「大阪への恩返し」――民営化後初のトップ交代で始まる第二章
「日頃より当グループを支えていただいているすべての皆さまに感謝を申し上げます」
就任会見で角元氏がまず口にしたのは、社長就任の抱負ではなく、Osaka Metro Groupを支えてきたステークホルダーへの感謝だった。お客さまや株主、取引先、地域、そして社員など、多くの支えがあって現在の同社があることに触れたうえで、民営化以降の歩みの歴史を受け継ぎながら、新たな成長ステージへ歩みを進める決意を述べた。
「今年度からは次なるステージ、企業としての第二章へ踏み出したものと捉えています。金融業界でもお客さまのお金を扱うという責任のある業務にあたってきましたが、交通事業はお客さまの命を預かる仕事であり、その責任の重さには身の引き締まる思いです。これまで築かれたものを引き継ぎ、次の未来へつないでいく役割を果たしたいと思っています」
三井住友銀行で長年キャリアを積み、昨年から社外取締役としてOsaka Metroの経営にも携わってきた角元氏。交通業界の出身ではない自らの強みについて、「社外出身だからこそ果たせる役割がある」と語り、そのキーワードとして挙げたのが「つなぐこと」という言葉だ。
「金融機関に勤めていた頃は、多様な企業や地域、人、事業を結び付けながら、新たな価値を生み出す仕事に取り組んできました。Osaka Metroの社長としても、スピード感を持って外部との連携をさらに広げていくことを期待されていると思っています」
徳島県生まれの角元氏が最初に大阪を訪れたのは1970年の大阪万博のときだという。地下鉄に乗車したときに感じたまちの活気や地下鉄への感動は、半世紀以上経った今でも鮮明に記憶に残っていると振り返る。55年後に再び大阪で万博が開催され、その翌年に同社の社長へ就任したことについて、「非常に感慨深く、光栄です」と語るとともに、「今回この役目を引き受けるにあたり、長年大阪で仕事をしてきた私にとっては大阪への恩返しという思いがあります」と率直な胸の内を明かした。
大阪市高速電気軌道株式会社 代表取締役社長
1985年、株式会社住友銀行(現 三井住友銀行)に入行。2019年以降は取締役執行役員、取締役副会長として長く大阪に駐在し、関西経済同友会代表幹事も歴任。2025年に大阪市高速電気軌道株式会社の社外取締役、2026年6月、代表取締役社長に就任した。
外部との連携にあたり変えてはならないもの、変えるべきもの
就任会見では、外部からOsaka Metroを見てきた視点から、同社の強みと課題についても言及した。角元氏が最大の強みとして挙げたのは、約100年にわたり地下鉄事業を支えてきた現場力だ。「地下鉄やバスを毎日、安全・安心に安定して運行することは決して当たり前ではない」と前置きしたうえで、日々の運行を支える技術力や、一人ひとりの社員が積み重ねてきた努力は、同社の誇るべき大切な資産だと強調する。
これに対して、今後の持続的な成長に向けて課題として挙げたのが、外部との戦略的な連携だった。
「現在の社内の力だけでは限界があります。今よりもさらに積極的、かつ幅広く外部の皆さまと連携し、自社にはない経営資源を見出し、新たな成長の可能性を広げていくことが重要です」
そのためには、変えてはならない本質と、積極的に変えていくべき領域を明確に切り分ける必要があると角元氏は強調する。
変えてはならない本質として真っ先に挙げたのが、「安全・安心の徹底的な追求」だった。長年培ってきた技術力や、お客さまから寄せられてきた信頼とともに、将来にわたって守り続けるべき価値だという。
「安全・安心は当社にとって事業を営むすべての大前提です。ここが揺らげば、お客さまの信頼が失われ、交通事業者としての存在基盤そのものが揺らぐことになります」と角元氏は力強く言い切る。
続いて、変えていくべき領域として挙げたのは、「外部との戦略的連携」「デジタル化&データ・AI活用」「人財戦略」の三つだ。
特に外部との戦略的連携については、鉄道やバスといった交通事業者同士にとどまらず、幅広い業種との協業も視野に入れる。会見では今後の連携の方向性について質問が及ぶと、「沿線に暮らす人々の便利さや快適さを高めるために、業界を問わずさまざまな人の提案やアイデアを取り入れながら、新しいサービスや付加価値を生み出していきたい」と展望を語った。
また、「デジタル化&データ・AI活用」については、これらをいかに経営に実装していくかが、今後の企業力を大きく左右するとの考えを示し、「AIを活用することで人が本来力を発揮すべき仕事へ配置し、お客さまへのサービス向上につなげていきたい」と述べた。将来的には鉄道やバスの運行管理、ダイヤ作成、オンデマンドバスの運行最適化など、交通サービスそのものの高度化にも活用していく構想だ。
三つめの領域である「人財戦略」も重要な経営課題だ。「最終的に価値を生み出し、現場を守り、変革を進めるのは人です」と現場力の重要性を繰り返し説き、経営戦略と連動した人財育成を進め、一人ひとりが能力を発揮できる環境を整えることが、企業としての第二章を支える重要な基盤になると位置付けた。
交通を起点に、大阪のポテンシャルを引き出す
角元氏が描く成長戦略の根底にあるのは、「大阪から元気を創りつづける」というOsaka Metroの企業理念だ。そのために、「交通を核にした生活まちづくり企業」として、単に鉄道やバスを運行するだけではなく、交通を起点に暮らしや都市へ新たな価値を生み出すことで、大阪全体の魅力向上につなげる方針だ。
「交通インフラを支えるだけでなく、周辺の生活サービスも充実させることで、大阪の持つポテンシャルを引き出し、大阪の価値を高めていく。住む人にも、働く人にも、訪れる人にとってもより魅力的な大阪になるよう貢献したいと考えています」
その実現に向けた戦略の一つが、都市型MaaS構想「e METRO」だ。交通サービスとデジタルを融合させ、移動だけでなく日常生活全体の利便性を高めることを目指す取り組みであり、角元氏も「引き続き具体化を進めていく」と強調した。
角元氏は個別地域のまちづくりにも言及した。中でも森之宮エリアは、大阪公立大学の新キャンパス整備などを背景に、大阪城東部地区の新たな拠点として期待が集まる地域だ。角元氏は「当社として非常に重要な開発案件」と位置付けたうえで、建材コストの高騰や人手不足の問題を見極めながら、関係者と連携して着実に事業を進めていくと説明した。
もっとも、新たな開発エリアだけに注力する考えではないと角元氏は続ける。
「新規開発地域だけではなく、当社の交通軸がカバーするあらゆるエリアに丁寧に目配りを行い、持続可能で質の高い交通サービスを提供していきます。また、自動運転や空飛ぶクルマといった最新技術も視野に入れつつ、将来に向けて最適なモビリティミックスの提供で交通課題解決を推進していきます」と最新技術を取り入れる方針も示した。
「そこにあるインフラ」から「お客さまから選ばれる企業」へ
会見の終盤、角元氏は人口減少や少子高齢化、ライフスタイルの多様化など、交通事業を取り巻く環境が今後大きく変化していくことへの危機感を率直に口にした。鉄道事業という安定した収益基盤を持つ一方で、その環境に安住することなく、企業として緊張感を持って変化を続けなければならないという認識だ。
そうした中で最も大切にしたい考えとして繰り返したのが、「お客さま目線」の徹底だった。
「お客さまにとってのベネフィットは何かという問いを常に持ち続け、それを実現していく企業でありたいと思っています」
その積み重ねの先に目指す姿について、角元氏は「単に当たり前にそこにあるインフラではなく、お客さまの意思で選ばれる企業へと進化していかなければなりません。それがこれから先、生き残っていくために重要だと考えています」と締めくくった。
「これらの変革は、社長の私が一人で進めていくものではない」と、最後まで「つなげること」を自身の役割と示した角元氏。Osaka Metroの第二章は、お客さまや地域、さまざまなパートナーとともに、新たな都市の未来を描く挑戦として幕を開けた。