2030年度に輸送能力の34%が不足、40年には生産年齢人口が1100万人減少する――。物流業界が直面する課題は個々の企業努力だけで乗り越えられるレベルを超えている。この危機に対して、三菱地所は従来の不動産デベロッパーが担ってきた枠組みの外へ踏み出し、解決へと乗り出した。掲げるキーワードは「物流ネットワークデベロッパー」である。

「貸す」から「つなぐ」へ物流全体の最適化を図る

三菱地所はどのようなアプローチで課題解決に挑むのか。物流施設事業部長の吉竹宏樹氏は、自身の経験も振り返りつつ次のように語る。

吉竹宏樹(よしたけ・ひろき) 三菱地所株式会社 物流施設事業部長
吉竹宏樹(よしたけ・ひろき)
三菱地所株式会社
物流施設事業部長

「グループ会社である東京流通センター(TRC)への出向などを通じて、庫内作業員やトラックドライバーの作業量の増加、人手不足が深刻化していくのを肌で感じ取ってきました。われわれはこれまで、立地の良い場所を探し、物流施設を建てて貸す事業が主体でした。しかし施設単体の高度化だけでは、トラックの荷待ち時間や低い積載率、積み下ろしをはじめとする荷役の負荷といった課題を解決できません。拠点同士を有機的につなぎ、物流全体の最適化を図ることが不可欠だと痛感したのです」

その未来像として三菱地所が提示するのが、自動運転トラックなどの次世代モビリティと、そのメリットを最大限に引き出す先進的な物流施設を掛け合わせた「基幹物流構想」およびそれを軸として構築する「物流ネットワーク」である。吉竹氏が言う。

「開発を進めている次世代基幹物流施設をメインハブ、当社物流施設シリーズの『ロジクロス』をサブハブ、そしてTRCをラストマイルとして、荷物を集約し、積み替え、共同で運び、次の拠点へ早く確実に届ける、そんな広域の物流ネットワークの構築を進めています」

「物流ネットワークデベロッパー」として三菱地所が実現を目指す「物流ネットワーク構想」

高速道路ICと施設が直結 スムーズな受け入れが可能

構想の要となる次世代基幹物流施設は、関東(神奈川県横浜市)、関西(京都府城陽市)を先行的に整備し、今後東北(宮城県仙台市)、中京(愛知県日進市)をはじめとする各主要都市でも展開し、物流の大動脈を結び付ける。最大の特徴は、高速道路インターチェンジ(IC)に「直結」している点だ。一般道をできるだけ介さずに物流施設へアクセスすることで、「レベル4(特定条件下での完全自動運転)」の自動運転トラックや、ダブル連結トラックを安全かつスムーズに受け入れる。吉竹氏が解説する。

「次世代基幹物流施設」(愛知県日進市)の完成予想パース。将来的には貨物を下ろした次世代モビリティに別の方面行きの荷物を積み込んで走行し、輸送効率をさらに高める「基幹物流型ラウンド輸送」の実現も見据えている。
「次世代基幹物流施設」(愛知県日進市)の完成予想パース。将来的には貨物を下ろした次世代モビリティに別の方面行きの荷物を積み込んで走行し、輸送効率をさらに高める「基幹物流型ラウンド輸送」の実現も見据えている。

「施設内には自動運転と有人運転の切り替えやトレーラーのつなぎ替えを行うモビリティプールを設置するほか、荷物を行き先別に素早く仕分け、積み替えるクロスドックフロアも整備します。複数の荷主や物流事業者の荷物を集約し、高い積載率で幹線輸送へ送り出す仕組みを整えます」

さらにロジクロスシリーズやTRCに加え、今年7月には関西圏に強みを持つNANKAIグループの「NANKAI」との3社連携の共同検討をスタートさせた。「都心型と郊外型のハブが相互に機能を補う強靱きょうじんなインフラを目指します。幹線輸送と地域輸配送の役割を分けることで長距離トラックは拠点間輸送に集中でき、各拠点では複数企業の荷物を組み合わせるため、低積載車両運行の削減、ドライバーの拘束時間の短縮、またCO2排出削減にも貢献します」

この取り組みは、社会全体で空きリソースを共有・最適運用する国の「フィジカルインターネット」構想とも合致する。

「当社のリアルな拠点と予約やマッチングなどの仕組みを融合させ、共同輸配送を促進する共通インフラを提供したいと思っています」

東京都大田区平和島の一角にあり、全国・都心それぞれへのアクセスに優れる「TRC」。
東京都大田区平和島の一角にあり、全国・都心それぞれへのアクセスに優れる「TRC」。
東京外環自動車道「外環三郷西IC」から約2㎞の場所に位置する「ロジクロス三郷」。
東京外環自動車道「外環三郷西IC」から約2㎞の場所に位置する「ロジクロス三郷」。

「実証フィールド」として自社アセットをフルに活用

もちろん、自動運転トラックが高速道路を行き来するだけでは物流の自動化は完結しない。施設内に進入してから荷下ろし位置(バース)に着車するまでの無人化、いわゆる「バース to バース」の自動輸送が欠かせない。技術的ないくつものハードルを克服すべく、途切れることなく実証、開発が続く。吉竹氏が語る。

「物流施設内はコンクリートや鉄骨で遮られ、GPS(GNSS)の電波が届きません。難易度が高い屋内自動走行において、高精度3次元データと車両側のセンサー(LiDARなど)を連動させて自己位置を推定する独自技術や、バース予約・車両誘導・管制システムなどを、パートナー企業と共同で一体的に開発しています。高速道路から施設のバースまでをシームレスに無人でつなぐ、それが実現して初めて、実用的な自動輸送と呼べるのだと考えています」

先進的な取り組みをスピーディーに推進するため、三菱地所は今年4月に「物流価値創造ユニット」を新設した。不動産開発は長期の期間を要する一方、技術革新のスピードは速い。変化に柔軟に対応し、R&Dや異業種連携を専任で推進する体制を整えた。同ユニットが特に注力しているのが、トラック到着後の「荷役」領域の省人化だ。吉竹氏が言う。

「トラックが自動運転で無人化すると誰が荷物を下ろすのかという問題が立ちはだかります。輸送を自動化しても、積み下ろしで時間がかかっては物流全体の生産性は上がりません」

現在、自動運転スタートアップのT2社との協業によるTRCでの「建物内走行実証実験」を進めるほか、庫内作業におけるフィジカルAIやヒューマノイドロボット活用を探っている。こうした先端技術の実装において、三菱地所は自社アセットを「実証フィールド」として活用できる点も大きな強みとしている。「机上の空論ではなく当社が有するTRCやロジクロスでリアルな実証が可能です。加えて平和島のTRCは都心からのアクセスに優れ、時間を効率的に使える地の利があります。スピーディーに試行錯誤を重ねられるのは、技術革新が速い現代において優位性を発揮するでしょう」

最後に吉竹氏は改めて、目指す「これからの物流」を語ってくれた。

「荷主企業、物流事業者には共同輸配送のパートナーとして、ITやモビリティの企業には実験の場として、当社のアセットを活用してもらいたいと思います。多様なプレーヤーと共に10年後、20年後も必要な物が必要な場所に届き続ける社会をつくり上げたいと思っています」