“田舎暮らし”は
相続した子の負担に

問題は今の住宅取得層に、シニア世代が住んでいるような、50~60坪の広さのある宅地を一括で買う資力がないことだ。

80年代以降に開発された住宅地では、住宅地の環境を守るため、建築協定や地区計画で最低敷地面積を定めている場合がある。その面積が大きい場合や斜面の途中に建てられたような家では、物理的にも分割が難しい。田園調布など名の知られた高級住宅地は別として、普通の郊外の住宅地で、土地代だけで5000万~6000万円という物件は、なかなか買い手がつかず、それが理由で転居をあきらめる人も多い。

それまでマンションに住んでいた人が、シニアになってから一戸建てに移るケースは少ない。今より都心から離れた、郊外や地方に移住したいという希望も多くない。リゾートにしても、高齢者には不便な面が多い。ただ、バブル期に開発されたリゾートマンションが今は非常に安く手に入るので、それを終の棲み家として、逗子や箱根に移住するケースは多少出ている。

田舎暮らしに憧れて都会から移る人もいるが、家族の同意を得るのが難しい。地方に広い土地付きの一戸建てを購入して農業を始めたものの、奥さんと娘に移住を拒否され、単身赴任状態になってしまった人もいる。

JRでは北陸新幹線の安中榛名駅の周辺などに、リタイア世代をターゲットとする住宅地を開発している。ガーデニングや畑仕事、ゴルフなどをして過ごすことを想定、東京郊外の家を売るか、貯金に退職金を合わせれば購入できる程度の価格設定となっている。こちらは夫婦で移住する人が多く、条件がそろえば、田舎暮らしの希望者はいるようだ。

ただしそうした物件の問題点は、売却の際買い手がつかない等々、相続した子供の負担になってしまうこと。子供のことを考えるのならば、終の棲み家には市場性のある物件を選んだほうがよさそうだ。

(久保田正志=構成)