「拠点の移動」で終わるか、それとも「組織の再定義」のチャンスとするか――。オフィスの移転を機に、業務効率の改善やコミュニケーション活性化を目指すケースは多い。ただ、目に見えている課題にばかりとらわれていては、期待したほどの成果は得られないかもしれない。組織が着実に成長し、「花」を咲かせるためには、移転の検討段階からどのような「土壌づくり」を始めることが重要なのか。富士ビジネスの取り組みから、そのヒントが浮かび上がる。

部門を横断したワークショップ 課題の見える化が最大の成果

オフィス構築やワークスタイルデザイン支援を展開する富士ビジネスの本社部門は、2025年5月、10年近くを過ごした丸の内のビルから大手町の常盤橋タワーへ移った。時代の不確実性が高まり顧客ニーズが変化していく中で、自社を見つめ直し、未来へと踏み出すための取り組みの一環だ。

久保田慎吾(くぼた・しんご) 富士ビジネス株式会社 オフィス環境事業本部 ワークスタイルデザイン部 部長
久保田慎吾(くぼた・しんご)
富士ビジネス株式会社
オフィス環境事業本部
ワークスタイルデザイン部
部長

プロジェクトが動き出したのは23年秋ごろにさかのぼる。同社オフィス環境事業本部ワークスタイルデザイン部・久保田慎吾部長に河田隆太郎社長が投げかけたのは、「移転、リニューアルをするかしないかなども含めて、10年後、20年後の当社のあるべき姿を模索したい」という思いだった。3代目として河田社長が就任した17年以降、国際情勢の大きな転換、コロナ禍の脅威、それに伴うワークスタイルや価値観の多様化、生成AIをはじめとする技術革新など、環境変化は途切れることなく続いている。そうした状況下で富士ビジネスがしっかりと顧客ニーズに向き合い、長期的に価値を届けていくためには、改めてアイデンティティーを明確にしておくことが欠かせない――そう考えたことが出発点だ。

久保田部長は組織の現状や課題を徹底的に分析し、見える化するために、経営層を中心にヒアリングを実施した。ヒアリングに当たって久保田部長が意識したのは「中立的な立場」として接することだったという。「各ポジションから見えている自社とはどんな組織なのか、解決しなければならないことがあるとすればそれは何か、先入観を持たずに聞きたかった」

また、部門を横断したワークショップを定期的に開いた。情報システム、経理、総務など、それぞれが感じていたことやより良くしていくための提言が一つのテーブルに乗せられ、互いの理解を深めるきっかけとなった。普段の業務の中ではなかなか踏み込んだ議論になりにくいが、自社の未来という「自分ごと化しやすいテーマ」で話し合える場が設けられることで、積極的な提案も生まれやすくなった。「この集まりは、今回のプロジェクトの最大の成果と言っていいと思います」と、久保田部長が振り返る。

これからの成長に不可欠だからこそ移転を決めた

これらの活動を取りまとめて導き出されたキーワードが「成長」であり、このプロジェクトのスローガンは「Feel the Growth‼〜成長を感じよう〜」に決まった。久保田部長が背景を説明する。

「仕事が売り上げとして実感できる営業部門などと異なり、管理部門の業務は数値化が難しく、指標を設定しづらい面があります。では、自分の成長を感じながら働けるオフィスとは、どのような環境だろうか。秘匿性の高い情報を扱う管理部門として堅固なセキュリティーを保持しつつも、他部門との密なコミュニケーションなどを通じて一緒に成果や成長を分かち合える場所――そんなイメージにつながっていきました」

そのイメージを具体化するために欠かせなかったのが「移転」だった。単に良い物件が見つかったから、契約の更新時期だからという理由ではなく、自分たちに必要な要素を定義し、それを満たせる場所を「戦略的」に選び取る。「そんなプロセスこそが、10年先、20年先の成長を支えるという発見があった」と久保田部長は強調する。

新オフィスは「BLOOM HOUSE(ブルームハウス)」と名付けられ、「成長」や「組織としての一体感」を示すモチーフが随所に配されている。分散していた管理部門の集約によって業務効率は向上し、部門間のコミュニケーションの頻度も高まった。また、ライブオフィスであることもプラスの効果をもたらしている。「お客さまと接する機会がほとんどない管理部門メンバーにとって、自分たちの仕事が営業を通じてどのように届いているのかを知る良い機会となっています」

揺るぎない事実としてあるのは、オフィスは完成した時が終わりではなく、そこからが成長の始まりということだ。久保田部長は、現在もなおオフィスの運用に重きを置いている。

「住む環境を変えただけで、全てが自動的に良くなるわけではありません。プロセスで議論し、共有した問題意識を、実際の空間にどう落とし込んでいくか。状況に合わせて微調整を重ねた先に、組織やビジネスの変革があると思います」

種をまく前の「良い準備」が将来の「良い結果」になる

「今回のプロジェクトにおける動き出しの段階は、いわば植物を育てるために土を耕すという時期だと捉えています」と言うのは河田社長だ。「重要なのは、種をまく前にどのような土壌を整えるか。将来、どのような花を咲かせ、どんな果実を得られるかを左右するからです」

河田隆太郎(かわた・りゅうたろう) 富士ビジネス株式会社 代表取締役社長
河田隆太郎(かわた・りゅうたろう)
富士ビジネス株式会社
代表取締役社長

植物と同じように、組織の成長も置かれた環境に大きく影響される。ルールを押し付け過ぎれば活力が失われて硬直化し、逆に自由過ぎれば流動化してバラバラになってしまうこともある。

「どのような時代、どのような業種であっても、組織内のバランスをどう整えるかという点は経営者にとって重要かつ普遍的なテーマではないでしょうか。さまざまな人がオフィスという同じ場所、同じ時間を共有し、あえて手間をかけることで育まれる“信用の積み重ね”が調和を生み長く続く組織として形になっていくのだと思います」

こうした「土壌づくり」を重視する姿勢は、同社が提供するサービスでも一貫している。富士ビジネスの強みは、企画という前段のプロセスから設計、調達、施工管理まで、全てのプロセスを支援できる体制にある。

「いい結果を出すには、いい準備が必要です。短期的に急いで何かを求めるのではなく、土壌を整え種をまいて花を咲かせる、そのサイクルに大きな価値があるのだと思います。今から5年後、10年後の当社がどうなっているのか、私自身とても楽しみにしています」

移転の検討では「時間をかけてオフィスを育てる」という視点が重要だ。
移転の検討では「時間をかけてオフィスを育てる」という視点が重要だ。

「成長」というコンセプトを体現する「BLOOM HOUSE」

エントランスの壁面には、新オフィスのコンセプトを象徴する植物が大きく成長し、枝葉を広げていく様子が描かれている。
エントランスの壁面には、新オフィスのコンセプトを象徴する植物が大きく成長し、枝葉を広げていく様子が描かれている。

エンゲージメントを高めるオフィスの具体例を見学可能

「BLOOM HOUSE」はライブオフィスとして公開中。見学の申し込みはライブオフィスインフォメーションデスク03-6250-1040まで。

富士ビジネスのオフィス