数年おきにやって来るオフィスの契約更新。十分な準備もできず、慌てて移転か残留かを決めざるを得なかった……そんな経験をした企業は少なくないだろう。「あくまでも事業計画の中長期を見据えてファシリティマネジメントを捉えることが重要」と語るのは、MACオフィス代表取締役社長 兼 CEOの池野衛氏だ。WEO®(WORKING ENVIRONMENT OPTIMIZATION)マネジメントを軸にしたコンサルティングサービス、その独自性とは。

最適解を検証するためのプロセスが欠けている

――賃料の高騰や空室率の低下、資材や人手不足による新築ビルの竣工遅れなど、企業のオフィス戦略は厳しさを増しています。

池野 衛(いけの・まもる)
池野 衛(いけの・まもる)
株式会社MACオフィス代表取締役社長 兼 CEO

【池野】契約更新が迫っている、従業員が増えて手狭になった、働く環境をもっと快適にしたい。さまざまなオフィスの課題に直面している企業は、解決策としてまずは移転を検討すると思います。

ここで重要なポイントは、「その企業にとっての最適解は何か」を検証するために必要な時間やプロセスが抜け落ちてしまっていることです。例えばオフィス仲介会社に相談すれば、基本的には移転を前提として話が進みます。「移転しないケース」のシミュレーションは行われませんから、その妥当性は分からないわけです。

都心部におけるオフィスビルの空室率は2%前後と極めて低く、賃料も高止まりの状況です。一般的に更新の1年ほど前に動き出す企業が多いのですが、実はそのタイミングでは「遅い」のです。

だからこそ、私たちは契約更新の「2年以上前」から支援を始めます。あらゆる可能性を検討し、ビルオーナーとの交渉を円滑に進めるためには、この期間が必要です。1年間では予算や広さなど希望に合致する移転先を見つけるのは容易ではなく、引き続き同じビルに残るとしても、近年は2割もの賃料アップが提示されることも珍しくありません。特に立地に優れ、大規模なSクラスビルを拠点とする大手企業にとって、賃料値上げ打診に向けて対策を練っておかなければ、中長期にわたり非常に大きな負担がのしかかることになります。

「イコールパートナー」としてコストメリット最大化を追求

――MACオフィス独自の「WEO®マネジメント」とは、どのようなコンサルティングサービスでしょうか。

【池野】WEO®マネジメントは、お客さまの経営計画や企業風土などを深く理解した上で、ファシリティ最適化の観点から生産性向上、事業の成長を後押しします。移転ありきではなく、例えば「現オフィスのレイアウト変更のみで2年間の人員計画を乗り切る」「サテライトオフィスやシェアオフィスを柔軟に組み合わせて拠点を分散する」など、複数の選択肢を用意して、フラットに比較検証します。アドバイスにとどまらず、企業の担当者がそのまま会議で使用できる説明資料の作成なども含めて、クライアント企業のコストメリット最大化を追求する「イコールパートナー」として伴走します。

日本のオフィスビル仲介の仕組みは超高層ビルが誕生した1960年代から、ビルオーナーとオフィス仲介会社の強固なパートナーシップを中心としてきました。物件選定や内装工事といった「手段」の前に、経営計画から逆算してオフィスの在り方を定義する「上流」の視点でファシリティ戦略を支援できる存在は、長らく空白でした。MACオフィスはそこにポジショニングし、新たな市場の創造に向けて展開しているのが、WEO®マネジメントです。

当社の最大の強みが発揮されるのは、66年の創業から蓄積してきた経験やデータを駆使したビルオーナーや管理会社との交渉です。不動産のプロではない企業の担当者が、本来の業務の傍ら、大手のデベロッパーと対等に協議するのは簡単ではありません。賃料の見直しはもちろん、フリーレント期間の延長や工事区分の緩和や工期の短縮といった諸条件について、クライアント企業に代わって話し合います。

これは、決して対立する姿勢で行うわけではありません。ビルオーナー、クライアント企業、オフィス仲介会社、そして当社が最終的には利を得られる着地点を見つけ出します。いわば「四方よし」に持っていくのが当社の存在意義です。着地して初めてコンサルティング料が発生する「完全成功報酬型」でお引き受けしており、着手金もありません。移転が決まれば通常の仲介手数料と同等の金額(賃料1カ月分)、残留であれば現在の賃料の半月分を報酬として頂きますが、再契約条件見直しの結果、報酬以上のコスト削減につながるケースが大半です。

【図表1】不動産契約条件のメリット最大化を目指すWEO®マネジメント

プラットフォーマーとして「新しい経済圏」の確立へ

――コンサルティングサービスのさらなる強化に向けて、どのような展望を描いていますか。

【池野】私たちが描く将来像は、中立的な立場のプラットフォーマーとしてさまざまな課題の解決に貢献することです。注目しているのは、例えば居抜き物件のマッチングの促進です。通常、解約予告が出るのは「半年前」。この短期間で次の入居企業を探してオーナーの承諾を得ることは、通常のスキームでは至難の業です。しかし、2年前から支援を開始し、数多くの企業と中長期的なオフィス戦略を共有している当社なら、退去、移転拡張といった構想を把握しているため、散らばっている情報をパズルのように組み合わせて、より高精度のマッチングを図ることができます。円滑に決まることで、原状回復費、内装工事費、空室期間など、多くの無駄を低減できると考えています。

また、都市再開発の活発化に伴い、立ち退き交渉のご相談も増えています。主張や感情がぶつかり合いがちな場面においても、それぞれの立場にとって何が最も経済的合理性が高いのか、しっかりロジックを立ててテナントファーストで交渉に臨んでいます。

こうした取り組みの先にイメージしているのは、「ファシリティ経済圏」の確立です。今後はAIで完結できるインフラも備え、より多くの企業に当社のコンサルティングサービスを提供できる体制を整えていきたいと考えています。生産年齢人口が減少する日本において、企業の人材が専門外の業務で消耗することなく、本来の役割に全力を注ぎ、生産性をより高められる。そんな環境づくりをサポートするファシリティ領域全般のBPOサービス拡大を目指しています。経営資源の最適化を通じて、企業の生産性を引き上げるべく、努めていきます。