世界のオルタナティブ資産市場規模は2030年までに30兆米ドルに達すると予測されている(出所:プレキン)。特に更なる急成長が見込まれるのがプライベート資産である。一方で、プライベート資産は、情報量が極めて限られ、標準化されたデータ開示のルールも整備されていないことから「ブラックボックス」として扱われがちだ。ポートフォリオの中でこの領域をいかに可視化し、透明性を高め、比較可能な市場へと進化させていくか。その変化を後押ししているのがAIを含めた最新のテクノロジーだ。テクノロジーは非公開会社における価値創出の在り方を根本的に変えつつあるだけでなく、分断され扱いづらかった投資家にとってのデータを、投資のライフサイクル全体にわたってポートフォリオ文脈で意思決定に生かせる形へと整理する役割をも担い始めている。この流れを進める基盤の一つが、ブラックロックが提供するテクノロジー・プラットフォームAladdin(アラディン)だ。

リスク管理の哲学から誕生 運用基盤アラディンの歩み

1988年、ブラックマンデー直後の市場が激しく揺れ動く時代に創業したブラックロック。同社のアジア太平洋地域におけるアラディン事業を2005年に東京で立ち上げ、現在に至るまで同事業を推進・統括する竹内章喜氏は、当時の状況をこう述べる。

竹内章喜(たけうち・あきよし)氏
竹内章喜(たけうち・あきよし)
ブラックロック・ジャパン株式会社
取締役 アラディン・ビジネス部門長
アジア太平洋地域統括責任者
2002年ブラックロック入社。05年に東京に異動し、現アラディン・ビジネスを立ち上げる。以来、同事業のアジア太平洋地域の統括に従事。

「株価や金利が乱高下する市場環境下で、ブラックロックは『お客さまの資産を長期で守り育てる』というフィデューシャリー・デューティー(受託者責任)を掲げて始動しました。安定的な長期の運用リターンを実現するための核となったのが、創業時からの揺るぎないリスク管理の哲学です」

当時は複雑なポートフォリオに対する既成の運用リスク管理のプラットフォームが存在しなかった。そこで、ブラックロックが独自に構築した投資運用・リスク管理プラットフォームのテクノロジーがアラディンである。

時代が進み、ブラックロックの扱う運用資産規模や資産の範囲が急拡大するのに応じて、アラディンは同社の全社横断的なリスク管理と投資運用プラットフォームのコアエンジンとして大きく成長していく。

一方、このテクノロジー基盤を外部にも提供してほしいという顧客要望に応え、同社は00年にアラディン事業を公式に立ち上げた。現在では、世界中の機関投資家や銀行・証券・プライベートバンクを含むウェルスマネジャーにおいて、パブリック市場とプライベート市場を横断して、リスク管理・資産運用業務全般を統合するテクノロジー基盤として活用されてきている。

なお、20年近く前のサブプライム住宅ローン危機とリーマン・ショックの際に、同社が世界各国の政府、中央銀行、金融機関の不良資産のリスク管理やアドバイザリーに携わったのは、アラディンというテクノロジーがあったから、というのは有名な話である。

こうした歴史的背景をベースとし、同社内では、長期資産運用のための精緻なリスク管理と複雑な資産構成をシンプルに統合する基盤テクノロジーを継続的に進化・アップデートさせ、自社の資産運用部門を含め、サステナブルな形で世界の投資家に提供していく、という一貫したビジョンとビジネス・モデルが連綿と続いている。つまり、ブラックロックは資産運用会社としてよく知られているが、テクノロジー企業の側面もあるのだ。

「不確実性・不透明性が一層高まるグローバルの投資環境の中で、日本を含む世界中の機関投資家に、また、ウェルスマネジャーやファイナンシャル・アドバイザーの方々に、資産運用のプロダクトやソリューションを提供するのみならず、独自開発の資産運用の高度化、最適化と効率化に資するテクノロジーのプラットフォームをも提供させていただくことで、より広くまた深く、資産運用業に貢献したいと願っております」

ブラックボックスの透明化へ データが変える非公開市場

前述の通り、プライベート市場が直面する最大の課題の一つは、整合性のあるデータが不足していることにある。この課題に対応するため、ブラックロック自身も19年にプライベート資産向けのリスク管理・投資管理システムを手がけるeFrontを買収し、アラディンと統合。続いて、昨年に世界有数の非公開資産データを有する英調査会社プレキン(Preqin)を傘下に収めた。これにより、テクノロジーとデータの両面がそろい、プライベート市場のより精緻なリスク分析が可能となる要素が整った。

投資業界全体でもプライベート市場をパブリック市場と並べて評価するための取り組みが進んでいる。AIの初期的な活用は、デューデリジェンスからモニタリング、レポーティングに至るまで、投資運用業務全体において役立つ「副操縦士」となり得ることを示し始めている。ただし現時点では、AIはあくまで判断を補助する存在であり、意思決定を全て委ねる「自動操縦」ではない点には、留意が必要だ。

投資対象がパブリック市場からプライベート市場へと広がる中、5年後の日本では、プライベート資産を組み込んだポートフォリオがどこまで広がっているのか。問われるのは、普及のスピードではないと、竹内氏は話す。

「プライベート資産が多くの投資家のポートフォリオに積極的に組み込まれ始めたのはここ10年くらいの比較的新しい潮流であり、今後はポートフォリオ全体の中で、個別投資案件や流動性のリスクをどう精緻に管理していけるかが重要な論点です。さらに、投資判断時のみならず、関係者が同じ物差しで『継続的に』投資対象とポートフォリオ全体をモニタリングし、議論できること。共通のデータを用いて関係者が同じ前提で議論を深める環境が整えば、認知バイアスや合成の誤謬ごびゅうも排除されやすくなり、日本を含めた世界のプライベート市場や長期投資の文化が一段と成熟するはずです」

パブリック市場とプライベート市場を統合する、全資産(Whole Portfolio)の「共通言語」
ロゴ
竹内章喜(たけうち・あきよし)氏

従来の60/40型ポートフォリオを超え、近年では、株式・債券に加えて不動産やプライベートクレジットといったプライベート資産を組み込んだ、50/30/20に近い、より広範な資産配分を検討する投資家がグローバルに急速に増えている。

その理由は、プライベート資産は、流動性と情報量が限定される一方、パブリック市場だけでは得られないリターンの源泉や分散効果をもたらし、長期的により強靭きょうじんなポートフォリオを支える要素となる、との考え方の浸透が大きい。

但し、市場の成熟の為には、今後は、「リスク目線」を支えるデータの標準化と透明性の向上が必須である。