プラチナの結婚指輪に込めたメッセージ

2人でデザインを考えたという結婚指輪。手の甲側に見える2つの楕円モチーフがラグビーボールをイメージしたもの。その下にイニシャルのYがあしらわれている。

「監督業はとても孤独。弱音なんて誰にも吐けない。勝っても負けてもなにも言わずにいてくれるのが一番の安らぎですね。妻の存在はいつも強く感じています」

奥さまの誕生日には、友人夫妻などとサプライズパーティーを催したり、事あるごとに花束を贈ったりと、記念日にはもちろん、日ごろからこまめに感謝を伝えるのが吉田流だ。お互いに物欲が少ないため、ものを贈ることは少ないというが、やはり結婚指輪だけは特別。そこには二人の紐帯が垣間見える。

「2人のイニシャル、YとAをお互いの指輪にデザインして、さらに僕の指輪にはラグビーボールが2つ入っています。この2つのラグビーボールは“人”の字になるようにデザインされていますが、そこにはこれから僕が妻を支えていくという気持ちを込めました。妻の指輪にはラグビーボールの代わりにハートモチーフが入っています。素材にはプラチナを使って、デザイナーさんに頼んでオリジナルでつくってもらったんですよ」

プラチナには年月を経ても色褪せにくいという特性がある。これから妻をずっと支えていこうという吉田氏の強い思いを表現するのに、これ以上にふさわしい貴金属もないだろう。透き通った輝きもまた、氏のピュアな思いを物語るようだ。

男・吉田義人の壮大なる挑戦

さて、吉田氏はこの春、惜しまれながらも明大ラグビー部監督を退任した。それは就任時に掲げた「明治に矜持を取り戻す」という想いが達成できたから、そして新しい目標に挑戦することを決意したからだという。

「2016年のリオデジャネイロ・オリンピックから、7人制ラグビーが五輪種目になります。まずは7人制ラグビーを普及させることが先決です。そしてその先にある2020年、世界が注目する東京オリンピックの大舞台で日本代表がメダルを獲る活躍を見せて、日本中を元気づけることが今の目標です」

五輪種目になったとはいえ、7人制ラグビーは日本ではそれほど知られていない。リーグもなければ専門の選手も少ない。そこに目標を定めた背景には、自分を育ててくれたラグビーへの感謝の念がある。

「かつてラグビーはメジャーなスポーツでした。昔は男の子がやるスポーツといえば、野球かラグビー。それがサッカーのJリーグが発足してからは、ラグビー人気は下降の一途を辿っています。大学ラグビーも、僕が現役当時は国立競技場が6万人の大観衆で埋まりましたが、近年は満員になることなどありません。明大監督時には、強い明治が復活すればまた観衆が戻ってくるという意見も聞こえてきました。それに応えようと、2シーズン目には明治を全勝で国立競技場の早稲田勝まで持っていった。でも、蓋を開けてみたら観衆は4万人ほど。満員にはならなかったのです。その時に、本気で危機感を覚えました。そんな現状の中、2009年に7人制ラグビーが五輪種目に認定されたことは、ラグビー人気を取り戻すこれ以上ないチャンスでもあります。この機会を逃す手はないと思っています」

過去を振り返れば、吉田氏は大学卒業時、強豪社会人チームのスカウトをすべて断って、当時ラグビー部が発足したばかりの伊勢丹に入社。同社ラグビー部をトップリーグへと押し上げた。また、明大ラグビー部監督でも、就任4年目にしてじつに14年ぶりとなる対抗戦優勝をもたらした。新しい境地に果敢に挑戦し、「やると言ったら絶対にやる」。それが吉田氏のラグビー人生だ。