都市再生のプロフェッショナルとして知られるUR都市機構。東京・大阪などの都心部における都市再生事業に加え、全国の都市再生でも光を放つ。広島市、熊本県荒尾市での取り組みを紹介する。
「南新地土地区画整理事業」(熊本県荒尾市)
URが受託している「南新地土地区画整理事業」(熊本県荒尾市)

なぜURは都市再生を手掛けるか

日本の都市が大きな転換点を迎えている。高度経済成長期を経て形成された都市の多くが、人口減少と少子高齢化、産業構造の変化という荒波にさらされているのだ。この国家的な課題に対し、全国で都市再生による解決に挑むのが、独立行政法人都市再生機構(UR都市機構=以下「UR」と表記)だ。

URの都市再生は、大きく三つのパターンに分かれる。東京や大阪などの都心部における再開発、密集市街地などの防災性向上、そして全国の都市の再生だ。事業を行う上では、その街が持つ歴史、文化、そして潜在的な資源を掘り起こし、持続可能な都市の未来の形を再定義するものでなくてはならない。

そうした事業を行う上で、国土交通省所管の独立行政法人であるURの強みは、公平・中立な「公的機関」としての立場と、長年の事業経験で培った高度な「専門性」を併せ持っている点にある。将来を見据えたまちづくり計画の策定から、複雑な権利関係の擦り合わせ、そして確実な実行まで。自治体のパートナーとして、あるいは官民をつなぐ存在として、URは「まちづくりのハブ」の役割を担うことができるのだ。

日本の都市は規模の大小にかかわらず人口流出や産業構造の転換、都市間競争の激化など、共通の課題に直面している。こうした課題に対し、URは豊富な経験とノウハウを生かし、ハード面の整備だけでなく、ソフト面も含めた支援を提供している。

広島市と熊本県荒尾市で都市再生事業が進行中だ。人口や経済規模などが大きく異なる二つの都市で、URはどのような支援を行っているのだろうか。

広島都心部の課題解決カギは「公平・中立」

「広島市は中・四国の中心都市として知られていますが、近年は人口流出や都市間競争の激化という課題に直面しています。製造業の海外移転により産業構造が変化し、若者向けの雇用が不足しているのです。また他の大都市との観光競争でも優位にあるとは言えず、特にラグジュアリークラスのホテル不足が課題となっています。原爆ドームや世界遺産の嚴島神社を訪れる海外からの観光客は多いものの、多くは日帰りで、市内に宿泊しない傾向がありました」

そう語るのは、URの中国まちづくり支援事務所で、広島都心部の都市再生事業に当たる松村たかし課長だ。

松村尚課長
広島市「紙屋町・八丁堀地区」での再開発プロジェクトについて、URの役割を語る中国まちづくり支援事務所広島都心部再生課の松村尚課長。

「古くからの城下町の区画を元に戦災復興した広島都心部の土地は、区画の一つ一つが狭小なために、フロア面積の大きい高規格オフィスやラグジュアリーホテルの建設が難しいという状況があるのです」

KAMIHACHI X
広島都心部の「紙屋町・八丁堀地区」で建設が進む再開発プロジェクトの高層棟となる「KAMIHACHI X(カミハチクロス)」。上層部にラグジュアリーホテル、中層部にオフィススペースが設けられ、低層部には広島商工会議所が入居する。

こうした状況を打破し、広島の都心部に新たなにぎわいを生み出す取り組みとして、広島市や地権者と共にURが推進しているのが「紙屋町・八丁堀地区」の再開発プロジェクトだ。広島城の「立町御門」跡地である同地区に「紙屋町・八丁堀地区内外のヒト、モノ、コトが交わる場所にしたい」という願いを込め、高さ160メートル、31階建てのランドマークタワーが建設される。

完成する施設は、ホテル、オフィス、商工会議所、店舗、市民の憩いの場のオープンスペース、変電所など多様な機能を持つ複合拠点。ビル内には約7000坪のオフィスフロアがあり、県内外の大企業・中堅企業が入居を予定する。移転する商工会議所を中心に、市内に点在していた産業支援機能を集約し、地域のイノベーションを起こす拠点となることが期待されている。

中でも注目は、日本で2番目となるラグジュアリーホテル「アンダーズ」の誘致だ。同ホテルの世界中の顧客ネットワークを通じて広島の魅力を発信する機会が拡大し、近隣都市とも連携した瀬戸内エリアでの長期滞在促進が期待されている。

プロジェクトはURが代表施行者となり、朝日新聞社、朝日ビルディング、中国電力ネットワークと共に、開発を進める体制を構築した。しかし「実現には、乗り越えなくてはならない高いハードルが複数ありました」と松村氏は振り返る。最大の課題は地権者が複数おり、それぞれ異なる課題を抱えていたことだ。開発予定地には民間と市営の駐車場や、更新時期を迎えた中国電力の変電所があった。ここで評価されたのがURの特徴である公平・中立性だ。

「変電所は地域に電力を供給しているため、施設を更新する間も機能を中断できません。それでも『この場所で複数の地権者が協働して開発を行う』というビジョンが一致し、URが“まとめ役”となることで、プロジェクトが進み始めたのです」

仮囲い
「KAMIHACHI X(カミハチクロス)」は同地区で建設工事が進む高層棟の名称で、メッセージを込めた仮囲いが設置されている。

紙屋町・八丁堀地区と駅前…再生の相乗効果

さらなる障壁は、開発予定地を分断するように道路が存在したことだ。道路は交通量が多く、配送業者が荷下ろし場や一時停車に利用しており、廃道が困難だった。

「そこで採用したのが『立体道路制度』でした。道路の上空の空間を利用して建物を作ることができる制度で、高速道路などの新設道路ではない既存道路で実現したのは日本で本プロジェクトが初めてとなります」

本制度の採用により、カミハチクロスの建物の1階部分を貫くように既存道路を残し、道路をまたぐように建物を建てた。上階は高規格オフィス・ラグジュアリーホテルに必要な広い床面積の確保が可能となった。立体道路制度の採用には関係者へのメリット提示、合意形成、権利の設定方法の調整など、複雑で重要な役割をURが担った。

紙屋町・八丁堀地区でのプロジェクト以前、URと広島市の関係は1960年代の賃貸住宅供給に始まる長い歴史がある。中でも近年大きな転機となったのが、広島駅北側で遊休地となっていた「広島二葉の里地区」の土地区画整理事業とその関連公共施設整備だ。2010年に始まった本事業では、広大な土地の整備に加え、広島駅自由通路やペデストリアンデッキ、駅前広場の整備をURが担い、広島市の「陸の玄関口」にふさわしいまちづくりが推進された。

「その事業をきっかけに、広島市からURへの市職員の派遣が始まりました。やがて市の中にURを理解する人材がいることが、その後の協力関係の基盤となったのです」

現在、広島市は、駅周辺と紙屋町・八丁堀地区をはじめとする都心部の二つの中心拠点を互いに刺激し高め合うことで、市街地全体の活性化を図っている。公共投資を積極的に行い、民間の開発を誘発する戦略だ。紙屋町・八丁堀地区でのプロジェクトは官民連携のリーディングプロジェクトの一つとして位置づけられ、この地区の周辺のエリアでも民間の再開発計画が進行中だ。

「URは本事業で関係者間の『合意形成』を行いました。しかし実際には『合意形成』という一言をはるかに超え、全ての関係者にとっての『最適解』を見つけ、現実の事業として仕立て、まちをつくり上げるということを行っていて、そのためのノウハウと経験を有することが、私たちURの価値なのだと思います」と松村氏は語る。

南北をつなぐ自由通路
路面電車乗り場
広島市では二つの拠点でURが関与する。そのうちJR広島駅周辺では、南北をつなぐ自由通路や、新幹線改札口と同じ2階フロアから発着する路面電車乗り場が新たに整備された。

地方都市が直面した再開発という「難題」

熊本県荒尾市は人口約5万の小規模地方都市だ。石炭産業により栄えた最盛期には同6万7000を数えたが、炭鉱閉山や産業構造の変化により人口減少が続く。このままでは税収減で行政サービスの維持が難しくなる危機感の中、17年に就任し3期目となる浅田敏彦市長が掲げるのが「暮らしたいまち 日本一」という目標だ。その実現のために市が総力を挙げて進めるのが、11年に閉鎖された競馬場跡地の土地区画整理事業である。

「83年の歴史に幕を閉じた競馬場の跡地は、周辺含めて約35ヘクタールもあります。地区内には約150名の地権者がおり、跡地の活用方法や整備の進め方の検討に苦慮していました。当時、市の政策企画課長だった浅田市長が相談相手としてわれわれを見つけ、問い合わせてくれたのです」

そう語るのは、URの荒尾都市再生事務所の所長としてプロジェクトを現地で進める田中耕介氏だ。URは荒尾市を調査分析し、その結果を基に市の職員たちと共に、「どのようなまちにするか」というコンセプト策定のためのワークショップを複数回開催した。

田中耕介所長
着々と工事が進む「あらお海陽スマートタウン」では、道の駅「ウェルネスあらお」が2026年6月に開業予定だ。道の駅の建設現場を背景に都市再生事業の手応えを語る九州支社都市再生業務部荒尾都市再生事務所の田中耕介所長。

「専門家にも依頼し、市民へのヒアリングなどを通して荒尾市を調査した上で、『ウェルネス』というコンセプトを中心においたまちづくりを進めることになりました」

次に着手した仕事は、複雑な権利関係の土地を整理することだった。

「もともと農地だった競馬場跡地は、周辺に長年居住する人もおり、市からは地権者の気持ちに寄り添って進めたいとの話がありました。そこでわれわれは、①自ら使用、②共同で売却、③共同で賃貸――という三つの選択肢を地権者に提示し、その意向に応じて敷地の位置や規模を設計することにしました」

URとの協業が市にもたらした成果

荒尾市とURが、三つの選択肢を示し、丁寧に意向把握を行うことで、円滑な事業の推進が可能となった。共同で土地の売却を希望する権利者に対しては、説明会の実施から個別の契約書の作成と調印まで伴走し、スムーズに地権の移動を実現させることができた。

「そうした土地区画整理事業の経験やノウハウがURには蓄積されており、当初スケジュールどおりの事業完了に貢献することができました」と田中氏は語る。

市との二人三脚で多くの企業を訪問し、「ウェルネス」のコンセプトを伝えて回り誘致を働きかけたことで、同地では有明海に面した豊かな自然環境を生かした、良質な居住拠点「あらお海陽スマートタウン」の形成が進んでいる。駅に近接する利便性を生かした一戸建て住宅・集合住宅のほか、大型スーパー、道の駅「ウェルネスあらお」、保健・福祉・子育て支援施設「Mirairo」、公園の建設が進行中で、地区内にはビジネスホテルと温浴施設付きホテルの二つの宿泊施設が開業予定となっている。

「あらお海陽スマートタウン」の完成予想図
「あらお海陽スマートタウン」の完成予想図

「荒尾市内には、明治日本の産業革命遺産として世界文化遺産にも登録された炭鉱跡の『万田坑』、九州最大級の遊園地の『グリーンランド』という観光名所があり、年間200万人の観光客が訪問します。これまではその多くが日帰りでしたが、26年6月に開業予定の道の駅をはじめ、宿泊施設などが整備されることで滞在時間が増え、市の活性化につながることが期待されます」

田中氏は事業が円滑に進んだ背景に「URと市の間に強い信頼関係と一体感がありました」と述べる。コンセプトづくりから実務まで「委託されたURが全て行う」のではなく、常に「市の職員と一緒のまちづくり」を心掛けたのだ。

そうした伴走型の支援により、市長からは「URと一緒にプロジェクトに取り組むことで、市の職員が育った。積極的に関係機関と連携し、課題解決を図る風土が醸成された」と、高い評価の言葉があったという。田中氏も「関わる市職員が前向きに新しいチャレンジをするので、一緒に取り組む自分たちも勉強になっています」と振り返る。

荒尾市での取り組みは、競馬場跡地だけでなく荒尾駅前でも進んでいる。特徴的なのは、自ら手を挙げた市民たちが積極的にまちづくりに関わっていることだ。地元の医師を中心とする市民団体が空き店舗のリノベーションなどを次々に実施し、仲間を集めながら駅前の活性化を牽引している。市が駅前の将来像について話し合う市民のワークショップも開催し、そこで得たアイデアを社会実験として行い、地元がやりたいことの実現を後押ししている。URは市民に応えようとする市に対し、その社会実験の支援や、技術的な助言をするなどで荒尾市のまちづくりに貢献する。

社会実験の様子
JR荒尾駅周辺で実施された社会実験の様子。
カフェ
JR荒尾駅の旧事務室では民間主導で開設されたカフェが営業中だ。

URが実現する幅広い「まちづくり」

広島市と荒尾市、二つの事例が示すのは、大都市から地方都市まで対応できる、URの「幅の広いまちづくりの経験と知識」という強みだ。広島市では大規模な都心再開発を公平・中立な立場で推進し、複雑な権利調整や立体道路制度の活用を実現した。荒尾市では自治体に寄り添い、伴走支援を通じて市の組織力を高め、持続可能なまちづくりの基盤を構築した。

「重要なのは、単に建物を建てるだけでなく、地域の特性を生かし、関係者の合意形成を図り、長期的な視点でまちの価値を高めていくことです。人口減少時代の都市再生は、民間企業だけでは困難な課題がたくさんあります。収益性と公共性のバランス、複雑な権利関係の調整、長期にわたる事業継続、そして地方自治体との密接な連携。こうした課題に対応できるURの存在意義は、今後ますます重要になるはずです」と松村氏は語る。

高い国際競争力を持つ都市へと変貌を遂げる広島市、「暮らしたいまち 日本一」という目標に向けて着実に歩みを進める荒尾市。URが手掛ける都市再生は、日本のまちづくりの新しいモデルを提示している。

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