「日本の木造建築の歴史において、2026年は重要な転換点だった」――そんなふうに振り返る未来がやって来るかもしれない。AQ Group(アキュラホーム)が「日本初の普及型純木造8階建て本社ビル」を完成させるなど、近年、中大規模木造への関心が高まっている。そうした中で今年3月、同社は全国的に構築している木造建築集団を進化させ、木造の住宅、集合住宅、非住宅建築を合わせて「30年までに2万棟・戸」という野心的な目標を公表。「木造建築の全域普及」に向けた動きを本格化させている。

いよいよ幕は上がった 日本は再び「木」の時代へ

誰もが適正価格で建てられる木造建築の民主化が進んでいる

防火、耐風、水害の観点から、日本建築学会が「木造建築の禁止」を提起したのは1959年。加えて当時の木材不足などもあって木造建築は減少し、街の風景は鉄やコンクリートに置き換わっていった。80年代以降になると木造建築に対する基準の合理化・緩和が進み、制限されていた3階建て、4階建て以上も木造による設計が可能になった。脱炭素の促進、国産木材の適切な供給および利用を目的に「都市まちの木造化推進法」(脱炭素社会の実現に資する等のための建築物等における木材の利用の促進に関する法律)が制定されるなど、国も木造建築の促進、特にあまり目が向けられてこなかった非住宅分野の中大規模木造の需要創出へとかじを切った。

昨年開かれた大阪・関西万博の象徴である大屋根リングは、「時代は再び木造の時代へ向かっている」ことを強く印象付けた。この世界最大の木造建築を手掛けた建築家の藤本壮介氏は、3月に開催されたAQ Group主催のシンポジウム「中大規模木造は、みんなの手に届くか。」において、「1851年、ロンドン万博で誕生した鉄とガラスのクリスタル・パレスがその後の鉄骨建築時代の先駆けとなったように、大屋根リングが木造建築時代の幕開けを告げる存在となることをイメージした」と語っている。

写真の模型は、2024年に「普及型純木造ビル」のプロトタイプとして完成した8階建てのAQ Group本社ビル(埼玉県さいたま市)。すでに普及している住宅用プレカット工場で製材、加工された木材を用いて、極力特殊な建築金物を使わずに造ることで各地の工務店や地場ゼネコンにも応用できる設計、施工の標準化を実現した。
写真の模型は、2024年に「普及型純木造ビル」のプロトタイプとして完成した8階建てのAQ Group本社ビル(埼玉県さいたま市)。すでに普及している住宅用プレカット工場で製材、加工された木材を用いて、極力特殊な建築金物を使わずに造ることで各地の工務店や地場ゼネコンにも応用できる設計、施工の標準化を実現した。

耐震性や防耐火性も克服 RC造をしのぐ性能を実現

国内のCO2排出量のおよそ4割を占めるといわれる建築物分野の脱炭素化において、木造化、木質化の推進が果たす役割は大きい。森林はCO2を吸収・固定し、木材として利用することで炭素の長期間の貯蔵が可能だ。また、木質バイオマスのエネルギー利用は化石燃料の代替となり、製造時の排出量が他の資材と比較して少ないことから、建築物のライフサイクル全体を通じたCO2排出量削減に寄与する。林野庁による建築物のライフサイクルカーボン評価の実証事業でも、木造は鉄筋コンクリート造より温室効果ガス排出量を低減し、炭素貯蔵量が大きいことが報告された。いまや木造建築は、社会課題解決の「最先端ソリューション」としての期待を背負っている。

中大規模木造の普及を阻む壁であった耐震性、防耐火性、遮音性といった弱点は、AQ Groupが20年以上に及ぶ研究と実証によるイノベーションによってすでに克服済みだ。建築コストについても、RC造比で最大3割のコストダウンを実現。例えば同社が展開する次世代型純木造マンションシリーズ「AQフォレスト」では、独自の「AQ木のみ構法」を用いることで、RC造と同等またはそれ以上の耐震性と「普及価格」を両立している。また「中大規模木造は技術的なハードルが高い」という従来のイメージも、住宅用の一般流通材とプレカット技術を応用することで覆した。こうして、経済的かつ各地域の工務店や地場ゼネコンが参入できる仕組みの標準化が、着々と確立されつつある。

進むノウハウの完全移植 各地のビルダーが主役になる

AQ Groupは2024年、「日本最大級の木造建築集団」を目指す全国組織として「フォレストビルダーズ」を発足させ、木造マンションや木造ビルを「全域普及」させるための技術提供に努めてきた。RC造から木造へのスイッチにチャレンジする機運が高まった今、AQ Groupの宮沢俊哉会長は、全国218拠点(AQ Group直営および加盟企業43社)の体制から成る「AQフォレスト次代ビルダー」として非住宅建築市場へ本格参入することを高らかに宣言した。住宅・非住宅の両輪を備えた“共創”の木造建築集団としての進化を見据えている。「次代の日本の街並みを創り出す」という意思が、いかに揺るぎなく強固なものであるか、宮沢会長が「反撃ののろし」と表現したことからもうかがえる。「建築業界が厳しい状況に直面する中、市場を奪い合うのではなく、広大な未開拓領域で自ら市場をつくり出していく」

「ノウハウの完全移植」「直営・既存店・新規募集」を軸とした戦略で、30年までに木造住宅1万2000棟、集合住宅5000戸、非住宅建築3000棟の合計2万棟・戸を目標として掲げる。技術の実装力を証明するプロジェクトとして、東京都台東区浅草に5階建て以上の「日本初の純木造ホテル」を建設する計画も始動した。意匠設計に藤本壮介氏、構造監修に木構造・木質構造分野の第一人者である東京大学名誉教授・稲山正弘氏、防耐火監修に木造・木質建築の普及と高度化をけん引するキーパーソンであるNPO法人team Timberize理事長の安井昇氏ら木造建築界のトップランナーが参画。施工はAQ Groupと、AQフォレスト次代ビルダー選抜企業が共同で担当する。

わざわざ木造にするのは一部の人たちのこだわりに過ぎない――そんな印象を持たれがちだった時代は終わりを迎え、いずれ「なぜ木造にしないのか?」、さらにはそんな問いすら誰も発しなくなる「木造建築が当たり前」の世の中へと移行するための準備は整った。都市が次第にぬくもりのある色合いへと変わっていく過程を、われわれは目撃することになる。

AQ Groupが上げた「反撃ののろし」が時代を動かす
AQフォレスト大宮桜木町

4階建ての「AQフォレスト大宮桜木町」(写真)を皮切りに順次都内でも展開が進む次世代型純木造マンション「AQフォレストシリーズ」。耐震性、防耐火性、遮音性などは一般的なRC造と同等以上、かつ低コスト、短工期を実現している。デザイン面でも随所に「木」の心地良さが感じられる空間を演出。快適性と機能性の高度な両立が図られている。

株式会社AQ Group 代表取締役会長 宮沢俊哉(みやざわ・としや)
株式会社AQ Group
代表取締役会長
宮沢俊哉(みやざわ・としや)
株式会社AQ Group 代表取締役社長 加藤博昭(かとう・ひろあき)
株式会社AQ Group
代表取締役社長
加藤博昭(かとう・ひろあき)
シンポジウムの様子

3月19日に東京・新木場で開かれたシンポジウム「中大規模木造は、みんなの手に届くか。」には、建築家の藤本壮介氏、日本建築士会連合会名誉会長の三井所清典氏、日本住宅・木材技術センター理事長の宮澤俊輔氏、東京大学名誉教授で木質構造の権威である稲山正弘氏、木造建築防耐火研究の第一人者として知られる安井昇氏が登壇。最先端の木造市場について議論し、宮沢俊哉会長は「AQフォレスト次代ビルダー」による非住宅建築市場への本格参入を宣言。会場参加は200人超で満席、オンラインでのライブ配信は1万人以上が視聴。「中大規模木造の普及」が現実味を帯びていることを広く発信し、大きなインパクトを残す会となった。