「100年の積み重ね」こそが揺るぎない強み
今年6月、大阪メトロの新たなかじ取り役に就任したのが、代表取締役社長の角元敬治氏だ。銀行業務で長年にわたり多様なビジネスを見てきた視点から、同社の約100年の歴史が育んだ圧倒的な「現場力」を強みに、外部連携を生かして「新たなフェーズ」へと歩みを進める。
「銀行員時代から、あらゆる企業の成長や売り上げを支えているのは『現場』だという信念がありました。当社で最も感銘を受けたのも、日々の安全・正確な運行を支える社員たちの極めて高い緊張感と使命感です」
そう語る角元氏が、新社長就任の内定後から精力的に取り組んだのが、広大な現場を自らの足で巡ることだ。車両基地や夜間の保線作業の詰め所、駅社員の仮泊室、さらには自ら運転士の横に立ち添乗を行うなど、現場の空気をじかに肌で感じて回った。
「こうした安全・安心の積み重ねは、約100年にわたる大阪の地下鉄の歴史の中で、先輩から後輩へ継承されてきた素晴らしい現場文化のたまものです。これこそ当社の大きな強みであり、最大のアセットだと身をもって確信しました」
代表取締役社長
角元敬治(かくもと・けいじ)
1985年、住友銀行(現 三井住友銀行)に入行。2019年以降は取締役兼専務執行役員、取締役副会長などを歴任し、キャリアの大半を大阪で重ねた。関西経済同友会代表幹事も務め、大阪市高速電気軌道の社外取締役を経て、26年6月に代表取締役社長に就任した。
「外部連携」を起点に次のフェーズへ
そのアセットの上でこれからの大阪メトロは、「外部企業や異業種と戦略的な連携を取ることに大きな成長の可能性がある」と角元社長は分析する。
「交通事業者として、単にそこにあるインフラから、民営化を経て不動産やサービス業など多角化を進めるフェーズへと移りました。自社にノウハウがない領域で新たな価値を創出するには、外部の知見や先端技術を積極的に取り入れ、教えを乞う姿勢が不可欠です」と見通しを語る。
こうした事業創出を加速させるため、角元社長は就任後すぐに新組織「事業開発本部」を発足させた。特に、未活用だった「地下空間」などの価値向上には積極的に取り組む予定だ。
「大阪メトロには109の駅があり、毎日約250万人ものお客さまにご利用いただいています。この巨大な顧客接点を単なる『通過点』にしておくのは非常にもったいない。109の駅を起点に、外部の知見やアイデアを組み合わせることで、これまでになかった新しいサービスやビジネスの可能性を徹底的に探っていきます」と力強く述べる。
デジタル活用で関西の「交通の空白域」をなくす
2025年度には全駅への可動式ホーム柵の設置が完了し、今後も安全・安心面に引き続き力を入れる。エレベーターの複数整備といったバリアフリー化、さらには南海トラフ巨大地震や大雨・津波を見据えた止水設備整備などの強靱化も進めている。
「急速に進む労働力不足に対しても、DX化やAI導入で対応していきます。中央線の車両には走行しながらリアルタイムで線路状態を自動検知するシステムを導入し、現在は駅の天井裏に小型ドローンを飛ばして構造物の状態をチェックする取り組みも進めています」
また、大阪メトロは25年の大阪・関西万博において「顔認証改札」を導入。事前に公式アプリ「e METRO」でデジタル乗車券を購入して顔写真を登録すれば、手ぶらで改札を通過できる近未来の乗降体験を実現した。さらに同アプリでは、車両ごとのリアルタイムな混雑状況を提供するなど、デジタル活用によるユーザー利便性の向上を図る。そして、同社が掲げる未来像の核となるのが、都市型MaaS構想「e METRO」を中心とした「モビリティ最適ミックス」と「エリア価値の向上」だ。
「人口減少や高齢化が進む中で、大阪市内の周辺部における交通の空白域を作らないことが私たちのミッションです。そのための取り組みとして、バスやオンデマンドバス、グループ傘下のタクシー、地下鉄を組み合わせた移動ネットワークを構築していきます。そこには、スタートアップといった新たなテクノロジーを持つ企業との協業も必要だと考えています」
まちづくりを通じて「選ばれる交通機関」へ
そうした数々のハード・ソフトの改革と同時に、角元社長は「交通事業は『サービス業』であることを忘れてはいけない」と力説する。
「これまでは『そこに地下鉄があるから乗っていただける』という環境でしたが、これからはお客さまから『選んで乗っていただく』時代になる。だからこそ、利便性向上だけでなくサービス品質が決定的な差になります。駅員や乗務員による心あるあいさつや親切な対応といった『人のぬくもり』こそが、最後の差別化要因になると考えています。
大阪というまちには、条例などによる制約にとらわれず、さまざまな施設や文化が共存している魅力があります。当社の交通アセットを起点としながら、モビリティ最適ミックスのご提供やさらなるDX化・AI活用を進める一方で、地元の方々や多様な事業者と協業しながら、大阪全体の活性化と付加価値向上に貢献していきます」
人々の「移動」を起点に暮らしとまちに新しい価値を提供し続ける大阪メトログループ。角元社長の力強いリーダーシップの下、大阪の魅力を世界へと高める新たな挑戦が始まる。