AIが広告もレポートも「作る」時代。マーケティングはもう自社でできる、と考える企業も増えている。だが、設立10年で社員約150名・売上100億円超へ成長した株式会社ゴンドラは逆を行く。AI・AXの知見を持つ20人超のスペシャリストを顧客企業8社に常駐させ、顧客社内の一員として事業に伴走させているのだ。人の手をかける必要性が薄れていくいま、なぜあえて人を客先へ送るのか。代表取締役社長の古江恵治氏と常務取締役CSOの竹田達希氏に聞いた。

お客様よりも、お客様のことをよく知る――事業に深く入り込む常駐型支援

ゴンドラは、Web広告やCRM、Webサイト制作、システム開発、そしてAI活用までを組み合わせ、企業のデジタルマーケティングを一気通貫で支援する企業だ。

【古江】我が社は、プロジェクト全体を統括するマネージャー、戦略を描くマーケティングコンサルタント、広告運用やCRMの専門家、システムエンジニア、さらに経営管理まで、異なる専門性を持つ人材がそろっています。今、お客様から強く求められていると感じるのが、こうした人材が顧客企業の中に入り、上流工程から実務までを共に担う「ハンズオン型」の支援です。5年ほど前から1~2社に対して行っていましたが、メンバーの常駐はありませんでした。それが今日では8社に対して20人以上のメンバーを駐在させるに至っています。

古江 恵治 株式会社ゴンドラ 代表取締役社長
古江 恵治(ふるえ・けいじ)
株式会社ゴンドラ
代表取締役社長

【竹田】常駐ではないケースでも、支援のアクションは基本的に同じです。ただ、どの部署の誰に提案を通せばプロジェクトの実現可能性が高まるかといったことは、お客様の社内に居てこそ理解できる機微でもあります。カフェテリアや喫煙スペースでの小さなコミュニケーションからアイデアが生まれブレイクスルーになることも。発注者と受注者の枠組みを超えて、共に課題解決に取り組む仲間としての信頼関係が醸成されると、質の高い成果が生まれるのです。

竹田 達希(たけだ・たつき) 株式会社ゴンドラ 常務取締役CSO 兼 ABX室長
竹田 達希(たけだ・たつき)
株式会社ゴンドラ
常務取締役CSO
兼 ABX室長

【古江】ある大手クレジットカード会社において当社は、個人・法人カードのWeb獲得活動全般を企画から実行、分析、改善まで一貫して担ってきました。客先のその部門には70人ほどのご担当者がいますが、当社の最古参のメンバーは、どの券面がどれだけ獲得できているかといったノウハウを、お客様の社員以上に熟知しています。数年ごとに人事異動があるお客様側では、どうしても知見が入れ替わる。長く伴走してきた私たちが、いわば生き字引のような役割を果たすこともあるのです。

同社のSNS運用でも、企画・制作からコメント対応、分析、改善提案までを引き受け、運用を引き継いだ初月にエンゲージメント率は約1.4倍、半年ほどでフォロワー数は約2倍に伸びました。広告やCRMで蓄積した知見を掛け合わせられるのも、一気通貫で支援する強みです。

ゴンドラが創業以来かかげるコーポレートメッセージに、「お客様をとことん好きになる」という言葉がある。抽象的なスローガンにも聞こえるが、中身は具体的だ。

【古江】私たちが見ているのは、顧客企業のご担当者が社内でどうしたら成果を上げられるか、どうしたら評価され、幸せになれるか、までです。企業の課題解決や目標達成を目指すのはもちろんですが、日々やりとりをするご担当者一人ひとりの成功まで背負って、本当にお客様を理解したといえます。単に発注された業務をこなすのではなく、お客様の会社とそこで働く人を知り尽くしにいく――その心構えが大切なのです。

効率化の武器は「人」――ホテルスタッフや販売員が活躍する理由

今、「自社のマーケティング戦略にゴンドラのスペシャリストを加えたい」「ベンダーとしてではなくメンバーとして加わってほしい」といったリクエストが増えているという。AIの進化・普及で内製化が進むと予見されたのとは真逆ともいえる傾向は、なぜ起きているのか。

【古江】ここ2、3年、そうした引き合いが一段と増えました。「AIで内製化できるのでもう伴走はいりません」と言われたことはありません。作業的な部分はAIを活用できる企業も増えてきましたが、効率化の先に何を武器にしていくのか。多くの企業が、まさに今そこを探している状況だと思います。だからこそ、領域をまたいで課題を捉え、実行まで伴走できることへのニーズが高まっていると感じています。

【竹田】これからの支援に本当に必要なのは、効率よく作業をこなす力ではありません。顧客企業の中に入り、担当者と関係を深めながら、まだ言葉になっていない課題や、社内の細かな変化をくみ取っていく。そうした、数値や資料には表れないものをつかむ力です。そこは、専門知識やスキルだけでは務まりません。

【古江】ですから私たちは、技能よりも人間性を重視して人を選んでいます。実際、ホテルの元ドアマンや、東京駅のお土産店で販売員として働いていた人など、異業種から転じたメンバーも少なくありません。彼らはホスピタリティに優れ、クライアントから厚い信頼を得て、幹部や管理職になっている者もいます。人に信頼される力は、経歴だけでは測れない――そう考えています。

変化の渦中に飛び込み、次の一手を切り拓く

2026年8月、AIによる変革を担う専門部門「ABX(AI Business Transformation)」を新設した。AIによって自社の業務を変えるだけでなく、そこで得た知見を顧客企業の変革にも生かすためだ。

【竹田】AIをめぐる環境変化を考えると、次の打ち手を真剣に考えなければならないとの認識になり、ABX室を立ち上げました。どこかで誰かが挑戦していないと、会社全体として競争力が落ちて危なくなる。リスクと、まだ見えていない領域への挑戦をABXが引き受ける、その覚悟で進めています。

お客様である経営者の頭の中にある考え方や、言葉にされていない意図を間近でインプットさせていただき、AIを使って一緒にかたちにしていくことで、トランスフォーメーションを生み出せるよう、当社もアップデートし続けていかねばなりません。

【古江】新しいことを始めるとき、確証やエビデンスがそろっていることのほうが少ないでしょう。費用対効果を完全に見極めてから動こうとすれば、変化のほうが先に進んでしまうこともあります。AI、AXをめぐる状況は、まさに「もや」の中にある。曖昧な状況でも進む勇気、決断する勇気、大きな経営判断をする覚悟が必要です。

古江氏と竹田氏
今期の事業計画にはなかったABXの創設。AIをめぐる環境変化を受け、5月ごろから次の一手を考え始めた古江氏と竹田氏の、阿吽の呼吸ともいえる決断だったそう。

また、設立10年の節目に、初の地方拠点となる北海道支社を開設。北海道出身の代表・古江氏の故郷への思いを起点に、地域企業や自治体のDX・マーケティング支援、雇用創出まで視野に入れた新たな挑戦を始めている。

【古江】10年という節目を迎え、会社としても売上高が100億円を超え、ここからさらに未来への投資をしていこうと、北海道支社を立ち上げるという経営判断をしました。北海道は観光が盛り上がっている一方で、AXやDX、Web活用など、まだ実現できていない課題が多くあることも感じています。実際、当社は北海道のお客様とのお取引額がここ5年ほどで大きく伸びてきていました。

2025年11月当時、北海道支社はメンバー5名でスタートしましたが、現在は12名まで増えました。2035年には200名規模にしたいという思いもあります。北海道で新しい雇用や事業を生み出しながら、地域に根付いていきたいと考えています。

【竹田】北海道には、東京とはまた違う人の温かさがあります。私たちが大切にしている「人間味」という部分とも、相性がいいのかもしれません。ただ、だからといって、それに甘えて東京と同じやり方を持っていけばいいわけではありません。「いいものがありますよ」とサービスを紹介するだけではなく、我々の持ち味でもある、人として向き合い、信頼を一つずつ積み重ねていくことが大切だと感じています。

【古江】AIを突き詰めるほど、人の価値はむしろ高まります。答えの見えない時代に、課題を我がこととして考え、共に意思決定を導くパートナーを持てるかどうかが、これからの経営を大きく左右します。ゴンドラは、そのパートナーになりたいと願っています。

誰もがAIで「作る」時代に、企業が問われるのは、自分たちの価値をどう磨き続けるかだ。ゴンドラは、乗る人を山頂へ運ぶ乗り物の名を冠している。麓から頂まで同じ景色を見ながら伴走する姿勢こそ、社名に込められた約束なのかもしれない。