健全な海を維持することは、われわれの使命
――進行中の取り組みについて教えてください。
株式会社商船三井
チーフ・サステナビリティ・オフィサー
【引間】海運業を中心とした社会インフラ企業として、世界の産業発展と人々の豊かな暮らしへの貢献に努めてきました。事業が成り立つのは「海が健全な状態に保たれている」ことが大前提にあります。海を健全な状態に保ち、次世代に引き継いでいくことは、当社が果たすべき使命だと捉えています。現在、商船三井グループ経営計画「BLUE ACTION 2035」を推進しており、2026年度からフェーズ2へと移行します。環境戦略は経営を支える3本柱の1本であると同時に、当社グループの重要課題にも位置付けられています。2050年のネットゼロに向けて、その具体的な道筋をさらに明確化・高度化し「環境ビジョン」にて打ち出していく考えです。
――目標達成に向けてどのような取り組みが貢献していますか。
【引間】GHG(温室効果ガス)排出ゼロを実現するためのアプローチは主に二つあります。一つは「船の走らせ方を工夫して効率を上げる」こと、もう一つは「燃料そのものをクリーンなエネルギーに転換する」ことです。効率運航については、船舶の新たな効率運航手法の構築を目指す「DarWIN(ダーウィン)プロジェクト」を通じて、燃費効率を引き上げるためのデバイスの搭載や、気象・海象を考慮した最適な航路選定などを徹底してきました。その結果、これまでに10万トン以上の燃料使用量の削減を実現しています。
あわせて、運航効率の象徴ともいえるのが、当社が開発した硬翼帆式風力推進装置「ウインドチャレンジャー」です。帆の高さや向きを自動で調整し、風の力を最大限に利用します。航路や気象条件によって少々の変動はあるものの、最大17%の燃料節減効果を実現しています。第一船は想定通り1航海において平均5〜8%の燃料節減効果を果たし、GHG排出量削減に貢献しています。今後も順次ウインドチャレンジャー搭載船を増やしていく計画です。
変化に柔軟に対応しつつ、着実に排出量を削減
――エネルギーの転換についてはいかがでしょうか。
【引間】燃料転換は複雑な課題を抱えています。国際海事機関(IMO)において、国際海運に対する炭素価格制度(カーボンプライシング)の導入を巡り、議論が進んでいましたが、昨年10月に採択は延期となりました。クリーンエネルギーは従来の重油に比べてコストが高く、規制によって経済的な整合性が取れなければ、本格的な普及におけるハードルとなります。
しかし、当社は逆風の中でも今できることに注力し、着実に脱炭素施策を進めています。例えば、われわれがこれまで戦略的に整備を進めてきたのがLNG(液化天然ガス)燃料船です。LNGは、GHGを2割程度削減できる有力な「ブリッジ燃料」です。将来的なアンモニアや水素といったゼロエミッション燃料への移行を見据えつつも、「今できる最善の選択」としてLNG燃料の活用、そして先ほどお話しした効率運航の両輪によって、足元の排出削減を確実に行っていきます。
気候変動は、海洋保全や船の航行にも影響する
――近年の課題についてはどう感じていますか。
【引間】地球環境保全において、気候変動と海洋保全は切り離せない関係にあります。海水にCO2が溶け込むことで酸性度が上がり、サンゴやプランクトンといった海の生態系が脅かされます。また、気候変動の影響は海上交通の要衝であるパナマ運河の水位を下げ、世界中の船の航行に大きな混乱をもたらしました。GHG削減は、海洋や生態系の保護や、安定的な海上輸送にも相関しているのです。
海洋環境の保全活動としては、例えば社会貢献活動の一環としてアカウミガメの生態調査に協力しています。大学や水族館の研究者と協力し、送信機を装着したカメを当社自動車船で運び、太平洋上で放流しています。こうして得られたデータが、アカウミガメの回遊経路の解明につながります。こうした知見を積み重ねることで海洋環境保全に貢献したいと考えています。
――優秀賞作品もウミガメの赤ちゃんを写した作品ですね。
【引間】海洋環境が全ての生命の源であることを思い起こさせる作品です。当社事業を支えている海が小さな命のすみかである事実を象徴的に映し出し、生命の源たる海を未来へ守り継ぐ責任と行動を促すメッセージを感じました。
――あらためて、今後に向けた想いをお願いします。
【引間】2011年の東日本大震災の際、発生から1カ月後に、私は弊社グループのクルーズ船「ふじ丸」に乗船して被災地支援に向かいました。当時は陸路が寸断され、物流がまひしている非常に困難な状況でしたが、海という道はこのような時でも開かれていたのです。
被災地の皆さんを船内に迎え入れ、温かい食事や入浴、客室を提供し、少しの間ではありますが、安らげる場の提供に努めました。その時、船内に掲げられた寄せ書きに書いてあった言葉を、私は今も忘れることができません。「港町だから受けた津波の被害。でも、港町だから届いた素敵な贈り物。ふじ丸ありがとう」――この一節を読んだ時、私は海運という仕事が単に物を運ぶだけではなく、人々に希望やぬくもりを届けることができるのだと実感しました。海は時に牙をむく厳しい存在ですが、同時に私たちを救う道でもあります。だからこそ、私たちは海、そして「海の惑星」の大きな価値を引き出して持続的な成長をつくりだしていくことこそ、商船三井グループの使命だと考えます。
●「環境フォト・コンテスト2026」入賞作品
●募集テーマ:海は、ひとつ