首都圏の暮らしと産業を支える重要な交通インフラ、首都高速道路(首都高)。不断の補修や修繕により耐震などの安全性は保たれているが、初開通から60年以上が経過し、高架橋やトンネルが9割以上を占める道路構造物の多くが高齢化。そこで始まっているのが、構造物の造り替えを伴う「大規模更新」だ。首都高の大規模更新に携わる更新・建設局の石田高啓事業推進部長(東京地区)に、その意義と実例について話を聞いた。

首都圏の生活と産業を支える「大動脈」

――首都圏に住む私たちにとって首都高速道路(首都高)はなくてはならない交通インフラですが、どのくらいの経済価値を生んでいるのでしょうか。

【石田】首都高は1962年の開通以来、首都圏の社会経済活動を支える大動脈としての役割を果たしてきました。現時点で総延長は約327.2キロメートル、1日の平均利用台数は約100万台で、年間にすると約4億台の車両にご利用いただいています。首都高によって首都圏で創出された経済価値は、開通から2020年までの累計で約360兆円、民営化後の20年間では累計約240兆円とも試算されています。

また、都区内の一般道に比べて大型車が約5倍と多く走っているのも特徴で、特に農水産物では都区内発着輸送便に占める首都高利用の割合は約58%に達しています。ここから、首都高は人の移動はもちろん、物流の根幹も担っている重要な道路だといえます。

一方、物理的な特徴は構造物が多いことです。一般的な道路とは違い、首都高は総延長の約95%が高架橋やトンネルなどの構造物です。急速なモータリゼーションへの対応が必要な一方で、過密都市・東京において密集する住宅や公共施設を壊しての建設は困難を極めたため、主に用地買収が不要な川や運河、既設の道路の上空を利用する形で建設が進められました。これは世界的に見ても珍しい特徴です。土工部(土の上の道路)がほとんどないため、道路の維持管理はすなわち「橋やトンネルという巨大な構造物を守り続けること」にほかなりません。

石田 高啓(いしだ・たかひろ)
石田 高啓(いしだ・たかひろ)
首都高速道路株式会社
更新・建設局
事業推進部長(東京地区)

民間企業として公共インフラを守り続けて20年

――首都高は民営化以降、大まかにいえば道路資産の保有と運営が分離した形になっています。首都高速道路株式会社が担っているのはどの部分でしょうか。

【石田】現在、道路資産の保有は独立行政法人日本高速道路保有・債務返済機構が、その建設・管理・運営は私たち首都高速道路株式会社が担っています。当社は2005年の民営化を機に誕生し、以来、民間企業としての創意工夫を生かしつつ、公共インフラを支える主体として業務に当たってきました。

具体的な業務としては、道路の点検・補修といった維持管理、更新・建設や料金徴収、それから落下物があればパトロール隊が拾いに行くといった交通管理などが挙げられます。

実は今、首都高の構造物は急速に高齢化が進んでいます。開通から50年以上たった路線の割合は、2025年の33%から35年には53%へ上昇し、45年には76%に達する見込みです。加えて、交通量の多さや海水による塩害などの影響もあり、通常の補修では対応しきれない重大な損傷も発生し始めています。

こうした問題に対しては、まず日常的な補修で対処し、それで対応しきれない場合はより大規模な範囲での「大規模修繕」を行います。さらに、それでも追いつかない場合は丸ごと構造物を造り替える「大規模更新」に入るというように、3つのステップに分けて対応しています。

もう一つ、私たちは首都直下地震などの大規模災害に備えて耐震性向上にも取り組んでいます。首都高は1995年の阪神・淡路大震災の後に集中的な耐震化工事を行い、このクラスの地震に対し、致命的な損傷(落橋・倒壊)を防ぐ対策は既に完了しています。

しかし、災害時には「倒壊しない」だけでなく、救援物資を輸送する「緊急交通路」としての機能も果たさなければなりません。したがって、震災後24時間以内に首都高として1ルート、そして首都高以外の道路も含む全体では、48時間以内に各方向最低1ルートを緊急車両が通行可能にすることを重大な使命としています。そのために、支承の交換や段差防止構造の設置、路面段差解消等の資機材配備など工夫を重ねています。

高齢化した構造物を最新技術で「更新」

――大規模更新事業の事例としてはどういうものがありますか。

【石田】代表的な事例を3つご紹介します。1つ目は1963年に開通した1号羽田線「東品川桟橋・鮫洲埋立部」です。ここは、運河の上にある桟橋構造の区間と埋め立てて造った区間から成っていて、長年のうちに過酷な使用状況や海水による腐食によって損傷が進んでいました。

この道路は桁下と海水面が近接していることから、満潮になると道路の下にボートが入れず、点検や補修が非常に難しく、損傷が進んでしまったのです。そこで私たちはここを「大規模更新の一丁目一番地」と考え、国内初の大規模更新事業に着手しました。

現在、長期的な耐久性の確保を目指して、海水面から距離をとった高架構造への造り替えを進めています。海水がかかる橋脚には耐久性の高い最新素材を採用し、今後の点検や補修を容易にするため橋桁には恒久足場を設けました。さらに、連続橋を採用し、傷みにくく走行性もよい橋梁を目指しています。

工事の過程では多くの課題に直面しました。首都高は交通量が多いことから通行止めをするわけにはいかず、昼間に通行規制をすると大渋滞が発生するので夜間の限られた時間しか工事ができません。多くの制約がある中で、まず迂回路を造って、そこを通行してもらっている間に古い構造物を撤去して新しい構造物を造る、という形で交通を切り替えながら完成に近づけてきました。

おかげさまで2025年10月には下り線の新しい道路(更新線)への切り替えを終え、今後、上り線の新しい道路への切り替え、2030年度には迂回路の撤去等を含めた事業完了を予定しています。多くの最新技術を取り入れた難しい工事ではありますが、この過程で蓄積されたノウハウは、他の大規模更新事業にも大いに役立っています。

2つ目は、多摩川に架かる「高速大師橋」です。この橋は全体に疲労亀裂が発生していたため、2023年におよそ300メートルの区間の橋梁を架け替えました。その際には、通行止め期間をできる限り短縮しようと、特殊な工法を採用しました。

古い橋の脇にあらかじめ新しい橋を造っておき、その後わずか2週間の通行止め期間のうちに、古い橋を横にスライド移動させ、そこに新しい橋をスライドして設置しました。厳しい時間的制約の中で成功に至ることができたのは、作業員の方々をはじめ多くの人が力を結集させたからこそです。まさに「現場力」のたまものと言えるでしょう。

この高速大師橋更新事業は、世界的に優れた構造物を表彰する「IABSE AWARDS 2025」の改修・再生部門で最優秀作品を受賞しました。現在は古い橋の撤去などを進めており、2028年度の事業完了を目指しています。

舗装の施工状況
作業員をはじめ多くの人々の「現場力」で実現した高速大師橋更新事業(舗装の施工状況)
高速大師橋更新事業
高速大師橋更新事業での新旧橋桁のスライド架け替え(動画は以下よりご覧いただけます)

3つ目の事例は、1964年開通の1号羽田線「羽田トンネル付近」です。海の下にあるため、近年では漏水に伴う緊急規制や海水の浸入による損傷が発生しており、2024年度に大規模更新事業に着手しました。

こちらも交通量が多く、通行止めはできる限り避けなければなりません。そこで、まずは迂回路として、現在は運用を停止している、羽田可動橋を含む羽田トンネルバイパス路を活用する予定です。トンネル内の上り車線をそちらに移し、空いた部分から中床版(なかしょうばん)取り替えなどの抜本的な対策を進めていく方針です。

「安全・安心」を未来へつなげるために

――首都高を支える人たちが慎重かつ熱意を込めて大規模更新に当たっていることがよくわかりました。ただ、大規模な工事であるだけに利用者に不便を強いる部分はあると思います。直接の利用者のほか首都圏で暮らす読者の方々にメッセージをいただけますか。

【石田】首都高速道路は日々の生活や経済活動を支えるだけでなく、災害時には命をつなぐ緊急交通路としての使命も担っています。私たちは「安全・安心」を未来へとつなげるため、構造物の耐震化や高齢化対策といった更新事業に全力で取り組んでいます。

しかし、こうした大規模な工事には、通行止めや車線規制などお客さまにご不便をおかけする場面がどうしても生じます。例えば、先ほどご紹介した東品川桟橋・鮫洲埋立部の大規模更新工事でも、5月9日から10日に1号羽田線(下り)芝浦~勝島間で48時間通行止めが予定されており、将来の安全確保のために必要な工事規制を実施させていただきます。読者の皆さまには、これらの更新事業が首都圏の未来を守るために不可欠な取り組みであることへのご理解を、そして工事へのご協力や温かいご支援をいただけましたら幸いです。

当社は2025年に20周年という節目を迎えました。これからも「100年先も豊かに進化し続ける首都圏」を目指して、皆さまの信頼にお応えできるよう、社員一丸となってインフラの維持管理・更新にまい進してまいります。

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