというスキームは、過去に例のない取り組みです」(萩尾氏)
JERAはその意気込みを高く評価した。
「JERAは日本最大の発電会社ですが、発電会社1社が自社のCO2排出量削減や再生可能エネルギーの導入を進めるだけでは、日本全体の脱炭素の実現はできません。JERAは『世界のエネルギー問題に最先端のソリューションを提供する』をミッションに掲げています。アジアをはじめとする世界の脱炭素に貢献するために、当社が有する技術や知見、仕組みを、Cutting-Edge Solutions(最先端のソリューション)として提供していきたいと考えています。需要家さまの中にも、自らクリーンエネルギーで発電したいという気持ちはあるものの、そのためのノウハウがなく立ち止まっている企業は、実は相当数あるのではないか。私たちはそうした現状を打破する第一歩として、良品計画さんのMUJI ENERGY設立に参画させていただきました。私たちは同様の取り組みをぜひ多くの日本企業とともに進めていきたいと考えています」(同)
良品計画によるMUJI ENERGY設立は、東京都が進めるHTTのT(つくる)に相当する活動であると同時に、JERAによるCutting-Edge Solutions提供の先端事例でもあるのだ。
あえて小規模分散型の発電設備を採用した理由
事業パートナーをJERAに定めてからも、良品計画にとって発電事業開始までの道のりは平坦ではなかった。
「発電事業にどんなリスクがあるのかもわからないわけです。災害が多い国で発電設備の安全が保たれるのか、廃棄物をどうするのかといった多くの問題が出て、その都度JERAさん、JERA Crossさんとも相談し、ひとつずつ問題点をつぶしていきました。まる2年かかって、2025年9月にようやくMUJI ENERGYを設立することができたのです」と阿南氏は振り返る。
MUJI ENERGYの太陽光発電所は、メガソーラーのような大規模集中型ではなく、耕作放棄地などの遊休地を活用し、1カ所あたり平均50kW程度の小規模設備を全国に分散設置している。
「小規模分散型の発電設備を採用した目的は、自然環境に負荷を与えないこと、地域の住民のみなさまへご迷惑をおかけしないこと、遊休地を有効活用すること、以上の3点を守るためです。私たちは「無印良品」という自社開発商品を販売している小売業なので、発電事業も無印良品の理念に反していないことが大前提と考えています」(阿南氏)
MUJI ENERGYでは良品計画の社員自らが発電所の設置候補地に足を運び、景観や生態系、近隣住民への影響を一つ一つ確認する方針をとっている。図面や航空写真等で下調べしても、実際に現地に行ってみて初めて気づくこともあり、候補地のうち現地調査を経てMUJI ENERGYの定めた基準でOKを出せるのは5割ほどだという。
「今後、250カ所まで開発していくということで会社の承認は得ていますが、適地がなければ開発はしません。再生可能エネルギーを作り出すことは重要ですが、発電所を作ることで地域の環境や景観が破壊されてしまっては、やる意味がありません」(同)
MUJI ENERGYは現在約13MW規模の太陽光発電設備を開発中で、無印良品店舗の年間電力使用量の2割をカバー。将来的に年間8,000トン相当のCO2削減の達成を目標としている。これらはまさにHTTの「T(つくる)」に対する、かつてない挑戦であるといえるだろう。
「私たちが考えるCO2削減の進め方を通じて、世の中に一石を投じたい。この取り組みを見て賛同したり、追随したりしてくれる企業が増えてくれたらうれしいです」(同)
企業連携で脱炭素へ大きく前進
良品計画では「LED照明の導入を促進する」といった店舗での省エネの取り組みを進める他、生産パートナーとともに商品のバリューチェーン全体におけるCO2削減に取り組むため、サプライチェーンのESGデータを収集・評価するツール「Worldly/Higg」を導入するなど、「へらす(H)」活動にも精力的に取り組んでいる。
「ためる(T)」についても、テナントではない単独店舗に屋根置き型の太陽光パネルの設置を進めている。一部店舗では蓄電池を併設する実験を行い、結果が良好だったことから、今後は単独店舗には太陽光発電に加え、蓄電池も積極的に設置していく方針という。
「もともと脱炭素を進めるべきだという考えは強く持っていたので、東京都さんのHTTの取り組みを知って、『ぜひ参画させてください』と申し出ました。東京都さんのような自治体が企業の脱炭素の動きを支援されているのは、素晴らしいことだと思います。JERAさんもおっしゃるように、1社だけではCO2の削減はできません。私たちは小売店舗のCO2をどう減らすべきか、他社さんとも意見や情報交換をしています。例えば、飲料系チェーン店を展開する企業との情報交換では、室外機の設置場所・向き・囲い壁の構造が冷却効率や電力使用量に大きく影響することを学び、新規店舗設計への反映を検討中です。
同様に、HTTに参画している各社がお互いの取り組みを話し合い、まねできることはまねしていけば、電力使用量はまだまだ減らせると思います」と、阿南氏は語る。
企業1社1社の取り組みに加え、各企業が連携し、その取り組みが共有されることによって、脱炭素に向けての歩みは大きく前進するのだ。
HTT取組推進宣言企業登録申請受け付け中
780を超える企業・団体が登録している「HTT取組推進宣言企業」(2026年8月末現在)。登録した企業には、以下のような特典があります。
■HTT取組推進宣言企業としての登録証が発行されます。
■東京都の公式ウェブサイトに企業名や取組内容等を掲載します。
■東京都の中小企業制度融資の対象となります。
都内に本社または事業所を置く企業・団体等を対象に、以下から登録申請が可能です。