生活デザイン株式会社 ファイナンシャル・プランナー
藤川太●ふじかわ・ふとし

1968年生まれ。慶應義塾大学大学院理工学研究科修了。自動車メーカー勤務を経てファイナンシャルプランナーとして独立。著書多数。

シニア層の中で「住み替え」の要望が出てくるのは、60代から70代にかけて。この世代には1980年代から90年代前半にかけて、郊外の一戸建てを購入した人が多い。

一戸建ては基本的に2階建てだが、年齢とともに階段の上り下りがつらくなる。また坂の多い地域では、その上り下りがつらい。そこで「平坦な地域にあるマンション」という希望が出てくる。戸建てと違って階段で移動する必要がなく、屋外に出るにもエレベーターがある。今のマンションはバリアフリーが一般的だし、セキュリティーも戸建てよりしっかりしているので、高齢者を狙う犯罪が増加している中、子供たちも安心するという面がある。

移転先は、基本的には今より便利なところ。「住み慣れた街から離れたくない」という人、「同じ沿線がいい」という人も多い。前者の場合、「今使っている駅の近く」といった希望が多くなる。今のシニア層はバブル時代の思い出を残しているせいか、駅前の繁華街のように賑やかで、少しテンションが上がる地域を好む傾向もあるようだ。「同じ路線」という人も、多くは今住んでいる場所より都心に近い駅を希望する。

ただしシニアの場合、若いときよりも行動範囲が狭くなっているので、駅を使う頻度は少なく、現実的には日用品をショッピングする場所や病院に近いことがポイントとなる。

富裕層の場合、マンションへの移転は相続税対策の意味もある。相続税の資産評価では「小規模宅地等の特例」として、相続人が親の所有していた家に住んでいる場合、240平方メートル以下に限って、評価額が大幅に低くなる。このためそれまで住宅地で広い家に住んでいた場合は、都心のマンションに住み替えることが相続税対策にもなる。手元に多額の現金預金がある場合も、そのままにしているよりマンションを購入するほうが、相続の際の評価額が低くなる。